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暇つぶしに鞄屋さんへ
しおりを挟む俺が戦う際の躊躇や手加減とかは、そのうち考える事にして……フィネさんが言うように、人間を相手にする、戦争を経験する際に見てしまう場面の問題だ。
姉さんが一番問題視していたのは、この部分だと思う……参加せずに離れていれば見なくて済むし、見ない方がいい事なのかもしれない。
覚悟を決めて戦争に参加するのであれば、見るのは当然だし見なければいけない事……。
上機嫌にエルサの手……前足を掴んで上下させたりして遊んでいるユノを余所に、四人でそれぞれ戦争の想像をして溜め息を吐く。
どうしても、俺の想像の中には戦車とか戦闘機とか、機関銃なども登場してしまうけど。
それはともかく、想像できる範囲で想像しながら、かなり遅い時間までモニカさん達と話し合った。
さすがに、今回だけで参戦するかどうかの決定はできなかったけど、話せる人がいるだけで少しは気持ちが楽になるものだね。
あ、ちなみにクランに関しては、マティルデさんの話を受けて作る方向でまとまっている。
あとは、マティルデさんに話して戦争への参加とクランは別で考えさせて欲しい……と相談させてもらうくらいかな――。
――二日が経って、次善の一手を練習するモニカさん達とは別に、エアラハールさんからの訓練を終えた後、夕食までちょっと暇になったので、城から出て町を散策。
エルサを頭にくっ付けていても、見られたり話しかけられたりはするけど、以前のように人が群がって来ないので自由に動ける。
「あら、いらっしゃいリクちゃん! お久しぶりねー!」
「ゲオ……じゃなかった、ララさんこんにちは」
今日は俺とエルサだけの散歩だから、見知らぬお店に入る気にもならず、なんとなく通りがかったゲオルグさん……魂の名前らしいララさんのお店を訪ねてみた。
以前来た時と変わらずお客さんが入っていない……お店として大丈夫なのか、ちょっと心配だ。
入ってすぐ、暇そうにしていた店主のララさんが、俺達が入って来たのに気付いて歓迎モード。
女性っぽい話し方にスキンヘッドと髭という、相変わらず濃い存在感の人だなぁ。
「今日はどうしたの? リクちゃん一人のようだけど……」
「私もいるのだわー」
「あらあらごめんなさい、エルサ様もいたのね」
「あはは、まぁ特に用があるわけじゃないんですけど、ちょっと暇だったので。迷惑かもしれませんが……」
「リクちゃんを迷惑だなんて思わないわよ。……そんな風に思う店や店主がいたら、私が投げ飛ばしてやるわ!」
「さすがに投げ飛ばすのは……ははは……」
目的もなくぶらぶらしているだけで、ちょっと寄ってみようとも思ってララさんのお店に入ったけど、冷やかしのように思われて迷惑かもしれない。
そう思っていたら、ララさんが袖をまくって二の腕の力こぶを誇示し、息まいている。
ヴェンツェルさんやマックスさん程ではないけど、それなりに筋肉が付いている腕は、そこらの人なら簡単に投げ飛ばせそうではある。
あるけど……女性っぽさを出そうとしているのに、それでいいのだろうか?
「そういえば、前回買った鞄は活躍しているかしら?」
「はい、エルサやユノも喜んで使っていますよ」
「……まぁまぁなのだわ」
前回ララさんのお店で買った鞄……ワイバーンの皮を使った、がま口リュックとかだね。
エルサは俺の頭にくっ付きながらも、背中にちゃんとリュックを背負っているので、それを見て思い出したんだろう。
あまりにもリュックを背負うのに慣れ過ぎて、そのまま大きくなってしまいそうになった事はあるけど、今のところ破れたりなどの事はなく、丈夫で助かっている。
「エルサ様にも褒められて嬉しいわぁ。できれば、もっと丈夫で可愛い物を作りたいわねぇ……ワイバーンに限らずだけど」
「ワイバーン以外に、鞄の素材になる物ってあるんですか?」
「基本は、布のを張り合わせて丈夫にした物や、動物や魔物の皮をなめして革にした物を使うわね」
「動物や魔物の皮……それって、ウルフとかもですか?」
皮と聞くと、俺としては牛や馬とかが思い浮かぶけど……魔物もってなると、ウルフとか獣と同じ見た目の魔物の皮も使えるのか気になる。
「ウルフは、使えない事はないけど素材としては安物になるわね。ただ、数が多くて皮も大量に取れるから、革鎧なんかにはよく使われているわ」
「へぇ~そうなんですね……」
ウルフの皮は柔らかくて加工がしやすいため、数が多い事もあって安めの素材らしい。
他にもララさんから話を聞くと、色んな魔物から皮を素材として剥ぎ取り、加工して革製品とすると聞いた。
獣系の魔物もそうだけど、高値が付くのは蛇系だったりリザードマンのような爬虫類系。
理由としては、加工のしやすさとかよりもその皮を使って作った物の丈夫さにあるらしい。
小さめの魔物や下手な剥ぎ取り方だと、取れる皮が小さい物しかなく、継ぎ合わせて使う事しかできない分耐久力が劣るとか。
蛇や爬虫類系の魔物は、上手くはぎ取れば一枚皮として面積の広い物が取れるらしく、継ぎ接ぎしなくてもいい素材で、さらに皮そのものが頑丈だとの事だ。
リザードマンとかは、表面がぬるぬるしていて剣が滑りやすいという特徴があるけど、実際にウロコが付いている皮は硬いんだそう。
あと、蛇系は倒し方にもよるけど、皮を剥ぎ取りやすくて大きな一枚皮を取りやすいとか。
「まぁ、蛇系を斬って倒すのではなく締めて倒す必要があるから、ちょっと難しいのよ。一枚皮は複数に切り分けられた皮と同じ量でも、倍近い値段が付く事があるわ。大きければ大きい程いいわね」
「刃物を使わずに倒すのって、難しそうですからね」
「加工のし易さや、その後の革にした時の丈夫さも違うのよねぇ。あ、そうそう、これなんかは一枚皮を加工して作った物よ?」
「蛇革の小物入れ、ですか?」
教えてもらいながら、商品棚から商品を一つ持って見せられる。
手の平に乗るサイズのそれは、波打っているようなウロコ模様で見るからに蛇革とわかる物だ。
金貨などのお金や、小さい物を入れられる革袋といったところだろう。
「そうね。これは一枚皮と言っても、小さな物だからこの程度だけど……それでもこの値段よ?」
「……金貨一枚。確かに、高いですね」
金貨一枚あれば、旅に必要な物を入れる大きな袋だけでなく、食糧も含めて買い揃える事ができるくらいだ……テントとかを買えば、もう少しかかるけど。
小さな物しか入れられない袋としては、かなり高い値段だろう。
「まぁ、これくらいになると一部のもの好きの道楽で変われる事が多いわね。あとは、冒険者とか丈夫な物を欲しがる人向けね。それでも、お金を持っている高ランクの冒険者くらいしか買えないけど」
「そうですね……」
「といった具合に、魔物や動物の皮は加工した品っていうのは、高値が付く物もあるけど多くの物に使われているわ」
高い物は裕福だったり一部の人にしか買えないか……そりゃそうだ。
まぁ、ララさんが見せてくれた商品とか、見た目や見栄のため以外で考えれば、必需品というわけではないからね――。
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