911 / 1,903
謎に包まれたあのお方
しおりを挟む「そうこうしているうちに、私の部下ではなく、明らかに組織からと思われる者がこの街に現れたのです。今は、もうどこかへ行きましたけど……自分を探しに来たのだと考え、焦って計画を実行に移しましたが……」
「が?」
組織からの人がこの街に来ていたのか……それは、クラウリアさんを探しに来たのか、それとも何か別の事を考えていたり、単純に潜入するだけだったり、理由はわからないけど、その事がきっかけになって焦ったみたいだね。
クラウリアさんは、事情を説明する途中で言葉を切り、俺へと視線を向けた。
「このお方には逆らってはいけない、そう思わせる人と出会えたのです! これは運命です! きっと、この方と出会わせるために、私は今回の事を起こしたのだと!」
「……えーと……」
「このお方と比べたら、組織にいたあのお方なんて、比べ物になりません!……いえ、正確にはわかりませんが……ツヴァイが使っていた魔法だけでなく、集中して爆破の魔法をかけても一切意に介さず……それだけでなく、与えられたかりそめの魔力を持つ私をはるかに上回る魔力量! もう、この方について行くしかないと思わされました!」
「それはつまり、リク様に寝返るというわけですかな?」
「寝返るとかではなく、このお方の下に付かないと、自分の未来がないとさえ思います!」
「うーん……」
確かに色々脅すように魔力を放出したり、ツヴァイの魔法と似せた魔法を使ったりもしたけど……。
爆破の魔法は結界で簡単に防げたわけで、魔力量に関しては自分でもよくわからないくらいあるっていうのはわかっているけど、さすがに急な心変わりをされてもなぁと思う。
まぁ、長い物には巻かれろとは言うし、クラウリアさんがそもそもそういう性格なのかもしれないけどね。
真実かはともかく、話してくれるのはありがたいけど、その分人間としての信頼度は下がった……というのは本人には黙っておこう……元々信頼度はゼロだけど、今はマイナスになっていた。
……簡単に寝返るような人って、信用しちゃ駄目だよね……色々話してくれそうなのは、こちらとしてはいい事なんだけど。
「んんっ! まぁ、俺についてはともかく……組織のあのお方、というのは一体誰なんだ? ツヴァイからも出たけど……絶対に誰かを明かそうとはしなかったんだ」
「ツヴァイならそうでしょうね。あいつはあの方に心酔していましたから。それに、もし口に出そうものなら、内部から情報が漏れたとして、そこでもまた処分されそうですから」
「相当重要な情報って事なんだね、その組織にいるあのお方っていうのは……」
「……正直に言うと、誰なのかというのはよく知らないんです」
「知らない?」
ツヴァイを捕まえて話を聞き出した時から、ずっと気になっていた……というより謎だったあのお方という存在。
人間なのかすらわからず、どこの誰かというのは一切情報がない。
まぁ、帝国に関係しているだろうな、という予想くらいはできるけど。
改めてクラウリアさんに聞いてみると、俯いて首を振り、あのお方というのが誰なのかは知らないという答えが返ってきた。
「はい。その……あの方と会うのは幹部でも、数回程度。魔力をその際に分け与えられるのはそうなのですけど、目隠しされたり身動きが取れず周囲の状況がわからない状態なのです。ツヴァイは研究の報告をする影響で、もしかしたら知っているかもしれない……というくらいですね」
「……そうなんだ」
「あ、でも。他に幹部には私のように女がいたんですけど、その人ならわかるかもしれません。あの方と接触する際には、必ずその人が先に接触するようになっていましたから。多分、側近とか身近な存在なんじゃないかと」
「その女性というのは?」
「フュンフと呼ばれていました。基本的に、その人から幹部含め組織全体へあの方からの指令は伝えられます」
「ふむ、トップからの指令を伝える役目という事は、相当近い存在と言えるでしょうね。私にとってのトニのような関係でしょうか……」
徹底的にあの方というのが誰なのかを伝えないようにしているみたいで、クラウリアさんも誰なのかはわからないとの事だ。
ただし、他の幹部の中で一人だけ近い存在と目されている人がいて、その人が全体への指令を伝えたりしているようで、クラウスさんにとってのトニさん……つまり秘書とか側近、片腕のような存在、という事だろう。
「フュンフの事は、すみませんが他に詳細はわかりません。幹部は常にローブで身を包み、素顔を晒さないので……声や振る舞いから、女だろうと考えているだけなので。それに、幹部はそれぞれ部下を何かしらの理由で持っていますが、幹部同士はお互いに拘わろうとはしないのです」
「幹部同士の話し合いもない、って事かな。組織としてどうなのかと思わなくもないけど……それで強力なトップを持ってワンマンで維持しているって事なんだろうね。でも、クラウリアさんはツヴァイの事をよく知っていたような口ぶりだったけど?」
「ある程度は……私は工作の作戦を実行する役割だったので、それで。ヘルサルへのゴブリンロードに関しても、ツヴァイと研究に関して話す必要がありましたから」
「成る程ね……まぁ、組織が研究をしている成果を使うんだから、そういった話も必要か……」
「ツヴァイと話すのは、かなり面倒でしたけど……あいつ、あの方以外のすべてを見下していて、私だけでなく他の幹部も、自分の部下でさえも道具にしか見ていませんでしたから。貴方様がツヴァイを倒したと聞いて、本当にスッキリしました!」
「いやまぁ、クラウリアさんもそのツヴァイと同じく、俺に捕まえられたって事なんだけど……まぁいいや」
謎に包まれた組織は、組織に所属して幹部にまでなっていても謎に包まれている……という事か。
やっている事を考えれば、ツヴァイのように部下やその他を道具のように扱うというのもわからなくはないけどね。
情報を漏洩させないために毒を仕込んだり、処分をしようとしたり……処分に関しては、クラウリアさんの証言だけだけど、やりかねないのはわかっている。
部下を大切にという程ではないんだろうけど、道具として扱ったり見下す程ではないクラウリアさんは、元々組織には向かない性格だったのかもしれない。
「……それじゃ、核心というか……重要な事を聞くこうかな。その組織、あの方というのが誰なのかはわからなくても、組織そのものは帝国と拘わっているよね? というより、帝国が作った組織じゃないかって俺は考えているんだけど」
「帝国が作ったかは、わかりません。幹部といえど組織の成り立ちまでは教えられません。ただ、帝国と深く拘わっているのは間違いないと思います。帝国の中心地……帝都ではあまり表立ってはできませんが、組織の人間であれば出入りは自由ですし、色々と好き勝手できます。まぁ、やり過ぎれば処分対象なので、皆通常の民を装っていますけど」
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる