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お店からの感謝

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 あの後、俺達のテーブルや他のテーブルを見ても、叫んだウェイトレスさんは表に出て来なかったけど、もしかしたら裏で密かに叱られているのかもと思って、あまり責めないでもらうようにもお願いする。
 俺のせいで叱られていると思うと、どうしてもね。
 あと、俺達のテーブルにはそのままオーナーさんが付く事になったんだけど、偉い人に見られているようでちょっと緊張する……姉さんやヴェンツェルさんとかと食事をしているのに、今さらではあるけども。

「うまうまーなのだわ!」
「ほんと、美味しいわ。……父さんや母さんにも教えてあげたいけど、さすがにここと獅子亭じゃ色々と違い過ぎるわね」
「獅子亭は、冒険者には評判の店なんだが、こことは方向性が違うからな。どちらも美味い」
「美味しいのー!」
「本当に美味しいよ。アメリさん、いいお店を紹介してくれて、ありがとうございます」
「うふふ、最初はどうなる事かと思ったけど、皆美味しそうに食べているから、紹介した甲斐があったね」
「……」

 料理が運ばれてきて、皆で食べ始めるとその美味しさにすぐ笑顔になる俺達。
 獅子亭の料理も美味しいんだけど、このお店はまたそれとは違う味わいというかなんというか……さすが高級レストラン、と思える。
 途中、店の奥から顔を覗かせていた料理人さんっぽい人が、俺達の様子をながらガッツポーズをしていたのを、視線で睨んで牽制するオーナーさん。
 食べて喜ばれるか、料理した人達の方も気になっていたみたいだ。

 ちなみに、料理を頼む際にメニューを見た時はちょっとだけ困ったりもした……だって、料理名からどんな物なのかがよくわからなかったから。
 何々風の何々の何々……というような長い料理名で、なんとなくどういう食材を使っているかがわかる物もあれば、全然わからない物まで多種多様。
 食材がわかっても、どう料理されているのかすらわからない物が多かったので、仕方なくほとんどの注文をアメリさんやオーナーさんに任せる事にした。
 ざっくりと、こういった感じの物が食べたいなぁとか、テーブルマナーとかがよくわからないので、気にせず食べられそうな物……くらいには伝えたけど。

 モニカさんやソフィーは、こういったお店に今まで縁がなかったのでわからない様子だったし、エルサやユノは当然ながらわからないからね。
 アメリさんは、王都に来て色々見て回るうちにある程度覚えたらしいから、頼りになった。
 ……もしかすると、ハーロルトさんと一緒にとか考えながら、いいお店を探していたとかかもしれない……なんて考えるのは、姉さんのように邪推になってしまうかな?

「リク様には我々一同、本当に感謝しているのです」
「……そうなんですか?」

 俺達が料理を食べている様子を嬉しそうに眺めていたオーナーさんが、ある程度食事が落ち着いた頃合いに話しかけられる。
 話ができそうな様子を窺っていたんだろう……コース料理ではないけど、食後のデザートと思われる甘いお菓子をつつきながら、オーナーさんと話す。
 まぁ、エルサとユノはまだ結構な勢いで料理を食べているけど。
 ……よく食べるなぁ。

「はい。この店の場所からわかる通り、以前魔物が押し寄せて来た時は、もうダメかと覚悟したものです」
「あぁ、あの時に……」

 アメリさんが紹介してくれたお店は、大通りから少し外れているくらいで、距離的には近い。
 魔物が王城へ向かってきた際には、大量にいたために通りやすい大通りを通ったみたいだけど、その際に面しているお店や人にも多少なりとも被害が出た。
 特に建物関係は結構酷かったらしいけど、今はその面影すらなくなるくらいに修復されている。
 そして、そんな魔物の大群が通った場所から近いこのお店……全ての魔物が近くを通ったわけではないけど、あれだけの魔物が迫るのを間近で見たら、色々と覚悟してしまうのも仕方ないだろう。

「あの時は店の者達を逃がすにも、どこへ逃がせばいいのかすらわからず……この店の中で身を寄せ合って震えていたのです。幸い魔物達は、この店には目もくれず王城へと向かったようで、軒先が少々壊された程度でしたが……あのままですと城への被害もさることながら、いずれこの店も襲われていたのは間違いないでしょう」

 魔物達がどうして王城だけを目指していたのかわからないけど、おかげで通りがかった場所で建物が破壊されたりはしても、人への被害はあまり多くなかったと聞いている。
 だからか、このお店も多少壊された物があっても、人にはほぼ被害が出なかったようだ。
 通りがかるだけではあったけど、あのまま王城で長く戦闘していたり、被害が大きくなっていったら、町の方にももっと酷い被害が出てもおかしくなかったからね。
 ただ、俺は王城の方にいたし、町では兵士さんの他にマックスさん達も含めて冒険者さん達とか、戦える人達が頑張ってくれたから、被害が少なくて済んだんだと思う。

「でもあの時俺は、城に殺到している魔物をいっぺんに倒す……というのはやりましたけど、町の方を守ったのは他の人達だと思いますよ?」
「町を守ろうと、魔物と戦って頂いた方達にはもちろん感謝しております。ですが、リク様が早々に魔物を討伐して下さったおかげで、守り切れたのだとも考えております。聞けば、あれだけの魔物が押し寄せたにもかかわらず、人への被害はあまり多くはなかったと……もちろん、ないわけではありませんが」
「そうですね。俺一人の力で全員を守ったわけじゃないですけど……早めに討伐できたのは良かったと思っています」
「はい。ですので、町の者達を始め、この店の者達もリク様には心から感謝しているのです。まさしく、英雄であると。あの件が起こるまでは、英雄としてリク様に勲章をというお触れがありましたが……その際にはただ、町の者達もお祭り程度にしか考えていなかったのです」
「まぁ、それが普通だと思いますよ?」

 勲章が授けられるといっても、王都とは別の場所で魔物を倒しただけだからね。
 直接拘わった人じゃなければ、ただ便乗してお祭りが開かれるとかくらいにしか考えなくても、おかしくないだろうね。
 それだけでも、十分王都は賑わったようだし、俺達が初めてきた時も明るい雰囲気の賑わいだったし、そんなもんだろうと思う。

「ですがあの件があり、正しくリク様が英雄であると認識を新たにし、私達がこうして何事もなく過ごせるのもリク様のおかげであると……ですので、もしいつかリク様が当店を訪れる事になるのであれば、店を上げての歓迎をしようと、従業員一同で決めていたのです。少々、違った方向での騒ぎになってしまいましたが……それでも、こうしてリク様方をお迎えできた事、喜ばしい限りに存じます」
「うーん、ちょっと大袈裟な気もしますけど……」

 オーナーさんより、感謝を伝えられてまた深々と頭を下げられる。
 さらに他のウェイターさんやウェイトレスさんだけでなく、奥から先程のウェイトレスさんや料理人さんまで出て来て、一斉に頭を下げられた……おそらく、オーナーさんと俺の話を聞いていたんだろう。
 お客さんも含めて静かだったから、聞き耳を立てていたのかもしれない。
 というか、料理を食べていた俺達以外のお客さんまで、立ち上がって頭を下げている……そこまでしなくてもいいんですよ?


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