上 下
731 / 1,903

安心するフィリーナ

しおりを挟む


「ふぅ……」
「落ち着いた、フィリーナ?」

 ツヴァイの尋問を終え、部屋を出て息を吐くフィリーナ。
 さっきまで怒っている雰囲気だったを、吐き出した息と共に整理し、落ち着かせているようだ。
 ちなみにツヴァイは、俺達が部屋を出る前にまた消音の魔法具を取り付けられて、声が出せない状態になっている……目の前にフレイちゃんがいなかったら、暴れ出して逃げようとするかもしれないからね。
 あと、フレイちゃんにはまた呼ぶと約束して、協力してくれた事に感謝して戻ってもらっている。

「フィリーナ、大丈夫? 私はここで聞いていただけだけど、なんだか焦っている様子だったから……」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう、モニカ。リクも、ごめんなさい……急に入って話し始めたりして」
「いや、大丈夫だよ。おかげで俺が話すよりも有益な情報が引き出せたようだし……ですよね、マルクスさん?」
「は、フィリーナ殿の事を知らなかった様子から察するに、確かにあのツヴァイという者は、我が国に属しているエルフとは別のエルフなのでしょう。その事からも、他国が拘っているという事がわかります」
「間違いないでしょうね。他国のエルフの事情は、私にもわからないから……なぜ魔物の研究をしているのかとか、あの方がどういう人物なのかはわからなかったけど……」

 フィリーナの目に関しては、アテトリア王国にあるエルフの集落では誰もが知っている事だった。
 先にフィリーナに確認していたから、違うのはわかっていたけど、ツヴァイはエヴァルトさんがいるエルフの集落とは別の場所に住んでいるエルフなのが確定した。
 この国には、あの集落以外にエルフが集まって住んでいる集落はないため、他国から来たと考えるのが通常だろう。
 まぁ、集落を出て生活しているエルフもいないとは限らないけど……この国でエルフが珍しいと言われている事からも、数が少ないのはわかりきっているし、そんなエルフをフィリーナが知らないという可能性は低いからね……ツヴァイがフィリーナを知らなかったという、逆もまたしかりだ。

 ついでに言うなら、王都ではフィリーナやアルネが外を歩いていた事もあるし、パレードにも参加していたうえに、俺の協力者として知れ渡っているので、こちら側にエルフがいる事を知らないのも、他国から来た証明の一つでもある……噂とか、随分広範囲に広がっているらしいからね。

「そういえば、リクの名前を聞いても驚いている様子が一切なかったから、そちらの方がわかりやすいんじゃない?」
「そうかな?」
「だって、リクと言えば今この国で一番盛り上がっている話題の人物よ? 毎日食卓ではリクの噂話が飛び交っていると聞くわ……真偽はともかくね」
「いや、それはちょっと言い過ぎなんじゃないかな? さすがに毎日、それも食卓で噂話をしているなんて事はないと思うけど……」
「ともあれ、リク様の話題は今この国にいる者なら、誰でも知っていてもおかしくありません。騙されていた研究者達も同様でしたから、それだけの間、人里離れて研究していたのかと思われます」
「ずっとこもって研究していれば、噂にも疎くなるでしょうからね。まぁ、それが他国からという事に繋がるかは微妙ですけど、ともあれ随分長い間ここで研究していたんでしょう。仲間内での連絡くらいはしていたんでしょうけど」

 イオスは俺の事を知っていたけど、あれはブハギムノングで鉱夫さん達に紛れて生活していたから、噂を聞く事があったんだろう。
 ツヴァイや研究者達は、ここで外部の人と接する機会が少なかったため、俺に関する噂を聞く事がなかったのだと思われる……最低限の連絡をするくらいだったんだろうね。
 というか、フィリーナは一体俺の噂がどれだけの規模で広まっていると考えているんだろう? 毎日食卓で俺の話なんて聞きたくないと思うんだけどなぁ……自分の事だから、特にそう思うのかもしれないけど。

「はぁ、それにしても……エルフが主導していると思われて、人間との関係悪化が起こったりしないか心配だったけど、なんとか大丈夫そうね」
「はい。ツヴァイの話やフィリーナ殿の話を聞いて、この国にあるエルフの集落が拘っていないのは確かなのでしょう」
「エルフは珍しがられるから、ちょっとした事で誤解を生んで妙な方向へ行かなくて良かったわ」

 種族間の問題に発展する可能性を考えていたから、フィリーナは怒っていたのか。
 確かに、魔物を研究して国民に被害が出てしまった時、フィリーナ達エルフが拘っていると知れたら、矛先がエルフの集落に向かう事だって考えられる。
 種族間の問題というのは、どこの世界でもデリケートな問題のようだね。

「でも、ツヴァイがエルフだから事情を詳しく知らない人達は、集落との関係が疑われたりするんじゃない?」
「嫌な事言わないでよ……一人一人説明するわけにもいかないし、そうなったら関係改善は絶望的ね」
「まぁ、少しずつ誤解を解いていくしかないんだろうけど……」
「その点はご安心を。逆に積極的にエルフが拘っている噂を流すとともに、エルフの集落出身のエルフが協力した事、そしてこの国のエルフではない事を喧伝するように致します。もっとも、ツヴァイの情報が外に出るようなら……ですが」
「変に断片的な情報を与えるよりも、確かな情報を与えて誤解を生まないように……という事ね。ありがたいわ」

 情報が少ないから、人は想像してこうじゃないか? と考えたりするわけで……つまり正確な情報を出して、この国に属しているエルフは悪者じゃなく、人間と交流していると伝えれば、誤解される事も少なくなるか。
 マルクスさんの提案で、フィリーナがホッと息を漏らす。
 積極的に人間と交流を持って、友好的にと考えているんだから、ここで誤解されたくはないだろうし、気持ちはわかる。

「あとそうだ、マルクスさん」
「はい、なんでしょうかリク様」
「研究者の人達を拘束する前に話をしたんですけど、その時にねぇ……じゃない、女王陛下の事も言っていたんです。それによると、研究者達はこの国の人なんじゃないかなと思うんですけど……?」
「リク様の考えている通り、研究者はこの国で生まれ育った者が多いようです。全てを確認するまではっきりと断定はできませんが……おそらくツヴァイはこの国にいる者を集めたのでしょう」
「ですよね。じゃなきゃ、陛下からの命令だからと言われて、黙って従う事はないですよね」

 ツヴァイが他国から来た人物だからといって、研究者が全員そうだとは限らない。
 姉さんからの命令書を偽造して、それを信じて研究していたと言っていたから、研究者達はこの国の人間で間違いないんだろう。
 他の国にいる人間だったら、アテトリア王国の女王からの命令を聞く必要なんてないからね。
 まぁ、この国なら魔物の研究ができる……と言って連れて来られた可能性もあるけど、女王陛下と姉さんに対して敬うような言動もあったから、この国の人間だというのは間違いないだろうし、いても少数だろうと思う――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...