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まずはお試しの練習
しおりを挟む「戦闘が長引くようなら、あれくらいの事ができる程の魔力を使うのは、厳しいかぁ。でも、フィネさんはさっきまで新兵さん達と模擬戦をしていましたよね?」
「はい。先程までのは、途中から魔力をほとんど使っていません。余裕があれば、多少使う程度でしょうか……。あそこにあるワイバーンの鎧に対して、魔力を使い過ぎて一気に力が抜ける感覚があったので、それ以降は少しだけしか使っていません」
「成る程……つまりペース配分というか、使う状況によって魔力量を変える必要があるわけですね?」
「そうなります。私は魔力の扱いに慣れておらず、どれだけ使えるかまだわからなかったので、温存しました」
魔力だって、当然だけど無限じゃないし、その一瞬で使い切らなければすぐに回復するというものじゃない。
感覚的にだけど、丸一日で全体量の半分近くが回復するとかだろうか……?
しかも、回復に関しても動いている時よりも、休んでいる時の方が早く回復するような気がする……その辺りは、アルネ達に詳しく聞くか、調べてもらう必要がありそうだ。
なんにせよ、一度魔力を武器に這わせたらある程度持続はすると思うけど、打ち付けたり何かと当たれば魔力は分散すると思われる。
一撃や二撃に全力で魔力を込めて、それ以降は次善の一手が使えなくなるよりは、少量の魔力で継戦能力を考えた方がいいのかもしれない……状況によるだろうけどね。
戦争だと、長時間戦う事も考えられるから、最初に全力で使うわけにもいかないはず。
マラソン的にペース配分をするか、短距離走で全力を込めるか……って感じかな。
「まぁ、考える事は色々あるだろうが、とにかく試してみよう」
「そうよね、やってみないと……というか、まずは使えるようになる事を考えないとね」
そう言って、二人は監督していた兵士さん……ヴェンツェルさんと一緒にいるところを何度か見た事のある人……の所へ行って許可を取り、木剣や刃引きした槍がある場所へ。
試しに自分の武器以外でやってみるんだろう。
「木剣とかだと、斬れ味はわからなくても感覚くらいはわかるのかな?」
「魔力を這わせる、というのはわかると思うの。材質によって魔力が通りにくいとかはあるかもしれないけどなの。でも、這わせるだけだからほとんどの物でできるはずなの」
「魔力が通りにくいか……クォンツァイタとかは、通りやすいのかな?」
「あれは多分、蓄積する性質が強いから通すとは違うの。だから、通りにくい材質になると思うの」
モニカさん達が準備している間、少しだけユノと話す……フィネさんは座って休憩だね。
実際に使う武器とは違うから、次善の一手の練習になるのかちょっと心配だったけど、大丈夫のようだ。
魔力を通すのと這わせるのでは、内部と外部で違うんだろうとは想像できるけど、多くの魔力を蓄積できるクォンツァイタは通りやすい部類なのかなと考える。
すぐにユノから否定された……蓄積して放出する過程があるため、通すという意味では適していないかららしい。
まぁ、流れる川の途中にため池があると、その先に流れ出す道筋があっても一旦池に水が流れ込むわけだから、すんなり水が通るわけじゃない。
……と考えればいいのかな? 違うかもしれないけど。
「フィネさん、ユノちゃん。準備できたわ」
「はい、わかりました。それじゃ……私はソフィーさんに教えます。まだ完全とは言えませんけど、同じく魔法が使えない者として助言できるかと」
「助かる」
「私はモニカなの。魔法を使えて魔力の扱いに慣れているから、多分すぐわかるの」
「そうだといいんだけど……お願いするわ、ユノちゃん」
「……俺は……まぁ、見守っておくよ」
それぞれに木剣と刃引きされた槍を持って来る、ソフィーとモニカさん。
同じ魔法が使えないから、感覚を伝えるのに適しているだろうと、ソフィーにはフィネさんが。
槍だから難しいだろうけど、魔法が使えるので魔力の扱いは慣れているだろうと、モニカさんにはユノが教える事になった。
俺は、特にやる事もないから皆が練習するのを見守ろう――。
――三十分くらい経っただろうか、二人が徐々に次善の一手の感覚を掴み始めている様子。
「魔力は形が決まっていないので、剣を撫でるような感覚で……」
「こう、か……? うぅむ、単純に魔力を魔法具に注ぎ込むのとは随分違うんだな」
フィネさんが教えているソフィーは、魔力探査で調べていると少しずつだけど剣に魔力が這っているというか……覆い始めているのがわかる。
まぁ、放出する魔力が少し多かったり、不定形の魔力だから戸惑っているようではあるけど、もう少し慣れれば完成しそうだ。
あとは、それを攻撃する時などの戦闘中に自分自身や剣を動かしても維持したり、魔力を這わせる事に集中し過ぎなくなればってところかな。
「スッと行って、モヤァッとなったらピシッと止めるの」
「……成る程……えぇと、こうかしら?」
ユノが教えるモニカさんは、長い槍の穂先まで魔力を這わせるのに苦労している。
柄が長いから、離れた場所までというのが不慣れなんだろう……ユノの教え方も抽象的なせいもある気がする。
こちらは、ソフィーとは違って魔力が不定形な事にも慣れているようで、覆う程ではなく最低限の魔力を放出しているようなので、後は先まで這わせられればってとこかな。
もう少し、ユノがわかりやすい教え方だったら良かったんだろうけど……こういう事を教えるのは初めてだろうから仕方ないか。
「しかし、見ているだけってのは暇だなぁ」
「おやつにするのだわ?」
「起きてたのかエルサ。でもそれ、キューを食べたいからだろ?」
「キューはいつ食べても究極の食べ物なのだわー」
「はぁ……まぁ夕食までもう少しだろうし、おやつは我慢な」
モニカさん達の様子を見ている俺は、魔力探知で様子を見ているだけで、手持ち無沙汰だ。
暇だと呟くと、ずっと頭にくっ付いて寝ていたエルサが、いつの間にか起きていた。
俺におやつを食べて暇潰しをするよう進めているようだけど、自分がキューを食べたいからの提案なのは間違いない。
とりあえず夕食前なので、エルサなら問題ないだろうけどおやつはお預けしておいた……抗議するように俺の頭をペシペシ叩いているけど、気にしない。
「うーん……とりあえず、素振りでもしておくか。疲れすぎる程ならまだしも、鍛錬はやっておいて損はないからね」
「……離れておくのだわー」
新兵さん達は、休憩が終わってそれぞれに鍛錬を開始しているし、モニカさん達は次善の一手を練習するのに夢中。
俺も何かしておきたいと思ったので、一人でできる鍛錬の素振りをする事にした。
邪魔という程ではないけど、素振りをする時はエルサが落ち着かないらしく、頭から離れる。
「素振りだから、木剣じゃなくてもいいよね。それじゃ……」
エアラハールさんに言われて、最近はいつも携帯しているボロボロの剣。
木剣よりは重く、間違いなく真剣でもあるので、こちらで素振りをしようと鞘から抜いた――。
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