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リクのお試し次善の一手
しおりを挟む「相変わらず、錆びでボロボロだなぁ……よし!」
刃こぼれもしているし、今更ながらにこれでよくエクスブロジオンオーガを斬れていたと思うくらい、ボロボロな剣。
どうしてもの時は黒い剣の方を使うけど、こちらの剣を使うイメージを固めるのも必要だろうし、と素振りを開始する。
「ふっ……ふっ……ふっ……」
「ふわぁ~、だわ……リクじゃないけど、私も暇なのだわ~」
短い呼気と共に剣を振る……素振りに集中していると、近くからエルサのあくびと呟く声。
床に降りたエルサは、足というか後ろ足を投げだして座っている……ちょっとおじさんぽいのは、言わない方が良さそうだ。
「そう、だわー。いい事を思いついたのだわ」
「ふっ……ふっ……ん?」
「リク、リク。ちょっとこれに向かって剣を振るのだわ?」
「それ……俺が置いてた鞘じゃないか……そんな事をしたら、こっちの剣が折れるだけだろ」
何かを思いついたらしいエルサから声をかけられ、素振りを中断してそちらを見てみると、剣を抜いた後の鞘を縦に持っていた。
剣を抜いた後近くに置いていたんだけど……鞘に向かって俺が持っている剣を振ったら、折れる未来しか想像できない。
鞘ってのは当然丈夫にできている、筒状になっているから脆い部分もあるにはあるけど……剣と違って乱暴に扱ったりしない分、手入れされているので綺麗な状態だ。
納めるはずの剣はボロボロでも、鞘の方は特に目立った傷もない……まぁ、元々訓練に使う剣の鞘だから、外に持ち出す事はなかっただろうからね。
そんな鞘に強い衝撃を当てたら、簡単に折れそうな剣を振れば、当然剣の方が折れてしまうだろう。
エルサは、剣を折る所が見たいわけじゃないとは思うけど……。
鞘の方は……剣以上に代わりがあるようなので、本当に斬れても大丈夫なんだろうけど。
使わなくなって破棄した剣の物なのか、保管場所には納める物のない鞘が転がっていたからね。
「剣を折らずに、これを斬るのだわ。リクは力任せに剣を振る事が多いから、考えて当てれば大丈夫なのだわー」
「確かに力任せにって事が多いのは否定できないけど……どう考えても、硬そうな鞘に剣を当てたら折れると思うんだけどなぁ……」
エルサが何を言いたいのか……というかさせたいのか。
考える俺に、ヒントを与えているつもりなのか、目線が時折モニカさん達の方へ……。
力任せに剣を鞘に当てれば、良くても剣と鞘の両方が壊れる。
悪ければ剣だけが折れて、鞘は傷が付くくらいか……モニカさん達がやっているのは、次善の一手という武器に魔力を這わせる技。
力任せではなく、考えて振れという事はつまりあれと同じ事をやれと言っているようにも思える。
確か次善の一手で魔力を武器に這わせると、斬れ味が鋭くなるのと一緒に、武器そのものの耐久度が上がるというか、頑丈になるみたいな事も言っていたっけ。
実際には、這わせた魔力がものに触れる事で、武器への衝撃などが緩和される……と俺は考えているんだけど。
そういえば、エアラハールさんが最前の一手を使ったら、木剣も簡単にボロボロの剣で斬れていたなぁ。
ユノ曰く、エアラハールさんが無意識に魔力を使っているから、とも言っていたか。
「はあ、わかったよ。それじゃちょっとやってみる。でも失敗したら……折れた剣先が飛んで危険だぞ?」
「それくらい当たっても平気なのだわ。もしもの時は結界を使うのだわ」
「まぁ、結界があれば怪我をする事もないか」
元々エルサはモフモフだから、多少剣が当たっても毛が受け止めるだろうからな……モフモフが損なわれる可能性も考れば、安心はできないけど結界を使うのなら万全だ。
「それじゃ……えっと、剣に魔力を這わせるんだったか。ん……」
集中して、意識を持っている剣に注ぐ。
最近、魔力を放出するのには慣れてきている……クラウリアさんを脅すためだけど。
おかげで、魔法を使うわけではないのに、体にある魔力を外に出すイメージは簡単だ。
あぁ、成る程……ユノが言っていた「スッと行って、モヤァッと」ってのはこの事か……魔力を手から出汁て武器を這わせてって事らしい。
感覚的な事だから伝わりづらいけど、実際にやってみるとその通りなんだと納得。
これならモニカさんも、すぐに感覚を掴めるだろう……もう少しわかりやすい方がいい、と思うのは変わらないけど。
ともかく、感覚を頼りに手から放出される魔力の制御を離さず、そのまま持っている剣を伝わせる。
剣の形はよくわかっているので、頭の中に浮かぶイメージの剣と実際の剣を擦り合わせながら、柄から鍔(つば)へ……そして剣身へと這わせていく……。
「……こんな感じかな? よし、それじゃ行くぞエルサ!」
「ちょ、ちょっと待つのだ……」
「せい!」
「ぎゃーだわ!」
感覚的にも『視覚的』にも、魔力が武器を張っている状態なのを確認……ちょっと多くて覆っているようにも見えるけど、ボロボロの剣が折れないためにはこれくらい必要だろう。
準備完了とばかりに剣を構え、エルサが縦に持っている鞘に向かい、右から左に横薙ぎで剣を振る。
何やらエルサが言っていた気がするけど、魔力の維持や折れないように集中するのでそちらを気にしていられない。
そうして、少しだけ手応えというか、途中引っかかりと衝撃が手に伝わりながら、剣を振り切る事ができた。
折れたらもっと強い引っ掛かりや、別の衝撃を感じるだろうから、成功したんだろうけど……どうだろうか?
そういえば、エルサの悲鳴のような声が聞こえた気が……?
「あれ、エルサ、なんで後ろに転がっているんだ? 鞘は……斬れているのか、成功だね」
「そうだったのだわ、リクが加減なんてできるわけがなかったのだわ。暇で眠いからって、忘れていたのだわ……」
振り切った剣を戻しながらエルサを見ると、鞘を持って座っていたのが後ろに転がっている状態だった。
鞘そのものは半分になっているから、成功だとは思うけど……エルサが後ろに転がるって? 魔力を剣に這わせる事に集中していて、剣が鞘に当たる瞬間とか見ていなかったな。
「……リクは、やっぱり加減とか調整っていうのを覚えた方がいいのだわ。初めての事だから、ある意味仕方ないのかもしれないけどだわ……はぁ、自慢の毛が刈られるところだったのだわ」
「エルサのモフモフが!?……見た所大丈夫そうか、良かった。でも、どういう事? 初めてで成功するかもよくわからなかったんだけど……」
「初めてだから、そっちにばかり集中していたのが原因だわ。リクは……」
エルサの毛が……と聞いて一瞬取り乱しかけたけど、見た感じでは以前ユノがエルサの毛先を斬ってしまった時のような事はなかった。
モフモフが損なわれる事がなくて一安心。
溜め息を吐きながら、転がったまま、鞘の先を抱くようにしながらプルプル震えつつ、どういう事かを説明してくれるエルサ。
震えているのは、もしかして怖かったとか……? いや、ドラゴンを恐怖させるほどの事は……鞘の切り口を見ると、ボロボロの剣で斬ったのが信じられないくらい滑らかだから、知らないうちにやり過ぎていたのかも――。
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