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獣人の傭兵
しおりを挟む冒険者が少ない時間帯、ギルドの建物の中で軍服のようなきっちりとした服装をしている女性二人。
ソフィーの言う通り、冒険者には見えない……冒険者だったら、もう少し汚れている服だったり、革の鎧や武器などの装備をしていたりするからね、俺達もそうだけど。
さらに、二人を見たフィネさんが、女性達の服の肩部分に侯爵家の紋章を発見。
あれ、紋章なんだ……何か絵というか記号の組み合わせのような、刺繍がしてあると思ったけど。
ともかく、シュットラウルさんからの使いだから、俺を探してキョロキョロしているのだろう。
こちらから近付いて声をかけようかな……と思っていたら、女性のうち背が高い方と目が合った。
「あ、リク様!……ですよね?」
「おっと……はい、そうですよ」
すぐに、満面の笑みになった背の高い女性は、俺へと駆け寄りながら声をかけてくる。
やっぱり、俺を探していたんだね。
背の高い女性は、近くで見ると俺が見上げるくらいの身長があり、おそらく二メートル前後はありそうだ。
「こら、リネルト! 申し訳ありません、リク様。リネルトが失礼を……」
「いえいえ、ただ見つけて声をかけてくれただけですから」
後ろからもう一人の背が低い方の女性……先に声をかけてきた女性の、胸くらいまでしか届いておらず、俺が見下ろすくらいの身長。
その女性が駆け寄り、俺に声をかけた女性を叱りつける。
「さすがリク様、お心が広い。――リネルト、お前はもう少し落ち着きを持てと、普段から言っているだろう!」
「ふぇ~……アマリーラ様に怒られました……」
怒っている背が低い方の女性がアマリーラさんで、切れ長の目をした、厳しそうな印象を受ける。
背の高い方の女性はリネルトさんで、頭を押さえて落ち込んでいる……どこかおっとりとしている雰囲気が感じられる、かな。
「失礼しました、リク様。私はアマリーラ。こっちのはリネルト。共にルーゼンライハ侯爵様に仕えております」
「リネルトです。よろしくお願いしますね~」
「はい、リクです。こちらこそよろしくお願いします」
駆け寄って来たかと思ったら、怒ったり落ち込んだり……ちょっと目まぐるしい女性二人のやり取りを見ていると、気を取り直したアマリーラさんが自己紹介。
頭から生えている耳は垂れており、尻尾は長めだけど今は地面に向かって垂れさがっている……柔らかそうな毛に包まれて、さぞモフモフし甲斐がありそうだ。
アマリーラさんと一緒に自己紹介した、背の高いリネルトさんは、見上げる程の身長のために近付くと耳が見えなかったけど、頭を下げるとよく見えた。
身長もそうだけど、胸部にも大きなものを持っているせいなのか、総じて大柄な印象を受けるリネルトさんの耳は、小ぶりでピンと伸びて忙しなく動いている。
尻尾は細長く、先に少しだけモフっとした毛が付いていて、耳と同じくこちらも忙しなく動いていた。
やり取りからすると、アマリーラさんの方が上司でリネルトさんが部下、かな?
二人の自己紹介を受けて、俺も同じように名乗り、モニカさん達の事も紹介する。
「不躾ですが、お二人は侯爵家の騎士なのですか? ルーゼンライハ様は騎士団を作ってはいないとお聞きしているのですが……いえ、お二人の身のこなし、只者ではないと思いまして」
「私達は騎士ではありません。ルーゼンライハ侯爵家に仕える者なだけで、兵士ですらありません」
「そうなんです~。私兵? とはちょっと違うのですかね~。軍には所属せず、シュットラウル様に直接雇われているんですよ~。傭兵に近いんですかね~?」
「傭兵……ですか」
お互いの自己紹介が終わった後、フィネさんが二人に対して質問。
確かに、二人共姿勢が崩れないと言うか、体幹がしっかりしているというか……厳しそうなアマリーラさんはともかく、リネルトさんの方も起こられて落ち込んだりしても、態勢が崩れていないように見えた。
さすがに、俺じゃ身のこなしが他の人とどう違うのか、とまではわからないけど。
「私達は獣人で、他国から流れてきたのです。そのような者が、国の正規兵にはなりにくく……冒険者になる者もいれば、傭兵になって雇われる者に別れます。戦える者だけですが。幸い、この国は獣人にも優しいのです」
「侯爵様は~、私達が獣人や傭兵で正規兵でなくても~、重宝してくれるんですよ~」
そういえば、王城内でもそうだけど兵士さんの中に獣人を見る事がなかったっけ。
エルフはまぁ、最近まで表立っての交流が少なかったから、当然としても……獣人は街中でもよくすれ違ったりするし、働いている人も多いのに。
元々、獣人自体が他の国から来た異種族だから、って事かな。
「アテトリア王国は人間が治める国ですが、獣人やエルフも受け入れる度量の広い国ですから。失礼しました、不躾な質問を」
「いえ、構いません。何やらきな臭い状況になりつつある今、見極めるのは大事な事です。では、リク様方、宿の用意がされておりますので、ご案内させて頂きます」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「は~い、よろしく案内させてもらいますよ~」
「こらリネルト! だからお前はその緩い話し方を改めろと……!」
フィネさんが納得して謝るのに対し、アマリーラさんは澄ました表情のまま答える。
そうして、アマリーラさんに促されて、シュットラウルさんが用意したらしい宿屋へと向かう俺達。
道中では、ちょっと気の抜ける間延びした喋り方をするリネルトさんは、アマリーラさんに叱られても答えていないようだったけど。
アマリーラさんは厳しそうな雰囲気と見た目だけど、この様子を見ている限り悪い人ではなさそうだ。
「二人共、北東にある国から来たんですね」
「はい。私達は流れ者ですが、この国の居心地がいいため今では居ついている状態です」
宿に向かいながら、アマリーラさん達から話を聞く。
なんでもアマリーラさん達は、アテトリア王国から北東……いくつかの国を越えた先にある、獣人が支配する国から来たんだそうだ。
帝国からとかじゃなくてホッとしたのは、アマリーラさん達には内緒だ。
獣人の中には、他国へ行く一団が結構いるらしく、アマリーラさん達もそうなのだとか。
この国にいる獣人も、その国から来た人もいれば他の国から流れてきた獣人もいて、国民になって何代にもわたって生活している獣人も多い。
俺が見た事のある、お店で働いていた獣人さん達は長くこの国で生活している人達なんだろう。
ただ、そうして他国へ行く獣人が増えると、国の人口が減らないかな? と思ったけど、獣人は出生率が高いため、国土に収まっていると溢れてしまうためだと言われた。
獣人自体が、広い領土を収めようとする人が少ないらしく、国土に対して人口が増え過ぎるので、他国へだしているとかなんとか。
そのあたりは国の政策になるんだろうね。
ちなみに、アマリーラさんが犬系の獣人で、リネルトさんが牛系の獣人らしい……リネルトさんが自慢そうに教えてくれた。
印象的に、アマリーラさんは軍用犬みたいな凛とした雰囲気だったんだけど、歩きながら話している途中にも、モフモフの尻尾が揺れていてそちらに気を取られて、話しに集中するのが大変だった。
頭にくっ付いているエルサが、ギリギリと俺の頭を締め付けていたりしているおかげで、なんとか手を伸ばさずに話せたけど――。
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