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安心するフィリーナ
しおりを挟む「ふぅ……」
「落ち着いた、フィリーナ?」
ツヴァイの尋問を終え、部屋を出て息を吐くフィリーナ。
さっきまで怒っている雰囲気だったを、吐き出した息と共に整理し、落ち着かせているようだ。
ちなみにツヴァイは、俺達が部屋を出る前にまた消音の魔法具を取り付けられて、声が出せない状態になっている……目の前にフレイちゃんがいなかったら、暴れ出して逃げようとするかもしれないからね。
あと、フレイちゃんにはまた呼ぶと約束して、協力してくれた事に感謝して戻ってもらっている。
「フィリーナ、大丈夫? 私はここで聞いていただけだけど、なんだか焦っている様子だったから……」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう、モニカ。リクも、ごめんなさい……急に入って話し始めたりして」
「いや、大丈夫だよ。おかげで俺が話すよりも有益な情報が引き出せたようだし……ですよね、マルクスさん?」
「は、フィリーナ殿の事を知らなかった様子から察するに、確かにあのツヴァイという者は、我が国に属しているエルフとは別のエルフなのでしょう。その事からも、他国が拘っているという事がわかります」
「間違いないでしょうね。他国のエルフの事情は、私にもわからないから……なぜ魔物の研究をしているのかとか、あの方がどういう人物なのかはわからなかったけど……」
フィリーナの目に関しては、アテトリア王国にあるエルフの集落では誰もが知っている事だった。
先にフィリーナに確認していたから、違うのはわかっていたけど、ツヴァイはエヴァルトさんがいるエルフの集落とは別の場所に住んでいるエルフなのが確定した。
この国には、あの集落以外にエルフが集まって住んでいる集落はないため、他国から来たと考えるのが通常だろう。
まぁ、集落を出て生活しているエルフもいないとは限らないけど……この国でエルフが珍しいと言われている事からも、数が少ないのはわかりきっているし、そんなエルフをフィリーナが知らないという可能性は低いからね……ツヴァイがフィリーナを知らなかったという、逆もまたしかりだ。
ついでに言うなら、王都ではフィリーナやアルネが外を歩いていた事もあるし、パレードにも参加していたうえに、俺の協力者として知れ渡っているので、こちら側にエルフがいる事を知らないのも、他国から来た証明の一つでもある……噂とか、随分広範囲に広がっているらしいからね。
「そういえば、リクの名前を聞いても驚いている様子が一切なかったから、そちらの方がわかりやすいんじゃない?」
「そうかな?」
「だって、リクと言えば今この国で一番盛り上がっている話題の人物よ? 毎日食卓ではリクの噂話が飛び交っていると聞くわ……真偽はともかくね」
「いや、それはちょっと言い過ぎなんじゃないかな? さすがに毎日、それも食卓で噂話をしているなんて事はないと思うけど……」
「ともあれ、リク様の話題は今この国にいる者なら、誰でも知っていてもおかしくありません。騙されていた研究者達も同様でしたから、それだけの間、人里離れて研究していたのかと思われます」
「ずっとこもって研究していれば、噂にも疎くなるでしょうからね。まぁ、それが他国からという事に繋がるかは微妙ですけど、ともあれ随分長い間ここで研究していたんでしょう。仲間内での連絡くらいはしていたんでしょうけど」
イオスは俺の事を知っていたけど、あれはブハギムノングで鉱夫さん達に紛れて生活していたから、噂を聞く事があったんだろう。
ツヴァイや研究者達は、ここで外部の人と接する機会が少なかったため、俺に関する噂を聞く事がなかったのだと思われる……最低限の連絡をするくらいだったんだろうね。
というか、フィリーナは一体俺の噂がどれだけの規模で広まっていると考えているんだろう? 毎日食卓で俺の話なんて聞きたくないと思うんだけどなぁ……自分の事だから、特にそう思うのかもしれないけど。
「はぁ、それにしても……エルフが主導していると思われて、人間との関係悪化が起こったりしないか心配だったけど、なんとか大丈夫そうね」
「はい。ツヴァイの話やフィリーナ殿の話を聞いて、この国にあるエルフの集落が拘っていないのは確かなのでしょう」
「エルフは珍しがられるから、ちょっとした事で誤解を生んで妙な方向へ行かなくて良かったわ」
種族間の問題に発展する可能性を考えていたから、フィリーナは怒っていたのか。
確かに、魔物を研究して国民に被害が出てしまった時、フィリーナ達エルフが拘っていると知れたら、矛先がエルフの集落に向かう事だって考えられる。
種族間の問題というのは、どこの世界でもデリケートな問題のようだね。
「でも、ツヴァイがエルフだから事情を詳しく知らない人達は、集落との関係が疑われたりするんじゃない?」
「嫌な事言わないでよ……一人一人説明するわけにもいかないし、そうなったら関係改善は絶望的ね」
「まぁ、少しずつ誤解を解いていくしかないんだろうけど……」
「その点はご安心を。逆に積極的にエルフが拘っている噂を流すとともに、エルフの集落出身のエルフが協力した事、そしてこの国のエルフではない事を喧伝するように致します。もっとも、ツヴァイの情報が外に出るようなら……ですが」
「変に断片的な情報を与えるよりも、確かな情報を与えて誤解を生まないように……という事ね。ありがたいわ」
情報が少ないから、人は想像してこうじゃないか? と考えたりするわけで……つまり正確な情報を出して、この国に属しているエルフは悪者じゃなく、人間と交流していると伝えれば、誤解される事も少なくなるか。
マルクスさんの提案で、フィリーナがホッと息を漏らす。
積極的に人間と交流を持って、友好的にと考えているんだから、ここで誤解されたくはないだろうし、気持ちはわかる。
「あとそうだ、マルクスさん」
「はい、なんでしょうかリク様」
「研究者の人達を拘束する前に話をしたんですけど、その時にねぇ……じゃない、女王陛下の事も言っていたんです。それによると、研究者達はこの国の人なんじゃないかなと思うんですけど……?」
「リク様の考えている通り、研究者はこの国で生まれ育った者が多いようです。全てを確認するまではっきりと断定はできませんが……おそらくツヴァイはこの国にいる者を集めたのでしょう」
「ですよね。じゃなきゃ、陛下からの命令だからと言われて、黙って従う事はないですよね」
ツヴァイが他国から来た人物だからといって、研究者が全員そうだとは限らない。
姉さんからの命令書を偽造して、それを信じて研究していたと言っていたから、研究者達はこの国の人間で間違いないんだろう。
他の国にいる人間だったら、アテトリア王国の女王からの命令を聞く必要なんてないからね。
まぁ、この国なら魔物の研究ができる……と言って連れて来られた可能性もあるけど、女王陛下と姉さんに対して敬うような言動もあったから、この国の人間だというのは間違いないだろうし、いても少数だろうと思う――。
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