上 下
935 / 1,903

マティルデさんからの用があるらしい

しおりを挟む


「あ、そうだリク」
「ん?」

 さすがに口を挟んだり参加はできないなぁ……というよりするべきじゃないな、なんて思いながらヴェンツェルさんを見送った後、姉さんから呼ばれた。
 部屋にいるのが、俺と姉さんの事を知っている人だけになったので、りっくん呼びになっている。

「ヘルサルやエルフの集落に行っている間に、冒険者ギルドのマティルデって統括マスターがまた来ていたと報告があったわよ?」
「マティルデさんが? どうしたんだろう……?」

 以前も俺が王城を離れている間にも、マティルデさんが俺を訪ねて王城に来た事があったけど……どうしたんだろう?
 依頼はしばらく受けないと言ってあるのに、何か緊急で頼みたい事でもあるのかな?
 
「急いでいる様子ではなかった、と報告もされているから緊急ではないようだったけど……どうかしら、ヒルダ?」
「はい、リク様がお戻りになられているかとの確認がされました。対応した者からは、緊急ではないが確認に来たと窺ったとの報告がありました。陛下には、私から。あと、リク様がお戻りになられた際には、冒険者ギルドへ来て欲しいとの伝言も残されております」
「そうですか……マティルデさんが俺にって事は、緊急じゃなくても何かあったのかもしれません」
「統括ギルドマスターから直々に、という事は指名依頼でもあるのかもしれないな」
「そうね……リクさんは依頼受諾をしばらくしないとは言っているけど、リクさんにしか頼めないような事が起こったのかもしれないわ」
「王都には多くの冒険者が集っていますので、その中でもリク様にというのは、相当な事なのだと予想します」

 兵士さんか誰かが、マティルデさんに対応してそこからヒルダさん、姉さんへと話が伝わったらしい。
 緊急でないなら、急いで話を聞きに行かなくてもいいだろうけど、伝言までのしているんだから、近いうちに冒険者ギルドに行かないとね。
 ソフィーやモニカさん、フィネさんはそれぞれ、統括ギルドマスターが訪ねてきたとあって、急いでいないながらも重大何かが発生したと考えているようだ。

 まぁ、統括というだけあって、アテトリア王国内の冒険者ギルドではトップとも言える人だし、そんな人がわざわざ直接訪ねて来るというのは、それだけで重大な何かを想像させるね。
 とりあえず、明日か明後日にでも話を聞きに行ってみよう。

「まぁ、そちらはりっくんがそのうち行くからいいわね。それで……えっと、エルフの集落での研究はどうなったの?」
「そういえば、まだ全部は話していなかったね」

 報告というか、王城を離れてからの話ではクラウリアさんの事があったので、ヘルサルの事ばかり話していた。
 まだエルフの集落に関する事は話していないから、ハウス栽培を推進したい姉さんとしては、そちらも聞いておきたいんだろう。
 とは言っても、クールフトとメタルワームの事を話すだけで、問題なく技術提供の話はまとまったし、多く話す事はないけどね。

 あ、エルフの集落が人間を受け入れ始めている事は、話しておかなきゃいけないか。
 ちなみに、特に話に参加せず、ジッとアルネを注視しながら聞いているだけだったフィリーナは、自分達の故郷に関する話になったからか、身を乗り出している。

「リク、あの話もするの」
「ユノ? ……あぁ、そういえばそうだった」
「あの話……?」

 ユノから言われて思い出すのは、アルセイス様の事。
 首を傾げている姉さんには話すつもりだったし、ユノの事も知っているからいいんだけど……。

「えっと、全部じゃないんだけど……これからする話はできるだけ多くの人には、話さない方がいいと思う」
「それは、秘匿した方がいい話って事?」
「秘匿というか……話しても信じてくれるかどうか、といった類の話しかな? まぁ、信じる信じない以前に、できるだけ広めない方がいい話でもあるけど」
「そう。モニカ達は知っているの?」
「はい、陛下」
「私は王城にいたので……ですが、エルフにも関わる話のようなので、私は聞かせてもらいます。それに、アルネにも拘わる事のようですから」
「もちろん、フィリーナには最初から話すつもりだったよ」

 神様だとかの話になるから、ユノの事を知っていたり、異世界から転生した姉さんは信じてくれるだろうけど、他の人はどうかわからない。
 それに、重要情報ではあるけど多くの人に広める話ではないからね。
 姉さん達に話して、他に伝えるべき相手がいるのであれば、そちらに伝えてくれるだろうし……特にヴェンツェルさんやハーロルトさんのように、国の重要な役目を担っている人達とか。
 フィリーナには、エルフに拘わる事だから元々伝えるつもりだったので問題ないけど、さっきからアルネをジッと見ていたのはその目で見て、なんとなくでも察しているからかもしれないね。

「じゃあ、私達がどうするかね。私はもちろん、りっくんから話される事を誰彼構わず話す事はないけど……エフライムとヒルダは?」
「リクの話を、口外する事はしないと誓います」
「私は、身も心もリク様に捧げておりますので……」
「「「え!?」」」

 姉さんやエフライムなら大丈夫だろうと考えていたので、二人からの言葉は想像通りだったけど、ヒルダさんがとんでもない事を発言。
 声を出して驚いたのは、俺と姉さんとモニカさん。
 三人共、首を痛めるんじゃないかという勢いで、ヒルダさんに顔を向けた……というか、ちょっと首が痛い。

「ひ、ヒルダ……いつの間に……。それにしてもりっくん、手が早かったのね。確かにヒルダは美人だけど……」
「ひ、ヒルダさん? その、それは本当に?」
「いや、姉さんは変な納得の仕方をしないで。というかヒルダさん、色々お世話にはなっているけど何もしていませんよね、俺?」
「そのお世話の中で、りっくんがお世話になったのねぇ……男だもの、仕方ないわ」
「ちょっと姉さん、変な納得の仕方しない!」

 最初だけ戸惑って、妙に納得する姉さん。
 モニカさんは、驚いた表情のまま、ヒルダさんと俺に対して顔を行ったり来たりと忙しい。
 俺はそもそも身に覚えがなさ過ぎるので、言葉の意味を訪ねるのと姉さんを注意。

「あら、怒られちゃったわ。――それでヒルダ、さっきの言葉はどういう意味なの?」
「言葉の通りなのですが……私は、リク様に忠誠を誓っておりますので、そのリク様が他で話すなという事はならば、私から話す事はあり得ない、という事です」
「あ、そういう意味ですか……」
「はぁ……そんな事だろうと思ったわ。ヒルダは私が子供の頃から、王城にいたから……意外と世間知らずというか、変な発言をする時があるのよね。ズレているとも言えるのかしら? それにしてもヒルダ、貴女はそもそも私の侍女でしょ? りっくんのお世話を任せたのは私だけど……」
「はい。陛下とリク様は懇意……どころか姉弟とほぼ同義だと伺っております。ですのでリク様に仕える事も陛下に仕える事になると考えます。……まぁ、リク様に仕えている方が、陛下がおサボり申した際にそっと告げ口……もとい、働きかける事ができるかと」

 ヒルダさんの発言は、変な意味ではなく俺に仕えるとかそういう意味だったって事かな……まぁ、姉さんが言っている世間ズレに関してはともかく、モニカさんと一緒に納得した――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...