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マティルデさんからの用があるらしい
しおりを挟む「あ、そうだリク」
「ん?」
さすがに口を挟んだり参加はできないなぁ……というよりするべきじゃないな、なんて思いながらヴェンツェルさんを見送った後、姉さんから呼ばれた。
部屋にいるのが、俺と姉さんの事を知っている人だけになったので、りっくん呼びになっている。
「ヘルサルやエルフの集落に行っている間に、冒険者ギルドのマティルデって統括マスターがまた来ていたと報告があったわよ?」
「マティルデさんが? どうしたんだろう……?」
以前も俺が王城を離れている間にも、マティルデさんが俺を訪ねて王城に来た事があったけど……どうしたんだろう?
依頼はしばらく受けないと言ってあるのに、何か緊急で頼みたい事でもあるのかな?
「急いでいる様子ではなかった、と報告もされているから緊急ではないようだったけど……どうかしら、ヒルダ?」
「はい、リク様がお戻りになられているかとの確認がされました。対応した者からは、緊急ではないが確認に来たと窺ったとの報告がありました。陛下には、私から。あと、リク様がお戻りになられた際には、冒険者ギルドへ来て欲しいとの伝言も残されております」
「そうですか……マティルデさんが俺にって事は、緊急じゃなくても何かあったのかもしれません」
「統括ギルドマスターから直々に、という事は指名依頼でもあるのかもしれないな」
「そうね……リクさんは依頼受諾をしばらくしないとは言っているけど、リクさんにしか頼めないような事が起こったのかもしれないわ」
「王都には多くの冒険者が集っていますので、その中でもリク様にというのは、相当な事なのだと予想します」
兵士さんか誰かが、マティルデさんに対応してそこからヒルダさん、姉さんへと話が伝わったらしい。
緊急でないなら、急いで話を聞きに行かなくてもいいだろうけど、伝言までのしているんだから、近いうちに冒険者ギルドに行かないとね。
ソフィーやモニカさん、フィネさんはそれぞれ、統括ギルドマスターが訪ねてきたとあって、急いでいないながらも重大何かが発生したと考えているようだ。
まぁ、統括というだけあって、アテトリア王国内の冒険者ギルドではトップとも言える人だし、そんな人がわざわざ直接訪ねて来るというのは、それだけで重大な何かを想像させるね。
とりあえず、明日か明後日にでも話を聞きに行ってみよう。
「まぁ、そちらはりっくんがそのうち行くからいいわね。それで……えっと、エルフの集落での研究はどうなったの?」
「そういえば、まだ全部は話していなかったね」
報告というか、王城を離れてからの話ではクラウリアさんの事があったので、ヘルサルの事ばかり話していた。
まだエルフの集落に関する事は話していないから、ハウス栽培を推進したい姉さんとしては、そちらも聞いておきたいんだろう。
とは言っても、クールフトとメタルワームの事を話すだけで、問題なく技術提供の話はまとまったし、多く話す事はないけどね。
あ、エルフの集落が人間を受け入れ始めている事は、話しておかなきゃいけないか。
ちなみに、特に話に参加せず、ジッとアルネを注視しながら聞いているだけだったフィリーナは、自分達の故郷に関する話になったからか、身を乗り出している。
「リク、あの話もするの」
「ユノ? ……あぁ、そういえばそうだった」
「あの話……?」
ユノから言われて思い出すのは、アルセイス様の事。
首を傾げている姉さんには話すつもりだったし、ユノの事も知っているからいいんだけど……。
「えっと、全部じゃないんだけど……これからする話はできるだけ多くの人には、話さない方がいいと思う」
「それは、秘匿した方がいい話って事?」
「秘匿というか……話しても信じてくれるかどうか、といった類の話しかな? まぁ、信じる信じない以前に、できるだけ広めない方がいい話でもあるけど」
「そう。モニカ達は知っているの?」
「はい、陛下」
「私は王城にいたので……ですが、エルフにも関わる話のようなので、私は聞かせてもらいます。それに、アルネにも拘わる事のようですから」
「もちろん、フィリーナには最初から話すつもりだったよ」
神様だとかの話になるから、ユノの事を知っていたり、異世界から転生した姉さんは信じてくれるだろうけど、他の人はどうかわからない。
それに、重要情報ではあるけど多くの人に広める話ではないからね。
姉さん達に話して、他に伝えるべき相手がいるのであれば、そちらに伝えてくれるだろうし……特にヴェンツェルさんやハーロルトさんのように、国の重要な役目を担っている人達とか。
フィリーナには、エルフに拘わる事だから元々伝えるつもりだったので問題ないけど、さっきからアルネをジッと見ていたのはその目で見て、なんとなくでも察しているからかもしれないね。
「じゃあ、私達がどうするかね。私はもちろん、りっくんから話される事を誰彼構わず話す事はないけど……エフライムとヒルダは?」
「リクの話を、口外する事はしないと誓います」
「私は、身も心もリク様に捧げておりますので……」
「「「え!?」」」
姉さんやエフライムなら大丈夫だろうと考えていたので、二人からの言葉は想像通りだったけど、ヒルダさんがとんでもない事を発言。
声を出して驚いたのは、俺と姉さんとモニカさん。
三人共、首を痛めるんじゃないかという勢いで、ヒルダさんに顔を向けた……というか、ちょっと首が痛い。
「ひ、ヒルダ……いつの間に……。それにしてもりっくん、手が早かったのね。確かにヒルダは美人だけど……」
「ひ、ヒルダさん? その、それは本当に?」
「いや、姉さんは変な納得の仕方をしないで。というかヒルダさん、色々お世話にはなっているけど何もしていませんよね、俺?」
「そのお世話の中で、りっくんがお世話になったのねぇ……男だもの、仕方ないわ」
「ちょっと姉さん、変な納得の仕方しない!」
最初だけ戸惑って、妙に納得する姉さん。
モニカさんは、驚いた表情のまま、ヒルダさんと俺に対して顔を行ったり来たりと忙しい。
俺はそもそも身に覚えがなさ過ぎるので、言葉の意味を訪ねるのと姉さんを注意。
「あら、怒られちゃったわ。――それでヒルダ、さっきの言葉はどういう意味なの?」
「言葉の通りなのですが……私は、リク様に忠誠を誓っておりますので、そのリク様が他で話すなという事はならば、私から話す事はあり得ない、という事です」
「あ、そういう意味ですか……」
「はぁ……そんな事だろうと思ったわ。ヒルダは私が子供の頃から、王城にいたから……意外と世間知らずというか、変な発言をする時があるのよね。ズレているとも言えるのかしら? それにしてもヒルダ、貴女はそもそも私の侍女でしょ? りっくんのお世話を任せたのは私だけど……」
「はい。陛下とリク様は懇意……どころか姉弟とほぼ同義だと伺っております。ですのでリク様に仕える事も陛下に仕える事になると考えます。……まぁ、リク様に仕えている方が、陛下がおサボり申した際にそっと告げ口……もとい、働きかける事ができるかと」
ヒルダさんの発言は、変な意味ではなく俺に仕えるとかそういう意味だったって事かな……まぁ、姉さんが言っている世間ズレに関してはともかく、モニカさんと一緒に納得した――。
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