803 / 1,903
お店からの感謝
しおりを挟むあの後、俺達のテーブルや他のテーブルを見ても、叫んだウェイトレスさんは表に出て来なかったけど、もしかしたら裏で密かに叱られているのかもと思って、あまり責めないでもらうようにもお願いする。
俺のせいで叱られていると思うと、どうしてもね。
あと、俺達のテーブルにはそのままオーナーさんが付く事になったんだけど、偉い人に見られているようでちょっと緊張する……姉さんやヴェンツェルさんとかと食事をしているのに、今さらではあるけども。
「うまうまーなのだわ!」
「ほんと、美味しいわ。……父さんや母さんにも教えてあげたいけど、さすがにここと獅子亭じゃ色々と違い過ぎるわね」
「獅子亭は、冒険者には評判の店なんだが、こことは方向性が違うからな。どちらも美味い」
「美味しいのー!」
「本当に美味しいよ。アメリさん、いいお店を紹介してくれて、ありがとうございます」
「うふふ、最初はどうなる事かと思ったけど、皆美味しそうに食べているから、紹介した甲斐があったね」
「……」
料理が運ばれてきて、皆で食べ始めるとその美味しさにすぐ笑顔になる俺達。
獅子亭の料理も美味しいんだけど、このお店はまたそれとは違う味わいというかなんというか……さすが高級レストラン、と思える。
途中、店の奥から顔を覗かせていた料理人さんっぽい人が、俺達の様子をながらガッツポーズをしていたのを、視線で睨んで牽制するオーナーさん。
食べて喜ばれるか、料理した人達の方も気になっていたみたいだ。
ちなみに、料理を頼む際にメニューを見た時はちょっとだけ困ったりもした……だって、料理名からどんな物なのかがよくわからなかったから。
何々風の何々の何々……というような長い料理名で、なんとなくどういう食材を使っているかがわかる物もあれば、全然わからない物まで多種多様。
食材がわかっても、どう料理されているのかすらわからない物が多かったので、仕方なくほとんどの注文をアメリさんやオーナーさんに任せる事にした。
ざっくりと、こういった感じの物が食べたいなぁとか、テーブルマナーとかがよくわからないので、気にせず食べられそうな物……くらいには伝えたけど。
モニカさんやソフィーは、こういったお店に今まで縁がなかったのでわからない様子だったし、エルサやユノは当然ながらわからないからね。
アメリさんは、王都に来て色々見て回るうちにある程度覚えたらしいから、頼りになった。
……もしかすると、ハーロルトさんと一緒にとか考えながら、いいお店を探していたとかかもしれない……なんて考えるのは、姉さんのように邪推になってしまうかな?
「リク様には我々一同、本当に感謝しているのです」
「……そうなんですか?」
俺達が料理を食べている様子を嬉しそうに眺めていたオーナーさんが、ある程度食事が落ち着いた頃合いに話しかけられる。
話ができそうな様子を窺っていたんだろう……コース料理ではないけど、食後のデザートと思われる甘いお菓子をつつきながら、オーナーさんと話す。
まぁ、エルサとユノはまだ結構な勢いで料理を食べているけど。
……よく食べるなぁ。
「はい。この店の場所からわかる通り、以前魔物が押し寄せて来た時は、もうダメかと覚悟したものです」
「あぁ、あの時に……」
アメリさんが紹介してくれたお店は、大通りから少し外れているくらいで、距離的には近い。
魔物が王城へ向かってきた際には、大量にいたために通りやすい大通りを通ったみたいだけど、その際に面しているお店や人にも多少なりとも被害が出た。
特に建物関係は結構酷かったらしいけど、今はその面影すらなくなるくらいに修復されている。
そして、そんな魔物の大群が通った場所から近いこのお店……全ての魔物が近くを通ったわけではないけど、あれだけの魔物が迫るのを間近で見たら、色々と覚悟してしまうのも仕方ないだろう。
「あの時は店の者達を逃がすにも、どこへ逃がせばいいのかすらわからず……この店の中で身を寄せ合って震えていたのです。幸い魔物達は、この店には目もくれず王城へと向かったようで、軒先が少々壊された程度でしたが……あのままですと城への被害もさることながら、いずれこの店も襲われていたのは間違いないでしょう」
魔物達がどうして王城だけを目指していたのかわからないけど、おかげで通りがかった場所で建物が破壊されたりはしても、人への被害はあまり多くなかったと聞いている。
だからか、このお店も多少壊された物があっても、人にはほぼ被害が出なかったようだ。
通りがかるだけではあったけど、あのまま王城で長く戦闘していたり、被害が大きくなっていったら、町の方にももっと酷い被害が出てもおかしくなかったからね。
ただ、俺は王城の方にいたし、町では兵士さんの他にマックスさん達も含めて冒険者さん達とか、戦える人達が頑張ってくれたから、被害が少なくて済んだんだと思う。
「でもあの時俺は、城に殺到している魔物をいっぺんに倒す……というのはやりましたけど、町の方を守ったのは他の人達だと思いますよ?」
「町を守ろうと、魔物と戦って頂いた方達にはもちろん感謝しております。ですが、リク様が早々に魔物を討伐して下さったおかげで、守り切れたのだとも考えております。聞けば、あれだけの魔物が押し寄せたにもかかわらず、人への被害はあまり多くはなかったと……もちろん、ないわけではありませんが」
「そうですね。俺一人の力で全員を守ったわけじゃないですけど……早めに討伐できたのは良かったと思っています」
「はい。ですので、町の者達を始め、この店の者達もリク様には心から感謝しているのです。まさしく、英雄であると。あの件が起こるまでは、英雄としてリク様に勲章をというお触れがありましたが……その際にはただ、町の者達もお祭り程度にしか考えていなかったのです」
「まぁ、それが普通だと思いますよ?」
勲章が授けられるといっても、王都とは別の場所で魔物を倒しただけだからね。
直接拘わった人じゃなければ、ただ便乗してお祭りが開かれるとかくらいにしか考えなくても、おかしくないだろうね。
それだけでも、十分王都は賑わったようだし、俺達が初めてきた時も明るい雰囲気の賑わいだったし、そんなもんだろうと思う。
「ですがあの件があり、正しくリク様が英雄であると認識を新たにし、私達がこうして何事もなく過ごせるのもリク様のおかげであると……ですので、もしいつかリク様が当店を訪れる事になるのであれば、店を上げての歓迎をしようと、従業員一同で決めていたのです。少々、違った方向での騒ぎになってしまいましたが……それでも、こうしてリク様方をお迎えできた事、喜ばしい限りに存じます」
「うーん、ちょっと大袈裟な気もしますけど……」
オーナーさんより、感謝を伝えられてまた深々と頭を下げられる。
さらに他のウェイターさんやウェイトレスさんだけでなく、奥から先程のウェイトレスさんや料理人さんまで出て来て、一斉に頭を下げられた……おそらく、オーナーさんと俺の話を聞いていたんだろう。
お客さんも含めて静かだったから、聞き耳を立てていたのかもしれない。
というか、料理を食べていた俺達以外のお客さんまで、立ち上がって頭を下げている……そこまでしなくてもいいんですよ?
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる