神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央

文字の大きさ
上 下
874 / 1,913

呼んでいる者

しおりを挟む


「リク、呼んでいるの!」
「ユノ?」

 俺とエルサがそんなやり取りをしていると、いつの間にかもとに戻った様子のユノがベッドに立ち上がっていて、急に声を上げた。
 呼んでいるって、一体なんの事だろう?

「前に来た時は、別の場所を見ていたから気付かなかったみたいなの。今回来た時に私とリクを見つけて、呼んでいるの!」
「えっと……一体誰が呼んでいるんだ?」
「あの気配、成る程だわ。……面倒な事にならないといいけどだわ」

 必死な様子というわけではないけど、何やら誰かに呼ばれている事を伝えたい様子のユノ。
 前回来た時っていうのは、集落が魔物に襲われている時だと思うけど……俺とユノを見つけて呼ぶって、一体?
 俺に対して溜め息を吐いていたエルサは、何やら納得してまた別の溜め息を吐いていた。

「とにかく、アルネを起こすの。エルフを連れて行かないと、会ってくれないの」
「あ、おいユノ!」
「はぁ……追いかけるのだわぁ」
「エルサ? 何か知っているんだろう?」
「今はとにかく、ユノを追いかけるのだわ。すぐに説明してくれるはずなのだわぁ」
「……仕方ないか」

 アルネを起こすと言って、ベッドから降りて駆けだすユノは、そのまま部屋から出て行った……きっと、言った通りアルネの部屋に行ったんだろう。
 ……アルネ、食事後は研究について考え過ぎたと言って、すぐに休むと言っていたんだけど、大丈夫だろうか?
 ともあれ、何やら事情を察したらしいエルサに聞いてもはぐらかされるだけなので、仕方なくユノを追いかけて、俺も部屋を出た。
 その際、ちゃっかり俺の頭にドッキングするのを忘れないエルサ……何気に抜け目がないね。


「……アルネ、大丈夫?」
「ぐっ……リク、これが大丈夫に見えるか? ゴホッゴホッ!」

 ユノを追いかけてアルネの部屋に入ると、ベッドで横になっている寝ていたはずのアルネのお腹にユノが膝立ちで乗っていた。
 おそらく、前に俺に圧し掛かって起こした時の要領で同じようにしたんだろうけど、進化させて膝立ちにするとは……恐ろしい子!
 って、感心している場合じゃないな……思わず心配して声をかけたら、咳き込みながらも応えてくれるアルネ。
 良かった生きてた、じゃない、起きてた。

「アルネ、早く起きるの! 呼んでるから一緒に行くの!」
「ちょ、ぐっ! がはっ!」
「ユノ、ストップストップ! それ以上やるとアルネが起きれなくなっちゃうから! 安らかに寝ちゃうから!」

 はっきりと声をだしているのに、ユノはさらに体重をかけてアルネのお腹の上で、こまめにジャンプを繰り返す。
 人のお腹の上で、さらに膝立ちなのにジャンプとは器用な……と思っている場合ではなく、慌ててユノを止めるために抱き上げてアルネのお腹の上からどかした。
 ……ぜぇぜぇと荒い息をしているけど、なんとかアルネは無事なようだ。
 あのままだと、本当にアルネが安眠というか永眠するところだった……起こしに来たはずなのに、ある意味寝させようとするとは……。

「ユノ、それで一体どういう事なんだ? アルネも起きたし、説明して欲しいんだけど」
「はぁ……はぁ……起きたは起きたが、危うく永い眠りにつくところだったんだが……」

 抱き上げたユノを部屋の床に降ろし、そろそろ説明をしてくれと声をかける。
 アルネはベッドの上で、荒い息を整えている……すぐは動けそうにないから、休みながら話を聞いていてくれればいいかな。
 お腹の上にいきなり乗られるのって、想像以上に驚きとダメージがあるから、と経験者だから心の中で同情しておく。

「あのね、さっき言われたの。エルフを一人連れて、こちらに来て欲しいって」
「エルフを……だからアルネを起こしたのか。でも、来て欲しいって誰に言われたんだ?」

 さっき、呼ばれているって言っていたユノだが、一体誰に呼ばれたのか。
 そもそも、エルサはなんとなくわかっても、俺には何も聞こえなかったし、気配すら感じなかった。
 電話のような通信手段があるわけじゃないし、同じ場所にいる俺に気付かれないように話すのは不可能だと思うんだけど……。
 ただ、ユノは虚空を見てなにやらもごもごと口を動かしていたから、本当に何かと話していたらしいのかもしれないが。

「アルセイス。懐かしい人……人? 人じゃないけど、その人から呼ばれたの」
「アルセイス?」

 どこかで聞いた事があるような……?

「そ、その名は、もしかしてアルセイス様の事か!? ゴホッゴホッ!」
「アルネ、落ち着いて。まだダメージが残ってそうだから、ゆっくりね?」
「あ、あぁ……しかし、アルセイス様だと……? 本当に呼ばれる事なんてあるのか?」

 そのアルセイス、という名が聞き覚えがあるような? と考えていると、まだベッドで休んでいたアルネが驚きと一緒に激しく反応した。
 アルネを落ち着かせるように声をかけつつ、そう言えばと思い出した。
 初めてアルネやフィリーナと会った時、アルセイス様って言っていたんだったね……確か、フィリーナの特別な目は、アルセイス様の加護とかなんとか言っていたっけ。
 話の流れから、人間やエルフとは違うのがわかるけど、アルセイスというの人? がどういう存在なのかまではわからない。
 ……まぁ、ユノに直接語り掛けるとか、特別な目を授けたりとかって時点で、なんとなく神様関係かなぁと思うけど。

「アルセイスは、森の神として存在しているの。エルフの人達が、崇めている神様って言ったらわかるの?」
「森の神様……あぁ、確かにエルフさん達が崇めそうではあるか」
「……アルセイス様は、我々エルフを守護してくれる存在だと伝わっている。森と共に生きる事で、アルセイス様の加護を得られて、エルフに繁栄と平穏をもたらすとな。だから、強固に森から出て生活する事に反対する長老達がいたのだが……フィリーナの魔力が見える特別な目も、アルセイス様からの加護を受けたのだ」
「あれ、それって今は森の外に出て暮らしているから、怒られたりするのかな?」
「……わからない。集落の半分は森で、離れているわけでもなくまだ森の中で生活している者もいる。だから、アルセイス様の加護は完全になくなったとは考えられてはいないが……」

 森の神で、エルフが崇める神様って事か。
 だから長老達のように古くから森で暮らしているエルフは、森から出て暮らす事に反対だったのかもしれない……エヴァルトさんの話を聞く限り、そこまで高尚な考えがあったかどうかは疑問だけど。

「それじゃもしかして、エルフが人間を拒絶していたのも、そのアルセイス様の教えとかそんな感じなのかな?」
「いや、アルセイス様は他者を嫌ったり、排除する教えはないはずだ。ただ、エルフはアルセイス様に創られたという伝承がある。だから、人間とは違う成り立ちから、拒絶する方向へ行ったのかもしれん」
「アルセイスは、森を害する存在以外は何者を拒絶する事はないの。確か、『森は全てを包み込んで慈しむのよん』って言ってた。あと、『だからといって、森の中に閉じ込める事はしないのん。森の中や付近にいれば恵みと加護を与えるけど、外へ行ったとしても罰する事はないよー。去る者追わずの精神なのよー』だったかな?」
「随分、軽い話し方なんだね、そのアルセイス様って……」


しおりを挟む
完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

現在更新停止中です、申し訳ありません。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~

投稿スケジュールなど、詳しくは近況ボードをご確認下さい。


よろしければこちらの方もよろしくお願い致します。
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...