953 / 1,903
姉からの反対
しおりを挟むモニカさん達も練習を切り上げたんだし、新兵さん達に挨拶して夕食のために部屋へ戻る事にした。
エルサの騒ぐ声に促されて、皆でヒルダさんのいる訓練場の出入り口へと向かう。
ヒルダさんから声をかけて来ない事を考えると、少し余裕がありそうだし、急な用事とかではないはずだけど、あのまま待機してもらうのも悪いからね。
……あと、決してケチだからキューをあげなかったとかではない。
冒険者ギルドからの帰り道で、ちゃんとキューをあげて食べさせていたし……。
「……というわけで、冒険者ギルドからクランを作らないかって持ち掛けられたんだ」
「成る程な。クランを冒険者が作るのは聞いた事がある。アテトリア王国では、冒険者ギルドと連携をしているからほぼいないようだが……まぁ、国側から働きかけたり冒険者を利用するとかではなく、情報交換程度はしていて、役割分担をする程度ではあるが」
用意された夕食を食べながら、訓練場でやっていた次善の一手の話や、マティルデさんからクランの話をされた事を姉さんやエフライムに話す。
エアラハールさんは訓練場から戻った時には、すでに起きて町に行ったらしいからこの場にはいないけど、持って帰った魔法具を見ているらしいアルネ以外、フィリーナも含めて皆がいる。
次善の一手の話は、日頃の兵士訓練の合間に課す事で兵士さん達の能力を底上げする案として、姉さんとエフライムは概ね歓迎してくれた。
「ギルド側も思惑があるのだろうが、戦争にしろなんにしろ、リク達が戦力になるのは心強いな。それに、ギルドとの問題も内容であれば尚更だ」
「ははは、まぁクランを作る事に決めて、参戦するならだけどね」
「……」
「姉さん?」
クランの話に、エフライムは聞いた事があったようで、頷いて歓迎する様子。
とは言っても、まだクランを作るとは決まったわけじゃないし、そのための相談として話しているんだけど、エフライムは賛成のようだ。
そんな中、夕食を食べ終わった姉さんが腕を組んでジッと何かを考えている。
いつもなら、こういう話には前のめりに参加するはずなんだけど……何か気になる事でもあるのだろうか?
「……りっくん」
「何、姉さん?」
目に力を込めているのか、真剣な視線を向けて俺を呼ぶ姉さん。
この場には、俺や姉さんの事情を知っている人達しかいないので、お互い気を付ける必要もなく、以前からの呼び方をする。
「私は反対よ。りっくん達が、協力してくれる方法を考えてくれているのは嬉しいけど……」
「姉さんは、俺がクランを作るのに反対なんだ……まぁ、確かに俺がクランを作って人をまとめるのは、向いていないかもしれないけど」
昔から俺の事を知っている姉さんからすると、クランとかを作って俺が人をまとめたりするのには向いていない……とか考えていてもおかしくないかもね。
俺自身、モニカさん達と一緒のパーティを組んで、リーダーを任されているのですら不向きだと思っているくらいだから、近くで見てよく知っている姉さんからすると、特にそう感じるんだと思う。
数人くらいなら背伸びをしてなんとかだろうけど、十人……十数人や数十人と数が多くなっていくごとに、人をまとめる事の難しさが増すだろう。
「……いいえ、そうじゃないわ。クランを作るのがりっくんに向いているとか向いていないとか、そういう事じゃないの。それに、クランを作る事そのものに反対するわけじゃないわ。りっくんにもいい経験になるだろうし、ここにいる皆以外にも慕われている様子を見れば、むしろ向いているとさえ思うわ」
「え……それじゃ、何に反対なの姉さん?」
「……戦争よ」
「戦争……つまり、俺がクランを作って戦争に参戦する事には、反対って事?」
「えぇ……」
厳しい目を向けて頷く姉さん。
この視線はまだ日本で姉さんといた頃に、何度か向けられた覚えがある。
俺がいたずらしたのを叱る時、遊びたくて勉強を嫌がっていた時などなど……俺に対して何かを諭したり教えたりとかに向けられていたと思う。
大体は、教育というか俺を成長させるためだったはず……まぁ、それもあって姉さんに逆らえない弟ができ上がった要因の一つでもあるんだけど。
「ですが陛下、冒険者が参戦してくれれば、戦力の向上に繋がります。冒険者は魔物との戦闘経験も豊富なので尚更です。それに、リク達がいてくれれば魔物だけでなく、帝国の軍勢も蹴散らして……」
「黙って……いや、黙れエフライム」
「は……はっ! 申し訳ありません……」
参戦に対して反対な姉さんを説得するためか、俺が冒険者を集めたクランとして参戦した場合の利点を話すエフライム。
しかし、途中でその話を遮った姉さんがエフライムを睨み、女王様モードになって強く言葉を止めさせた。
俺の部屋でリラックスした状態の姉さんなら、それでも話せたんだろうけど……覇気というのか、女王様モードになった姉さんから迫力のようなものを感じる。
エフライムはそんな姉さんに押されて、一瞬戸惑った様子だったけど、すぐに頭を下げて引き下がった。
「……」
急な女王様モードに、静まり返る部屋の中。
しかもイライラというか、不機嫌な様子にまでなっているので誰も発言できない。
まぁ、目の前で女王陛下が不機嫌そうにしながら眉根を寄せ、威圧感のようなものを発していたら、こうなるのも当然か。
……こういう時、話せるのは俺くらいだろうなぁ。
あんまり気は進まないけど。
というより、姉さんがどうして反対して、不機嫌になっているのかがわからない。
エフライムの言う事はもっともで、冒険者は魔物と戦う事が多いため兵士達よりも経験豊富なのは間違いない。
そもそも、帝国が魔物を使う可能性を考えた際に、冒険者と協力できないか……みたいな事も考えていたのに……いやまぁ、俺が含まれるからの反対なんだろうけど。
とはいっても、俺やモニカさん達、ユノやエルサも加わる事でかなりの戦力になるのは間違いないはずなのに……今更、俺一人加わってもほぼ戦力にならない、なんて言う程ボケてはいない。
……自覚するのが遅すぎる、というのもまぁ……うん。
「ね……いえ、陛下。反対する理由を、教えてもらえませんか? その……エフライムの言葉ではありませんけど、協力する事で助かる人が多いと思うんです」
誰も言葉を発せられないので、仕方なく俺が代表して姉さんに聞く。
聞きたいのは皆同じだろうから。
クランを作るべきかどうかを迷う俺に対して、姉さんは参戦する事に反対……そもそもクランを作らなくても、俺は参戦する方向で考えていたから、クランは関係なく理由を聞いておかないとね。
「そうだな、話しておかないといけないか。いや……すー……はぁ……そうね。りっくんには話しておかないとね。ヒルダ、エフライム。モニカちゃん達もだけど……ちょっとりっくんと二人で話したいから、席を外してくれるかしら?」
「畏まりました……」
厳しい視線の姉さんを見返す俺に頷き、深呼吸して女王様モードからリラックスモードになった姉さん。
まだ、少しだけ余韻というか、覇気のようなものは残っているけど……これは厳しい表情を姉さんが崩していないからかもしれない。
ともかく、俺以外の人の退室を促す姉さんに、ヒルダさんやエフライム、モニカさんやソフィー達も頷いて、部屋を出て行く。
皆夕食を食べ終わっていたので、宿に戻ると言ってユノも連れて行ってくれた――。
10
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる