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ガラス魔法具の改良

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「結界への影響というより、魔力溜まりだな。おそらく、漏れ出した魔力は魔力溜まりへ吸収されている。元々リクの魔力が元でできた魔力溜まりなのだから、親和性が高く吸収しやすいのだろう。特別な事がない限り、魔力溜まりは長い年月で解消されて行くものだが……このままだと、漏れ出した魔力の影響で、ガラスよりも長い期間維持されてしまうだろうな」
「魔力溜まりかぁ……結界があるから、マギアプソプションが来る事はなくなったみたいだけど、維持されるのはどうなんだろう。作物の成長が早いから、いい事のような気もするけど、魔法が使えなかったりもするからね……」
「まぁ、魔力溜まりの影響下で作物を育てるのを続けるかどうかは、これからを見て決めればいい。もし必要であれば、維持させるのは魔力を追加するだけで、簡単だからな。維持しないと決めた時に、解消されるまで時間がかかってしまうよりはマシだろう」
「まぁ、そうだね」

 魔力溜まりを有効に使えるかどうかは、これからの作物次第。
 差し当たって、今栽培している物の収穫が終わって少しわかるかどうかくらいの問題だ。
 維持するのなら魔力を追加すればいいけど、解消させるのは自然に魔力が散ってしまうのを待たなければいけないので、時間がかかってしまう。
 それなら、魔力溜まりに魔力を吸収されないようにしておいた方が、後々やりやすくなるだろうね。

「では、早速取り掛かろう」
「エルフの方々と縁ができると、このような恩恵があるのですな。ですが、フィリーナ殿が施した魔法具化に、アルネ殿がさらにというのは大丈夫なのでしょうか?」

 やる事は決まったと、早速アルネがガラスに向かった方を見て、心配そうな表情をしているクラウスさん。
 結界自体は俺がいるからもし今なくなっても張り直せばいいけど、維持に関しては何か問題が起きたらせっかく農園が機能し始めているのに、駄目になっちゃうから、心配になるのも仕方ないかな。

「大丈夫です。フィリーナはエルフですが……本来は魔法理論の方が専門ではないので。それに、エルフなら改善点を見つけて修正するくらいなら、大体の者ができます」
「そ、そうなのですか……我々人間だと、魔法具商店で専門に扱っている者でも、後で別の効果の魔法を、とはできないものですから。さすがはエルフなのですね」
「特にアルネは、王城でも魔法を研究しているくらいですからね。まぁ、研究熱心が過ぎて寝食を忘れる事が多い方が心配です」
「……最近は、少なくなったんだぞ? 王城は見てくれる者がいるからな」

 アルネがクラウスさんを安心させるように言い、俺も一応フォローしておく。
 トニさんが「ほぉ、王城で……」と呟いていたので、王城で研究するという事は、姉さん……女王陛下の公認だという事も意味しているとわかってくれたんだと思う。
 あとアルネ、少なくなったと言っても王城でお世話してくれる人達がいてくれるから、少なくなっただけで、一人だとあんまり変わっていないんじゃないかな?
 昨日も、振動する剣を見て結局寝不足になったみたいだし……一応、研究を切り上げて多少なりとも寝たのは改善しかけているのかもしれないけど。

「では、始めるぞ。……期待されても、あまり派手な事は起きないですよ?」
「まぁまぁ、お気になさらず。こういう場面を見る機会は少ないですし、しかもエルフの方が直接となれば、目に焼き付けておかねばいけませんからな」
「……少し、リクの気持ちわかった気がするな。んんっ! では……」
「はははは……」

 アルネが手をかざし、ほんのりとガラスから文字のような物が浮かび上がって来るが……後ろでワクワクとした少年のような目で見ていたクラウスさんに気付いた。
 確かにこういう場面を見る機会は少ないかもしれないけど、過剰に期待する視線を浴びる事で、俺の気持ちがわかったらしい。
 期待とかってより、称賛され過ぎててちょっと……と言う部分が大きいんだけど、邪魔しないように苦笑するだけにしておいた。

 そうして少しの間、手をかざしたアルネが口元で言葉のような、そうではないような呟きを発して、浮かび上がった文字のような線が、少しだけ変わっていく。
 おそらく、フィリーナが施した魔法具化を改良しているって事なんだろうね。

「……こんなものか。とりあえず、これで問題ないはずだ」
「お疲れ様、アルネ」
「あまり、疲れる事ではないが、受け取っておこう」
「何がどうなったのか、じっくり見ていてもわかりませんでしたが……ともあれ、街の、そしてリク様の結界維持のために尽力して下さり、ありがとうございます」

 数十秒ほどで、その文字がゆっくりとガラスに沈んでいくように消えて、手を降ろしたアルネが振り返って終了。
 労う俺に苦笑しながら頷くアルネ。
 さらに、クラウスさんからお礼を言われてガラスに関しては終わりかな? と思ったら……。

「では、他のガラスの方を見ておかねばな。まぁ、ここと差はないだろうから、同じ事をして回るだけだろうが」
「そういえば、ガラスって四か所に設置したんだったっけ……」

 結界が大きいため、供給する魔力が偏らないように小屋を四つ作ってそれぞれにガラスを設置、フィリーナが魔法具化してくれたんだったね。
 小屋は結界の内側にあるけど、結界に接続する関係上触れるくらいの位置……つまり、農園の外周をぐるっと回るような感じになると……。
 ちょっと時間がかかってしまうけど、四か所が連携するようにもなっているので、一か所を改良しただけだと効果が薄いうえ悪い影響を発生させる可能性もあるので、必要だとアルネに言われ、全部の小屋を回った。
 トニさんは農園に直接関係する事だから、後で仕事を頑張ってもらえばなんとか……と渋い顔をしながら俺達と一緒にいるクラウスさんを見ていた……。

「ん? あれは……?」

 小屋を回っている際に、他の区画とは違う小さな畑を見つけた。
 地面にはツタのようなツルのような茎が張っており、さっき見たキューよりもキュウリのように感じる。
 まぁ、地面を張っていて空へ向かって伸びていないから、全然違うんだろうけど。

「あれは、スイカです。リク様やフィリーナ殿がエルフの集落に連絡して下さったおかげで、スイカを作っている村との連絡が取れ、栽培できるようになりました」
「あぁ、あれがスイカですか! へぇ~大きな実を付けて美味しく育って欲しいですね。でも、他の物と比べて、成長が遅いような?」

 気になって足を止める俺に、トニさんが詳しく教えてくれた。

「どうなるかは、やはり収穫をしてからとなるでしょうな。成長が遅く感じるのは、スイカの栽培自体が他の物よりも時期がずれたためですな。エルフの集落に早馬を飛ばして連絡をしましたが、さすがに短期間で連絡を取り合う事は難しく……ですが幸い、大きな農場でスイカを栽培する事に興味を持った、作っている村の者がヘルサルまで来てくれました。おかげで、リク様にもらった種を植えて、あのように育っております」
「協力してくれたんですね。良かったです」

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