上 下
1,010 / 1,903

シュットラウルさんの寛ぎ空間

しおりを挟む


 ヒミズデマモグ討伐後、中央棟に戻って来たら物凄く寛いでいる様子のシュットラウルさんがいた。
 この空間……空間と言うには遮るものもなく、見晴らしが良すぎるけどそれはともかく。
 この空間には執事さんやメイドさん、大きめの丸テーブルに真っ白なテーブルクロス、さらに香り高いお茶……貴族なんだなぁと実感できるほど、ハイソな空間になっていた。

 農地予定の場所で広がる空間として、相応しいのかは微妙だけど……というか、テーブルとか椅子とか、どこから持ってきたんだろう? 安置所を回っている時は持っていなかったはずだけど。
 そういえば、いつの間にか昼食時に用意されていた、テントなどの荷物もなくなっている。
 まぁ、ヒミズデマモグと戦っているうちに、用意したんだろうけどね。

「リク殿、改めて礼を言わせてもらう。アダンラダ、ヒミズデマモグと立て続けに魔物を討伐してくれて、感謝している。おかげで兵士に怪我もない」
「いえ、シュットラウルさんやアマリーラさん達も協力してくれましたから」
「……私達がいなくとも、リク殿だけで十分だったように思うが……その言葉は受け取っておこう」

 椅子に座り、執事さんが用意してくれたお茶を一口飲んだ後、シュットラウルさんから改めてお礼を言われる。
 でも、俺一人で全てをやったわけじゃないからなぁ……。

「とりあえず、予定していた農地の処置は終わって、後は確認を残すのみ。まぁ、作物を作るのはこれからだがな。結界の境目とやらもわかるようにしておかねばならん」
「そうですね……あとは、順次他の農地もハウス化していくだけです。今回の事で慣れたので、次からはもう少し早く終わらせられそうです」

 例えば、フィリーナがクォンツァイタの魔法具化をしている間に、俺が探知魔法を使って魔物がいたら討伐しておくとかかな。
 兵士さん達を先に結界を確認しやすい位置にいてもらったり、魔法具化そのものも早く済ませられたりとか……大きく時間が変わるかはともかく、今回よりも時間がかかる事はそうそうないと思う。
 何か問題があれば別だけど。

「では、センテ周辺の村と連絡を取り合って、リク殿が赴く農地を決めねばな。あと、兵士の訓練もだ」
「あ、それなんですけど……」

 訓練と聞いて思い出した。
 モニカさんやソフィー、ユノが今調べてくれているセンテ南での魔物発生について。
 任せっきりにはできないから、訓練やハウス化だけに集中するわけにはいかない。
 昨日のお風呂で話しておけば良かったんだけど、姉さんの話で長話しちゃったからね……あれ以上いたら、エルサだけでなく俺やシュットラウルさんものぼせてしまっていただろう。

「モニカさんやソフィーが、冒険者ギルドの依頼を受けているんです……」
「ふむ、そういえば今日、モニカ殿達は冒険者ギルドからの依頼のため、同行しないと言っていたな?」
「まぁ、農地のハウス化では直接やれる事もないからでもあるんですけど。俺もそちらに参加したいので、訓練にかかりきりになれそうにありません」
「リク殿が参加しなければいけない程の、依頼内容なのか? いや、元々訓練への参加もつきっきりでなくても良いとの条件だったのだ、それは構わないがな」

 出発前、見送りにきたモニカさん達が同行しない理由について、冒険者ギルドからの依頼とシュットラウルさん達には説明していた。
 調査依頼の内容とかは、シュットラウルさんになら大丈夫だろうけど、詳細の説明をする時間もなかったからね。

「いえ、まだどうなるかはわからない依頼内容です。調査の依頼なので、調べてみて大変な事がわかるかもしれませんし、大した事がないかもしれません。ただ、全部を任せておくというのも……俺も一応、冒険者ですから」
「成る程な。共に行動する仲間に任せるばかりではいかんか……了解した。できるだけ訓練に参加して欲しい、と思うのはこちらの考えだ。リク殿は自由に動いてくれて構わん」

 訓練の参加に関して調整してくれるのを、シュットラウルさんは快く頷いてくれた。
 苦笑はしているけど、渋ったりする様子はないのでありがたい。

「ありがとうございます。一度受けた後で調整をお願いしてしまって……」
「いや、気にする必要はない。しかし、調査の依頼か……という事は冒険者ギルドからの指名依頼だろう? 依頼内容を聞くのは、するべきではないのだろうが……」

 シュットラウルさんが気になるのは、調査依頼だからだろうか。
 調査をするのは、信頼されている冒険者パーティに限られる……基本的には指名依頼になるので、主にモニカさん達が調べてくれているけど、俺が受ける依頼がどんなものなのか気になるんだろう。
 依頼内容は本来、守秘義務が課せられて誰かに漏らすのは禁止されている。
 ただし、調査の依頼の場合調べるうえで情報を得るために、ある程度こちらから誰かに話をするのは認められていたりする。

 討伐依頼だと、他の人に横取りされたり利用されたり……色々とあるらしいけど、調査の場合は聞き込みが必要になる事もあるからね。
 こちらから何も話さないのに、情報提供だけを求めても上手くいかない事が多いから、という判断だ。
 まぁ、調査のやり方にもよるだろうけど……。
 とにかくシュットラウルさんが、聞きたそうにしながらも躊躇しているのは、それが原因だと思う。

「そうですね……依頼内容を全部は話せませんけど、センテの南がちょっと気になる事になっているようです」
「無理を言ってすまない。ふむ、センテの南か……もしや、魔物が多くなっている事か?」
「はい。シュットラウルさんも知っていましたか」
「センテに来てから報告された事だが、一応な。普段は国内や領内を見ている必要があるので、街一つ一つに起こった事などは、確実性が高い事柄しか報告されない。だが、滞在している街の事くらいはな」

 センテの南、というだけでおおよその事を察してくれたシュットラウルさん。
 どうやら、魔物が多くなり討伐しても数が減って行かない事を、既に知っていたようだ。
 ちらりと、近くで待機している執事さんやアマリーラさんを見たので、あの人達が調べた事なのかもね。

「珍しい魔物が発見されたり、冒険者に依頼を出して魔物の討伐をしても、数が減らないんだそうです。数そのものは、まだ大量と言う程ではないみたいですけど」
「らしいな。……リク殿と街近くの魔物か。いや、繋げて考えるのは失礼だろうし、リク殿は解決してきた側だが……他の街や王都で起こった事と、関係があると思うか?」
「いえ、それはまだ……ですけど、可能性はあるかもしれません。だからこそ、依頼を受けて調べて見ようと考えたんです」

 確かに、俺が行った先で魔物が大量に集まり、押し寄せてきているから繋げて考える事もできるんだろう。
 偶然なのは間違いないし、ルジナウムでは俺が行く前から魔物が集結していたからね。
 事を起こしている側が、俺のいる時を狙っているわけでもないはずだ……そもそも個人を狙うような規模じゃないし――。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...