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内通者の調査は慎重に

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 疑わしい兵士さんを調査する前に、選別しているらしい信頼できる兵士さんの基準はヴェンツェルさんやマルクスさんがよく知っていて、身辺に不審な点がない事と、長年軍に務めている人である事で、紛れ込むような余地がなさそうな人を選ぶらしい。
 いつから、どういう風に紛れ込んだのかはわからないから、それで絶対大丈夫とは言えないだろうけど、少なくとも手あたり次第の兵士さん達に情報を求めるよりは確実だろう。
 とはいえ、連れてきた兵士さんの数が多くとも、疑いのある人は小隊一つ分なので、王城に確認をしたりと迂遠な調査をしなければ、早くて明日、遅くとも明後日には完了しそうだとの事だ。
 まぁ、施設を調べている間にわかるだろうって事だね……確実性を増すなら、王城にも報告してとなるんだろうけど、今回は俺とフィリーナからの証言があるから大丈夫らしい。

 英雄と呼ばれる俺と、エルフで特別な目を持っているフィリーナからの言だから、信用するのも調査を強行するのも問題ないと言われた。
 そこまで信頼されていると、責任重大だから本当にさっきの推測で良かったのか心配になるけど、変に不安な様子を見せるわけにもいかないから、マルクスさんには頷くだけにしておいた。

「では、私はこれで。ヴェンツェル様も私も兵士達と共に、今夜は施設周辺におりますので」
「はい、わかりました」

 施設内、特に地下部分はオーガがまだ試験管の中に残っている状態なため、爆発する危険性を考えて今は調査をしていない。
 本格的な調査は明日、俺達が中に入ってオーガをなんとかしてからという事だね。
 もし何かの拍子に、試験管からオーガが出て来ても危険なので、地上部と地下施設を繋ぐ通路は閉じておき、もしもの時は俺達が呼ばれる手はずになっているけど、大丈夫だろう。
 その他に、発見した隠し通路も含めて、どこかから関係者が来る可能性を考えて夜通し見張りをするみたいだ……必ず、ヴェンツェルさん達が信頼する兵士さんを一人以上混ぜて、内部の監視をする目的もあるそうだ。

 とりあえず、俺達の役目は何かが怒らない限り、明日の事になるから今日やる事はもうないため、夕食の後片づけや寝る準備をして、それぞれテントへと入った。
 もちろん、男女別だから……エルサは俺と一緒だけど、他の皆は別のテントだ。

「うーん、さすがにちょっと寂しい、かなぁ?」
「モニカ達の所に行くのだわ?」
「さすがにそれはできないよ。まぁ、元々寝る時はエルサかユノが一緒なくらいだから、あんまり変わらないけど、さっきまで兵士さん達もいて人が多かったから、急に静かになったように感じただけだからね」

 急に静かになった気がして、俺とエルサだけのテントで横になりながら、ふと呟く。
 とは言っても、本当にエルサが言うようにモニカさん達のテントへ行くなんてできないから、仕方がない。
 ユノがいれば、こっちに来てくれていたんだろうけど……まぁエルサと一緒にさっさと寝そうだから、あまり変わらないかもしれない。
 とはいえ、今日はずっと誰かが周囲にいる状況だったからそう感じるだけで、王城でも寝る時はエルサと俺だけなんて事はいつもなんだから、気にするのもおかしな話かな。
 エルサに頼んで、いつも俺の頭にくっ付くいている大きさではなく、少しだけ大きくなってもらい、今日のところはモフモフに包まれてさっさと寝る事にした。

「ちょっと、寝にくいのだわ……」

 なんてエルサが呟いていたけど、日頃の手入れのおかげでモフモフが維持されているお腹部分の毛に顔を埋めると、何も気にならなくなった。
 やっぱり、モフモフがあれば寂しいとかそんな事どうでも良くなるなぁ……なんて眠りに落ちる寸前の頭の中で考えていた。

「……リクは一人で頑張り過ぎなのだかあ、たまにはこういうのもいいのかもだわ。モニカあたりに頼めば……リクがそんな事を言い出したら事件なのだわ……」

 何やらエルサがブツブツと呟いていた気がするけど、モフモフに癒されて気持ち良く寝入る俺には、何を言っているのかよくわからなかった――。


――――――――――――――――


「ほい、ファイアバーストっと。エルサ、お願い」
「はいはい、結界なのだわー」

 地下施設へ突入してから夜が明け、モニカさんの作ってくれた朝食をありがたく頂いてからは、残っているオーガの掃討。
 とは言っても、試験管の中にいる間は自発的に動き出したりせず、基本的にこちらが先制でやりたい放題なのだから、特に大きな問題はない。
 魔力制御の練習のためとして、昨日ツヴァイの魔法を真似たファイアバーストを放って、熱線を試験管に貫通させて内部で炸裂させる。
 さらに、オーガが爆発した際に衝撃やガラスが割れて飛び散るのを防ぐため、エルサが結界を張るという連携で次々と残った試験管とオーガを破壊。

 ファイアバーストに関しては、少ない魔力を上手く使う事を目的としているので、一度で出す熱線は一つに留めている。
 ただ、最初の方はエルサから結界が壊れるかもしれないから、もう少し威力を抑えてと文句を言われたりしたので、数は少なくとも使っている魔力が大きかったらしい。
 とはいえ、数個破壊する間に少しだけコツを掴んだのか、文句を言われる事はなくなった。

「今度はこっちだね。ファイアバーストっと。エル……あ……」
「ちょっとリク! 結界に直接当てると本当に危ないから、気を付けるのだわ!」

 ……コツを掴んだ気がしたけど、まだまだだったらしい。
 俺が放った熱線は、試験管どころか中にいるオーガすら貫通し、さらにそのまま逆側の試験管を貫通してエルサが張った結界に直撃。
 なんとかエルサが結界で止めてくれけど……それがなかったら、オーガの爆発より酷い事になっていたかもしれない……気を付けよう。
 まだまだ、気を抜いたら調整に失敗するみたいだね、難しい。

「オーガだけでも厄介な気がするのに、さらに爆発する危険なオーガなのよねぇ。でも、緊張感がまったくないわ」
「緊張をしていればいいというわけでもないぞ、モニカ? 鉱山内だと、リクと一緒にいる時は大体こんな感じだった」
「まぁ、話を聞く限りでもオーガなんて爆発する以外だと、リク様にとっては警戒する相手ではないんでしょう。ルジナウムの時、私は離れていたので見ていませんが……それは凄まじかったと聞いています」
「あぁ……あれねぇ。エルサちゃんもそうだけど、火の精霊を幾つか召喚までしてて……離れていてもわかる程、暴れていたわね。自分の血じゃなくて、魔物の返り血で全身ずぶ濡れよ?」
「それは……想像するだけで恐怖すら感じるわね……」

 気を抜かないように魔力調節はしていても、もはや作業のようなオーガ処理をしている俺の後ろでは、モニカさん達が付いて来ていて何やら話している。
 一応、オーガと直接戦う際には協力してくれるためなんだけど、緊張感がないためか、完全に気を抜いているようだ。
 まぁ、ソフィーの言う通り、緊張をしてればいいというわけでもないし、確実にオーガを処理して行けばいいだけなんだから、緊張のしようもないよね――。

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