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城下町で広まる新たな噂

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 姉さんへのマッサージは日本にいた時もよくやっていたから、力加減はなんとなくわかるからいいんだけど……知らない人が聞いたらどう思うかわからない声だったので、注意しようとしたら逆に睨まれてしまった。
 また年齢関係で怒られてもいけないので、余計な事は言わないように気を付けないとね。

 それに、エルサはお風呂に入るとオジサンっぽい声を漏らす事もあるし、年齢のに関してはかなり高い……おっと、こっちも迂闊に変な事を考えてちゃいけないね。
 姉さんに撫でられて、なぜか自慢気なエルサがこちらににらみを利かせていた……契約している関係上、俺が考えている事がなんとなく伝わるみたいだから……。
 なんとか危機を回避しながら、今日はのんびりしながら過ごした。
 モニカさん達も、のんびりできたかな? もちろん、訓練場の隅を少しだけ借りて、素振りをしたりと最低限の事はしていたけどね――。


―――――――――――――――


 翌日、朝食を食べ終わった頃にモニカさんやソフィー、フィネさんが揃ってやってきた。

「ほら、リクさん。これリクさんなんだって!」
「……前にも似たのを見たけど、やっぱりちょっと微妙な気分だね」

 モニカさん達は、昨日城下町をフィネさんと一緒に回ったらしく、それぞれが買い物をしたりしていたらしい。
 その中で見つけたお菓子……以前勲章授与式に備えて、城下町を回れなかった俺に、モニカさん達が買って来てくれた物と近かった。
 以前は俺を想像して全身像を使って作っていたんだけど、今回はパレードをやった影響か、俺の顔を知った人たちが似せて作った饅頭のような物らしい。
 ただ、前回もそうだったけど、明らかに美化されて作られているので、やっぱり微妙な気分になるのは変わらない。

 どこかのイケメン騎士様……と言った方が近いくらいの見た目だからね。
 まぁ、それだけ精巧に作る技術そのものは、凄いと思うけど……。

「美味しいの!」
「まだまだあるから、いっぱいリクを食べてもいいぞ」
「俺を食べるって言わないで欲しいな……」

 ソフィーから俺の顔の形をしているらしい饅頭を受け取り、パクパクと食べているユノ。
 顔の造形自体はかけ離れていると言わざるを得ないけど、俺に似せている顔を食べられるのも、また微妙な気分……気にしない方がいいんだろうけど。
 エルサも、フィネさんからもらったのをもくもくと食べているようだし、皆抵抗はないようだ……まぁ、食べ物だから食べるのが当然か。
 というか、俺の肖像権は一体どこに……この世界で、そんなものがあるのか知らないけど。

「でも、悪い事ばかりじゃないわよ?」
「うーん……そうは思えないけど……」
「店の主人に聞いたら、かなりの売れ筋商品らしくてな。王都で今一番売れている菓子らしいぞ? つまり、この似せているのに似ていない菓子が広まったら、皆リクの顔を見ても反応する事が減るかんもしれない」
「それに、大分リクさんの噂についても、話している人が減った印象ね。やっぱりいないわけじゃないし、相変わらずキューは売れているようだけど……そろそろ、気を付けながらだったら城下町を歩けるんじゃないかしら?」
「まぁ、これを見て俺の顔だと認識していたら、本物を見ても気付かない可能性が高そう……かな?」
「しかし、あの噂はなんだったんでしょうね? 魔物に襲われていたら、空から降りて助けてくれる騎士様って……」

 自分の顔とは似ていないはずのお菓子を持ち、難しい表情をしてしまっている自覚のある俺に、モニカさんやソフィーが教えてくれる。
 噂に関してはそろそろ、俺に関する事は下火になっているうえ、このお菓子で俺が町を歩いても気付かない人が多くなっているだろうとの事。
 噂も収まって来ているのと合わせると、以前のような騒ぎになる事はなさそうで、そろそろ何も気にせず王都観光ができそうで嬉しい……一応、あまり自己主張しないようには気を付けないといけないだろうけど。
 そうしていると、城下町の噂を聞いていた時に何か疑問を感じる事があったのか、フィネさんが首を傾げた。

「空からって、何もない所から助けが来るわけでもないのに、なんだったのかしらね?」
「そうだな。まぁ、魔物に襲われている時、誰かの助けが来るかもという噂は、よくある話だ。戦えない者が一部の弱い魔物を除いて襲われたら、絶望するしかないからな。そういった噂で安心を得ている部分もある」
「それは確かに。ですけど、空から……と言うのは聞いた事がありませんでした。何か、根拠でもあるのでしょうか?」
「噂って、尾びれ背びれが付いて、大袈裟になっている事が多いから、それなんじゃないですか?」
「……リク様、その噂に関しては心当たりがございます」
「ヒルダさんがですか?」

 フィネさんが聞いたといううわさ話は、戦えない人からするといざという時助けてもらえるかも、と考えて安心感を得るためのものらしい。
 他にも様々な噂があるようだけど、空から助けがというのが珍しく、フィネさんは少し引っかかったようだ。
 とはいえ、噂なんて伝言ゲームだから、信憑性が怪しいからなぁ……細かい部分はあまり気にしない方がいいのかもしれない。
 なんて考えていると、お菓子を食べる皆のために、お茶の用意をしてくれていたヒルダさんは、何か知っている事があるようだ。

「噂そのものは、リク様が話題にされる頻度を下げようと、ハーロルト様が仕掛けたのだと思います」
「ハーロルトさんが……そういえば、以前そんな事も言っていた気がします」

 俺が城下町を歩けないという状況に対して、ハーロルトさんが別の噂を流して話題を挿げ替える事で、騒動にならないように……とかだったはず。
 まぁ、噂が広まるのも一日二日でというわけではなかったようなので、日数がかかったようだけど、ルジナウムやブハギムノングに行く前に、確かそろそろ俺の噂も薄まってきたとか言われた気がする。
 それがさらに日が経つ事で浸透して、空からなんて噂になってしまったのだろうか?

「モニカ様達が聞いたという噂ですが、おそらく空からという部分には、アメリ様が拘わっているのかと……」
「アメリさんが?」
「はい。リク様が救出し、こちらへ連れて参りましたが……現在はハーロルト様の邸宅でお過ごしになっています。そして、城下町を回って王都を満喫されているようです。その中で、王都へ来る前に魔物に襲われた事や、リク様に助けられた事を話しておられると……ハーロルト様が漏らしていたのを陛下がお聞きになられておりました」
「……つまり、アメリさんがその噂の元だったと……」
「おそらくは。ただ、リク様の事だとは言わなかったようで、空から何者が助けに来る、という話になって広まったのだと思われます」

 噂の出どころは、アメリさんだったかぁ……まぁ、別に助けた事を口止めしたりはしなかったし、その必要もない。
 ハーロルトさんの幼馴染、というより傍から見たら恋人のように見えるけど……それはともかく、アメリさんは情報をもたらしてくれた人でもあるし、一人で村に戻すのも危険だという事で、村には伝令を送ってアメリさんはしばらく王都に滞在するとは聞いた。
 それで城下町観光をしている時、王都に来るまでの事をある程度話したんだろうね。
 一応、エルサの事や俺の事は言っていないみたいだし、お店で買い物をしたりする際に、ちょっとした雑談で話したんだろうなぁ、と思う――。


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