913 / 1,903
ようやくリクの事を知るクラウリア
しおりを挟む「そういえば、少し気になったんですけど……」
「ん?」
とりあえず獅子亭か冒険者ギルドのどちらに行こうかと考え、事態が落ち着いたら皆が集まるのは獅子知恵の方だなと思い、そちらへ向かって歩いていると、クラウリアさんから不思議そうな声がかかる。
相変わらず、結界に阻まれながらも手を伸ばそうとしているけど……そろそろ諦めたらいいのになぁ。
ちなみに、拘束していた縄は緩めて両手は自由にさせてあるけど、念のため体に結び付けて端を俺が持っていたりする。
逃走防止だね……そんな気配は一切ないけど。
「その頭にくっ付いている白いモフモフ……えっと、さっきまで凄く大きかったりしましたけど、一体なんなんですか? 撫でさせてください」
クラウリアさんが気になっているのは、俺の頭にくっ付いてご褒美のキューを齧っているエルサの事だった。
庁舎を出てからキューの要求をされたので、今回は頑張ってくれたご褒美にと、少し多めにあげている……まぁ、よだれが頭に垂れて来るのは、我慢しよう。
「なんとなくお断りなのだわ」
「珍しいな、エルサがなんとなくで断るの。まぁ、気持ちはわからなくもないけど……エルサはドラゴンだね」
キューを齧っていたエルサが、クラウリアさんから離れるように少しだけ体を動かして、きっぱり断った。
もしかして、食べているのを邪魔されたくないからかな? とは思うけど、無遠慮に撫でまわすと文句を言われるけど、基本的に触られるのを嫌ったりしないエルサが断るのは珍しい。
まぁ、捕まっている状態なのに遠慮せずまとわりつこうとしたり、手をワキワキさせて鼻息荒く触ろうと伸ばしているのを見たら、嫌がるのも無理ない気はする。
「ど、ドラゴン……? 本当にいたんですね……って、ちょっと待って下さい……」
「ん、どうかした?」
「えーっと……ドラゴンが一緒にいて、とてつもない魔力量。ゴブリンの大群を一瞬で消し去った……うーん、ぬーん……」
エルサがドラゴンであると伝えると、何か急に悩み始めたクラウリアさん。
ドラゴンを恐れたり驚いたりというよりも、思い出そうとしている様子だ。
「……えーっと……つかぬ事をお聞きしますが……もしかして貴方様は、英雄様であらっせられられますですか?」
「なんか言葉がおかしいけど、一応そんな風に呼ばれていたりするね」
最後の方は丁寧なのかわからないくらい言葉が乱れていたけど、とりあえず確かに呼ばれているので頷く。
「え、英雄様でいらっされましたか……それは私が敵わないわけですね……」
「ゴブリンの大群の事や、クラウスさんが俺を様付けで呼んでいたから、わかっていると思っていたけど……」
クラウスさん、このヘルサルでは一番偉い人だし……そんな人が様付けで呼んでいるんだから、何かあるだろうと思って当然だし。
英雄と呼ばれ始めたり、勲章を授与されるきっかけとなったゴブリンの事も伝えているんだから、知っているもんだと考えていた。
「いえ……私は作戦実行が役目でしたので、情報収集はあまりしていなかったんです。だから英雄様がどんな人なのか、一切知らなくて……ドラゴンと一緒にいる、という噂くらいは聞いていました。まぁ、この街に潜んでから聞いた事ですけど」
「この街で噂を聞いたんだったら、エルサの見た目とか、俺の事とかもっと詳しく知っていそうなもんだけど?」
ヘルサルでは知り合いが多いし、対ゴブリンの防衛線の時にいた人達なら、大きくなったエルサを見ている人が多くて、はっきりと見た目とかの話も広まっていると思う。
「返り咲ける程の功績をあげるまでは、組織から逃げている状態でしたので、あまり表立って動いていなかったんです。なので、あまり噂というか……街の人とも話しをしたりはしませんでした」
「ふーん、だから俺の事もよくわからなかったと。まぁ、別に英雄と呼ばれて欲しいわけじゃないから、いいんだけど。でも、それじゃこの街の人に優しくされてっていうのは? あまり人と拘わらなかったんだったら、そういう事もなさそうだけど……」
「お腹を空かせていたら、食べ物をくれました! 雨が降っている時、商店の前で雨宿りをしていても、追い払われたりしないどころか、お店の中に入れてくれたりもしました! 私だけでなく、部下達も似たような事があったらしいです!」
「……それだけ、とは言えないか」
余裕のある人ならたったそれだけの事、と思うかもしれないけど……お腹を空かせてひもじい思いをしている時、食べ物を恵んでくれるというのは凄く嬉しく感じるものだ。
クラウリアさん程の経験はないけど、初めてこの街に来た時、無一文で空腹で飛び込んだ獅子亭で美味しい料理を食べさせてもらって、凄くありがたかったのを覚えている。
その他、雨宿り以外にも小さな親切、優しさを受けた事をクラウリアさんに聞いたけど、離れて行かなかった部下達のほとんどは、同じような経験をしたらしい。
組織に見つからないようにと考えるばかりで、働く事もできず、お金もほとんどないので大分苦労したようだ。
「帝国では、村は排他的で帝都から来た同じ帝国の人間でも、歓迎されません。帝都なんて他人を助けるなんて発想がある人すらいなんじゃないですかね?」
「なんというか、殺伐としている国に聞こえるね。行った事ないから、実際にはわからないけど」
自分が追い詰められている時に、この国、この街に来て親切にされた事で、焦って爆破工作を開始した際にも、ヘルサルという街を潰すと考えていながら、人への被害は出さないように指示していた理由らしい。
その考えに賛同しなかった人や、耐えて生き延びる事を嫌がった人がクラウリアさんの下を離れたり、一部の部下ははっきりと離反したわけではなくとも、街の人に迷惑をかけて捕まったりしたわけだけども。
ちょっと不憫に思えてきた……けど、嘘を言っているようには見えなくとも、ゴブリンをけしかけた張本人で組織に所属していた人物。
完全に信用するわけではないし、そもそも街中で爆破する魔法を使ったりもしているので、同情はしないようにしよう。
もしかすると、これも俺を騙そうとする手段とかかもしれないからね……真偽と審議は、王都に引き渡して取り調べをしてもらうし、俺が判断する事じゃない。
油断はしないようにしないとね。
「そんな話をしている間に到着っと。んー、外観は何もなさそうだから、被害には合っていない……かな? 二つ隣の家に穴が開いているから、あっちはやられたみたいだけど」
クラウリアさんと話しているうちに、獅子亭に到着。
外観を眺めて確認してみたけど、どこかが壊れているようにも見えないので、特に被害はなさそうだ。
もうお昼の営業が始まる頃で、通常なら入り口にずらりとお客さんが並んでいるはずだけど、さすがに騒動があった影響か、閑散としている。
まぁ、こんな時に通常営業はできないか……モニカさん達は中にいるのかな。
「ここって……?」
俺が獅子亭の建物を確認している間、首を傾げているクラウリアさん。
いつもなら多くの人が並んでいて有名な店だし、しばらくこの街にいたなら知っていてもおかしくないけど、かな?
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる