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王都へ向かう人達の見送り
しおりを挟む試乗会をした後に、修復したテントに入って寝る際、ちょっとした工夫をしておく。
テントとしての機能はしているから問題という問題はないんだけど、ちょっとだけ隙間風が入ってきていたので、結界で包んだくらいだけどね。
縫い付けが甘かったのか、担当したソフィー達が不慣れだったのかはわからないけど、結界を使ってテントを包むのはあまりやらない方がいいような気がする。
……隔絶されて、テントの外から人の気配や音に気付かないから、快適ではあるけどそれに慣れてしまったら通常では寝られなくなりそうだし、なにより警戒心が薄れまくってしまうだろうからね。
まぁ、ここでは兵士さん達が大勢いるから大丈夫だけど、俺やモニカさん達だけの時は魔物が近付いて来た時に対応するため、警戒をなくしちゃいけないから――。
―――――――――――――――
翌日、朝食を食べた後は昨日に続いて再びエルサ試乗会が開催される。
王都へ先に戻る兵士さん達は昨日終わったので、今日は地下施設を調べている人達だ。
屋内で延々と調査をしていると気が滅入って来る場合があるので、空を飛んで気分転換に良さそうだね。
「はい、定員です。まだの方はそのままでお待ち下さい! 順番に乗せてもらえますからねー!」
昨日で完全に慣れたフィネさんは、俺が何かを言うまでもなく兵士さんを誘導してエルサに乗せてくれる……これ、俺いらないんじゃないかな? と思うけど、エルサが兵士さんを乗せるための条件は俺が一緒に乗る事だし、結界を調整して風が入って来るようにもしないといけないから、仕方がない。
他にやる事があるわけじゃないからいいんだけど、まぁこれも魔法の練習と思えばいいか。
フィリーナは、王都へ連行する人達や兵士さん達と段取りなどの話をしていて、モニカさんとソフィーはヴェンツェルさんの方を手伝っている。
ちなみに、隠し通路で眠らされた兵士さんは昨晩遅くに目が覚めたと、マルクスさんから報告を受けた。
長時間眠っていたのもあって体への影響がないとは言えないらしいけど、副作用とか動けなくなった李の心配もないらしい…… 眠らされた時の前後の記憶は曖昧らしいけど、これは長時間寝ていた影響なだけだろうという事だ。
この人も、先立ってフィリーナ達と一緒に王都へ帰る予定になっている……まぁ、様子見とか念のためだね、まだ通常通りに体を動かすのは難しいらしいから、王都に戻って静養するらしい。
散々寝ていたから静養と言っても寝ているだけではなく、ヴェンツェルさんから厳しく訓練されるらしいけど。
「リク、クォンツァイタは確かに受け取ったわ。アルネにちゃんと届けるから安心してね」
「うん、お願いするよ今回の研究施設の事も含めて、王城に戻ったら皆と色々話さないといけないだろうから、研究に関してはその時に」
「まぁ、それまでにアルネがしっかり調べられるか、だけどね。それじゃあ」
「うん、気を付けて」
「リクこそ、もうあまり大きな事はないと思うけど、あまり無茶しちゃだめよ? これは言っても無駄かもしれないけど……」
「あはは、程々にしておくよ」
「フィリーナ、また王都で」
「あまり城にこもり過ぎるんじゃないぞ?」
何度か兵士さんを乗せて試乗会を続けた後、昼食を少し早めに終わらせた頃に、拘束した人達と一部の兵士さんが王都へ向かう準備が整う。
クォンツァイタはソフィーが持って来ていたのも渡しており、今は兵士さん達が持ってくれている。
フィリーナと一旦別れる挨拶をして、馬車へと向かうのを見送った……逃げた男の方は魔法が使えないので、単純に拘束しているだけだけど、ツヴァイがいる馬車周辺は兵士さんが多目に配置されていて厳重だ。
もちろん、ツヴァイを見張る役目も請け負ったフィリーナは、その馬車の近くを走る馬車に乗る手はずになっていた。
「リク殿、今回は助かった。まさかこれだけの規模とは……リク殿がいなかったら、オーガに苦戦してこれだけの成果を挙げられなかっただろう。逃げられる者も多かったろうしな。帝国の事もあるし、これからしばらく陛下も含めて色々忙しくなりそうだ……」
「いえ、協力できたならそれで。俺も王城へ戻ったら……きっと駆り出されるんでしょうけど、ここの施設だけじゃなく、ルジナウムやブハギムノングでの事も含めて話し合いでしょうね」
「まぁ、リク殿が中心に起こした事ではないが、解決の立役者だからな。陛下にも呼ばれるだろう」
呼ばれるというか、姉さんから強制的に参加させられる気がしないでもないけど、断ったり嫌がったりするつもりはない。
「とりあえず、今回の事でわかった事や捕まえた者達を調べるのは、リク殿が戻るまでにやっておく。その頃には体がなまっていそうだから、また訓練に付き合ってくれるとありがたい」
「ははは、わかりました」
ヴェンツェルさんは、将軍という地位がある人なので長い間王城を離れていたら支障が出てしまうため、ここで帰還だ。
この数日だけでも、帰ったらハーロルトさんが仕事をさせるために手ぐすね引いて待っているだろう、とはヴェンツェルさんの予想。
日頃サボりがちだから、処理しなきゃいけない書類とかそういうのが溜まっているんだろうなぁ……。
エアラハールさんとの訓練があるから、ヴェンツェルさんと訓練するのも鍛える意味ではちょうどいいだろうし、望むところだ。
「それではな!」
「はい、お気をつけて―!」
身をひるがえして自分の馬に向かうヴェンツェルさんに、手を振って見送る。
ここにはマルクスさんが残り、引き継いで指揮を執るらしいけど、半分以上の兵士さんは拘束者を連れて王都へ向かうので、人数が少ない分やりやすくなるだろう……というより、元々マルクスさんは中隊長としてこれ以上の人数を指揮する事があるらしいので、心配はなさそうだ。
さらに、明日から少しずつ兵士を王都へ帰還させる手筈になっているみたいだけど、調査に割く人数が多過ぎてもはかどるわけではないからね。
あと、新兵さんの中で鎧を盗まれた人と、一緒に小隊を組んでいた新兵さん達もこの便で帰るようになっている。
こちらは、薬の影響はほとんどなく、俺達が男を取り調べしているくらいで起きたらしいので、帰ったら厳しい訓練を課されるらしい……まぁ、鎧を盗まれるなんて事になったから、罰みたいなものだろう。
そこまでされているのだから、場合によっては無防備にやられる可能性もあるため、気を引き締めさせるとヴェンツェルさんは言っていた。
訓練が厳し過ぎて、兵士を止めたくなったりしなきゃいいけど……なんて心配は、俺がしなくてもいい事かな。
「行ったわねぇ」
「そうだね。よし! それじゃこっちもやる事をやらないと」
「そうね。そろそろルジナウムに残して来たユノちゃんがどうしているのか、心配になってきたし……」
「ユノなら、楽しんで過ごしてそうじゃない?」
「でも、エアラハールさんも一緒よ? 何かトラブルとか起こしてないといいんだけど」
「さすがにエアラハールさんでも、そこまでしょっちゅうトラブルを起こしたりは……するかぁ……」
ヴェンツェルさんやフィリーナが王都へ向かうのを見送り、地平線の向こう側で見えなくなる頃、モニカさんと話してユノ達の事を思い出した――。
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