791 / 1,903
城下町で広まる新たな噂
しおりを挟む姉さんへのマッサージは日本にいた時もよくやっていたから、力加減はなんとなくわかるからいいんだけど……知らない人が聞いたらどう思うかわからない声だったので、注意しようとしたら逆に睨まれてしまった。
また年齢関係で怒られてもいけないので、余計な事は言わないように気を付けないとね。
それに、エルサはお風呂に入るとオジサンっぽい声を漏らす事もあるし、年齢のに関してはかなり高い……おっと、こっちも迂闊に変な事を考えてちゃいけないね。
姉さんに撫でられて、なぜか自慢気なエルサがこちらににらみを利かせていた……契約している関係上、俺が考えている事がなんとなく伝わるみたいだから……。
なんとか危機を回避しながら、今日はのんびりしながら過ごした。
モニカさん達も、のんびりできたかな? もちろん、訓練場の隅を少しだけ借りて、素振りをしたりと最低限の事はしていたけどね――。
―――――――――――――――
翌日、朝食を食べ終わった頃にモニカさんやソフィー、フィネさんが揃ってやってきた。
「ほら、リクさん。これリクさんなんだって!」
「……前にも似たのを見たけど、やっぱりちょっと微妙な気分だね」
モニカさん達は、昨日城下町をフィネさんと一緒に回ったらしく、それぞれが買い物をしたりしていたらしい。
その中で見つけたお菓子……以前勲章授与式に備えて、城下町を回れなかった俺に、モニカさん達が買って来てくれた物と近かった。
以前は俺を想像して全身像を使って作っていたんだけど、今回はパレードをやった影響か、俺の顔を知った人たちが似せて作った饅頭のような物らしい。
ただ、前回もそうだったけど、明らかに美化されて作られているので、やっぱり微妙な気分になるのは変わらない。
どこかのイケメン騎士様……と言った方が近いくらいの見た目だからね。
まぁ、それだけ精巧に作る技術そのものは、凄いと思うけど……。
「美味しいの!」
「まだまだあるから、いっぱいリクを食べてもいいぞ」
「俺を食べるって言わないで欲しいな……」
ソフィーから俺の顔の形をしているらしい饅頭を受け取り、パクパクと食べているユノ。
顔の造形自体はかけ離れていると言わざるを得ないけど、俺に似せている顔を食べられるのも、また微妙な気分……気にしない方がいいんだろうけど。
エルサも、フィネさんからもらったのをもくもくと食べているようだし、皆抵抗はないようだ……まぁ、食べ物だから食べるのが当然か。
というか、俺の肖像権は一体どこに……この世界で、そんなものがあるのか知らないけど。
「でも、悪い事ばかりじゃないわよ?」
「うーん……そうは思えないけど……」
「店の主人に聞いたら、かなりの売れ筋商品らしくてな。王都で今一番売れている菓子らしいぞ? つまり、この似せているのに似ていない菓子が広まったら、皆リクの顔を見ても反応する事が減るかんもしれない」
「それに、大分リクさんの噂についても、話している人が減った印象ね。やっぱりいないわけじゃないし、相変わらずキューは売れているようだけど……そろそろ、気を付けながらだったら城下町を歩けるんじゃないかしら?」
「まぁ、これを見て俺の顔だと認識していたら、本物を見ても気付かない可能性が高そう……かな?」
「しかし、あの噂はなんだったんでしょうね? 魔物に襲われていたら、空から降りて助けてくれる騎士様って……」
自分の顔とは似ていないはずのお菓子を持ち、難しい表情をしてしまっている自覚のある俺に、モニカさんやソフィーが教えてくれる。
噂に関してはそろそろ、俺に関する事は下火になっているうえ、このお菓子で俺が町を歩いても気付かない人が多くなっているだろうとの事。
噂も収まって来ているのと合わせると、以前のような騒ぎになる事はなさそうで、そろそろ何も気にせず王都観光ができそうで嬉しい……一応、あまり自己主張しないようには気を付けないといけないだろうけど。
そうしていると、城下町の噂を聞いていた時に何か疑問を感じる事があったのか、フィネさんが首を傾げた。
「空からって、何もない所から助けが来るわけでもないのに、なんだったのかしらね?」
「そうだな。まぁ、魔物に襲われている時、誰かの助けが来るかもという噂は、よくある話だ。戦えない者が一部の弱い魔物を除いて襲われたら、絶望するしかないからな。そういった噂で安心を得ている部分もある」
「それは確かに。ですけど、空から……と言うのは聞いた事がありませんでした。何か、根拠でもあるのでしょうか?」
「噂って、尾びれ背びれが付いて、大袈裟になっている事が多いから、それなんじゃないですか?」
「……リク様、その噂に関しては心当たりがございます」
「ヒルダさんがですか?」
フィネさんが聞いたといううわさ話は、戦えない人からするといざという時助けてもらえるかも、と考えて安心感を得るためのものらしい。
他にも様々な噂があるようだけど、空から助けがというのが珍しく、フィネさんは少し引っかかったようだ。
とはいえ、噂なんて伝言ゲームだから、信憑性が怪しいからなぁ……細かい部分はあまり気にしない方がいいのかもしれない。
なんて考えていると、お菓子を食べる皆のために、お茶の用意をしてくれていたヒルダさんは、何か知っている事があるようだ。
「噂そのものは、リク様が話題にされる頻度を下げようと、ハーロルト様が仕掛けたのだと思います」
「ハーロルトさんが……そういえば、以前そんな事も言っていた気がします」
俺が城下町を歩けないという状況に対して、ハーロルトさんが別の噂を流して話題を挿げ替える事で、騒動にならないように……とかだったはず。
まぁ、噂が広まるのも一日二日でというわけではなかったようなので、日数がかかったようだけど、ルジナウムやブハギムノングに行く前に、確かそろそろ俺の噂も薄まってきたとか言われた気がする。
それがさらに日が経つ事で浸透して、空からなんて噂になってしまったのだろうか?
「モニカ様達が聞いたという噂ですが、おそらく空からという部分には、アメリ様が拘わっているのかと……」
「アメリさんが?」
「はい。リク様が救出し、こちらへ連れて参りましたが……現在はハーロルト様の邸宅でお過ごしになっています。そして、城下町を回って王都を満喫されているようです。その中で、王都へ来る前に魔物に襲われた事や、リク様に助けられた事を話しておられると……ハーロルト様が漏らしていたのを陛下がお聞きになられておりました」
「……つまり、アメリさんがその噂の元だったと……」
「おそらくは。ただ、リク様の事だとは言わなかったようで、空から何者が助けに来る、という話になって広まったのだと思われます」
噂の出どころは、アメリさんだったかぁ……まぁ、別に助けた事を口止めしたりはしなかったし、その必要もない。
ハーロルトさんの幼馴染、というより傍から見たら恋人のように見えるけど……それはともかく、アメリさんは情報をもたらしてくれた人でもあるし、一人で村に戻すのも危険だという事で、村には伝令を送ってアメリさんはしばらく王都に滞在するとは聞いた。
それで城下町観光をしている時、王都に来るまでの事をある程度話したんだろうね。
一応、エルサの事や俺の事は言っていないみたいだし、お店で買い物をしたりする際に、ちょっとした雑談で話したんだろうなぁ、と思う――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる