上 下
806 / 1,903

特別な素材を使っている

しおりを挟む


「どういった部分が特別なんですか? 確かに見た目は他とちょっと違いましたけど……あと、値段も特別でしたよね?」

 商売関係だからか、少し鋭い目をさせて尋ねるモニカさん。
 獅子亭は飲食店だから、鞄屋さんとは違うけど商売をしているという部分で、モニカさんも真剣にならざるを得ないのかもしれない。
 値切り交渉というわけじゃないけど、旅の準備をする時とか、安く食料を買ってくれたりして助かっている。
 そんなモニカさんが、真剣な様子で店主と思われる男性に問いかけるのは、ぼったくりみたいな商売をしていないか見抜くためとかだろうか?

 店主さんの見た目や喋り方に怯まないのは、単純に凄いと思う。
 アメリさんやフィネさんも、特に気にしていない様子だど……唯一、ソフィーは苦い表情で少し離れていたけども。
 ……あぁいう人の相手をするの、苦手なんだろうか?

「値段は、使われている素材のせいね。元々は冒険者ギルドからもたらされた素材で、武具に使う物なんだけど……その端切れというか、余った部分を買い取ったの。貴重な物だから、それを使った物は当然高くなるのよ」
「成る程……高い素材を使えば、そのもの自体が高くなる……それは納得です。では、その素材というのはなんなんですか? あれだけの値段になるというのは、かなり限られた高級な素材だと思いますけど……」
「まぁ、素材だけじゃなくて、デザインも値段に加算されているからあの値段になったのだけどね。素材は、ワイバーンの素材よ。少し前に、大量に冒険者ギルドへ持ち込まれたらしいの。そのほんの一部を買い取って、鞄に使ったってわけ。ワイバーンの素材は簡単には燃えないし、そこらの鎧より優れているから、最悪の場合は盾にもなるわよぉ? だから、あの値段になったってわけ」
「ワイバーンの素材……」
「だから、あの鞄は青かったのか……鞄に色を付けるのは特に珍しいと思っていたが……」

 男性の説明を聞いて、俺の方へ視線を向けるモニカさん。
 離れた場所でソフィーも呟いているけど、確かにがま口リュックは青かったから、ワイバーンの素材を使っていると言われたら納得だね。
 鞄は無地の物が多く、デザイン性やオシャレな色合いなんかは考えられない……ほとんど、黒や茶色が多いかな。
 だから、青色になっていたのも珍しい要因だったんだけど、ワイバーンの素材の影響だったのか……兵士さん達が身に着けていた鎧とかも、青くなっていたから素材を使った時の特性なんだろう。

 ワイバーンの素材が、どれくらいの量でどれくらいの値段がするのかまで、俺は知らないけど……高級素材というのは聞いていたし、依頼を受けて素材というか、皮を持ち帰った時の報酬もそれなりだった。
 そもそもに、ワイバーンが空を飛ぶ事もあって容易に倒せる魔物ではないため、ランクの高い依頼だったのも理由だろうけど。
 そして、そのワイバーンから大量に素材を持ち帰って、冒険者ギルドに納品したから……あのリュックに使われている素材もその時の物だろう。

「結構な量、ワイバーンの素材を買い取ったのね? このお店の中にもいくつか、それらしい物があるけど……」
「そうなのよ! なんでも、あの英雄リク様が大量に持ち帰ったらしくてね! だから少し値段も安かったし、端切れと言ってもそれなりの量を買えたのよ! そこで、目玉商品としていくつかの鞄に使っているわ! まぁ、おかげで値段もそれなりに目玉が出る程になっているけどねぇ……」
「まぁ、そこらの人が買える値段じゃないのは確かね……」

 入ったお店の中、店内に置かれている鞄を見ると、青色の鞄が幾つか見られた。
 よく見てみると、値段が金貨単位な鞄のようだから、間違いなくワイバーンの素材が使われているんだろう、というのがわかる。
 まぁでも、さすがに素材が足りなかったからなのかなんなのか、青色に塗ってあるだけでワイバーンの素材を使っていないと思われる鞄もあったのは、多分見た目をそれらしく見せるための物と考えればいいんだろうか?
 そちらは値段が通常の鞄と変わらず、銀貨や銅貨で買える程度だったので、素材を使っていないとわかったんだけども。

「もう、英雄リク様には感謝しかないわよ! 魔物に襲われた町を救ってくれただけでなく、貴重な素材まで大盤振る舞いで! あぁ、素敵な英雄様……一度会ってみたいわぁ」

 興奮した様子で、男性が夢見る乙女的な表情をさせながら、大きな声で英雄に焦がれているけど、こっちとしては微妙な気分。
 いやまぁ、感謝される事が嫌というわけじゃないんだけどね……あと、素が出ているのか、野太い声になっていたりするのも微妙な気分の要因かもしれない。
 とりあえず、さっきのレストランでもそうだけど、王都の人たちの多くは俺というか……英雄が救った事として皆感謝しているようなのはよくわかった。
 俺一人で全てをやったわけじゃないんだけどなぁ。

「……そんなに会いたいのなら、目の前に憧れの英雄様がいますよ? ほら」
「ちょ、アメリさん!?」
「ほぇ?」
「うふふ、大きな事を成して多くの人を助けたんだから、もっといっぱい感謝されなきゃね?」

 突然アメリさんが、俺の後ろに回って背中を押しながら男性の方に伝える。
 できるだけ離れてあまり目立たないようにしていたんだけど、それが無駄になってしまった……。
 男性は、いきなりの事で何を言われたのかわからず、変な声を出して俺を凝視。
 背中を押した格好のままのアメリさんに振り返ると、お茶目に笑ってウィンク。

 なんだか、本当にアメリさんの弟になった気分に一瞬だけなったけど……姉さんが、厳しくも面倒見のいい姉だとしたら、アメリさんはからかうのが好きな姉って感じだ。
 どちらも逆らえないと思うのは、俺が弟気質になってしまっているからだろうか……。

「……な、何を言っているのかしら? 英雄様は、もっと美形で凛々しいはずよ?」
「それ、饅頭の形から見た顔でしょ?」
「え、えぇ。だって、あれが英雄リク様だって……って、頭に白くてふわふわな毛玉……確かリク様は、常にその頭にドラゴン様を乗せているとか……」
「毛玉じゃないのだわ! れっきとしたドラゴンなのだわ!」
「っ!? 喋った、という事は……本当に?」

 パレードとかをやりはしたけど、目の前の男性はその時俺の事を見れなかったのか、ちゃんとした俺の顔は知らなかったらしい。
 饅頭を見て、かなり美化された俺の顔を想像していたんだろう……自覚はあるけど、目の前にいる本物の俺はあれに比べたらかなり貧相だからね……ソフィー、ユノ、俺から顔を背けて笑うんじゃない。
 アメリさんから、それは饅頭だと指摘された男性は俺の頭にくっ付いている毛玉……もといエルサに注目。
 どうやら噂が原因で、エルサがくっ付いている事は知られていたらしい。

 まぁ、俺が兜をかぶって顔を隠しても、エルサでバレたくらいだからそれも当然か。
 毛玉と言われて、我関せずだったエルサが講義するように声を上げると、そこで初めてドラゴンだと認識した様子で、男性はモニカさんやアメリさんに問いかけた。
 喋る毛玉なんて通常あるわけないから、エルサがくっ付いていてさらに喋る事が証明になるのかぁ――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...