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ようやくリクの事を知るクラウリア

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「そういえば、少し気になったんですけど……」
「ん?」

 とりあえず獅子亭か冒険者ギルドのどちらに行こうかと考え、事態が落ち着いたら皆が集まるのは獅子知恵の方だなと思い、そちらへ向かって歩いていると、クラウリアさんから不思議そうな声がかかる。
 相変わらず、結界に阻まれながらも手を伸ばそうとしているけど……そろそろ諦めたらいいのになぁ。
 ちなみに、拘束していた縄は緩めて両手は自由にさせてあるけど、念のため体に結び付けて端を俺が持っていたりする。
 逃走防止だね……そんな気配は一切ないけど。

「その頭にくっ付いている白いモフモフ……えっと、さっきまで凄く大きかったりしましたけど、一体なんなんですか? 撫でさせてください」

 クラウリアさんが気になっているのは、俺の頭にくっ付いてご褒美のキューを齧っているエルサの事だった。
 庁舎を出てからキューの要求をされたので、今回は頑張ってくれたご褒美にと、少し多めにあげている……まぁ、よだれが頭に垂れて来るのは、我慢しよう。

「なんとなくお断りなのだわ」
「珍しいな、エルサがなんとなくで断るの。まぁ、気持ちはわからなくもないけど……エルサはドラゴンだね」

 キューを齧っていたエルサが、クラウリアさんから離れるように少しだけ体を動かして、きっぱり断った。
 もしかして、食べているのを邪魔されたくないからかな? とは思うけど、無遠慮に撫でまわすと文句を言われるけど、基本的に触られるのを嫌ったりしないエルサが断るのは珍しい。
 まぁ、捕まっている状態なのに遠慮せずまとわりつこうとしたり、手をワキワキさせて鼻息荒く触ろうと伸ばしているのを見たら、嫌がるのも無理ない気はする。

「ど、ドラゴン……? 本当にいたんですね……って、ちょっと待って下さい……」
「ん、どうかした?」
「えーっと……ドラゴンが一緒にいて、とてつもない魔力量。ゴブリンの大群を一瞬で消し去った……うーん、ぬーん……」

 エルサがドラゴンであると伝えると、何か急に悩み始めたクラウリアさん。
 ドラゴンを恐れたり驚いたりというよりも、思い出そうとしている様子だ。

「……えーっと……つかぬ事をお聞きしますが……もしかして貴方様は、英雄様であらっせられられますですか?」
「なんか言葉がおかしいけど、一応そんな風に呼ばれていたりするね」

 最後の方は丁寧なのかわからないくらい言葉が乱れていたけど、とりあえず確かに呼ばれているので頷く。

「え、英雄様でいらっされましたか……それは私が敵わないわけですね……」
「ゴブリンの大群の事や、クラウスさんが俺を様付けで呼んでいたから、わかっていると思っていたけど……」

 クラウスさん、このヘルサルでは一番偉い人だし……そんな人が様付けで呼んでいるんだから、何かあるだろうと思って当然だし。
 英雄と呼ばれ始めたり、勲章を授与されるきっかけとなったゴブリンの事も伝えているんだから、知っているもんだと考えていた。

「いえ……私は作戦実行が役目でしたので、情報収集はあまりしていなかったんです。だから英雄様がどんな人なのか、一切知らなくて……ドラゴンと一緒にいる、という噂くらいは聞いていました。まぁ、この街に潜んでから聞いた事ですけど」
「この街で噂を聞いたんだったら、エルサの見た目とか、俺の事とかもっと詳しく知っていそうなもんだけど?」

 ヘルサルでは知り合いが多いし、対ゴブリンの防衛線の時にいた人達なら、大きくなったエルサを見ている人が多くて、はっきりと見た目とかの話も広まっていると思う。

「返り咲ける程の功績をあげるまでは、組織から逃げている状態でしたので、あまり表立って動いていなかったんです。なので、あまり噂というか……街の人とも話しをしたりはしませんでした」
「ふーん、だから俺の事もよくわからなかったと。まぁ、別に英雄と呼ばれて欲しいわけじゃないから、いいんだけど。でも、それじゃこの街の人に優しくされてっていうのは? あまり人と拘わらなかったんだったら、そういう事もなさそうだけど……」
「お腹を空かせていたら、食べ物をくれました! 雨が降っている時、商店の前で雨宿りをしていても、追い払われたりしないどころか、お店の中に入れてくれたりもしました! 私だけでなく、部下達も似たような事があったらしいです!」
「……それだけ、とは言えないか」

 余裕のある人ならたったそれだけの事、と思うかもしれないけど……お腹を空かせてひもじい思いをしている時、食べ物を恵んでくれるというのは凄く嬉しく感じるものだ。
 クラウリアさん程の経験はないけど、初めてこの街に来た時、無一文で空腹で飛び込んだ獅子亭で美味しい料理を食べさせてもらって、凄くありがたかったのを覚えている。
 その他、雨宿り以外にも小さな親切、優しさを受けた事をクラウリアさんに聞いたけど、離れて行かなかった部下達のほとんどは、同じような経験をしたらしい。
 組織に見つからないようにと考えるばかりで、働く事もできず、お金もほとんどないので大分苦労したようだ。

「帝国では、村は排他的で帝都から来た同じ帝国の人間でも、歓迎されません。帝都なんて他人を助けるなんて発想がある人すらいなんじゃないですかね?」
「なんというか、殺伐としている国に聞こえるね。行った事ないから、実際にはわからないけど」

 自分が追い詰められている時に、この国、この街に来て親切にされた事で、焦って爆破工作を開始した際にも、ヘルサルという街を潰すと考えていながら、人への被害は出さないように指示していた理由らしい。
 その考えに賛同しなかった人や、耐えて生き延びる事を嫌がった人がクラウリアさんの下を離れたり、一部の部下ははっきりと離反したわけではなくとも、街の人に迷惑をかけて捕まったりしたわけだけども。
 ちょっと不憫に思えてきた……けど、嘘を言っているようには見えなくとも、ゴブリンをけしかけた張本人で組織に所属していた人物。

 完全に信用するわけではないし、そもそも街中で爆破する魔法を使ったりもしているので、同情はしないようにしよう。
 もしかすると、これも俺を騙そうとする手段とかかもしれないからね……真偽と審議は、王都に引き渡して取り調べをしてもらうし、俺が判断する事じゃない。
 油断はしないようにしないとね。

「そんな話をしている間に到着っと。んー、外観は何もなさそうだから、被害には合っていない……かな? 二つ隣の家に穴が開いているから、あっちはやられたみたいだけど」

 クラウリアさんと話しているうちに、獅子亭に到着。
 外観を眺めて確認してみたけど、どこかが壊れているようにも見えないので、特に被害はなさそうだ。
 もうお昼の営業が始まる頃で、通常なら入り口にずらりとお客さんが並んでいるはずだけど、さすがに騒動があった影響か、閑散としている。
 まぁ、こんな時に通常営業はできないか……モニカさん達は中にいるのかな。

「ここって……?」

 俺が獅子亭の建物を確認している間、首を傾げているクラウリアさん。
 いつもなら多くの人が並んでいて有名な店だし、しばらくこの街にいたなら知っていてもおかしくないけど、かな?

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