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ツヴァイはフィリーナとは無関係
しおりを挟む「えっと、フィリーナ……いい?」
「構わないわ。ここにいる人達なら、エルフを特別悪く思ったりはしないだろうから。種族はともかく、私達が直接関係していない事だし」
「わかった」
「?」
疑問に答える前にフィリーナに確認を取ったのを、フィネさんだけでなくモニカさんとソフィーも首を傾げている。
ヴェンツェルさんは、ツヴァイの事を知っているから眉根を寄せて難しい表情だ。
ちなみに、ツヴァイを見たフィリーナはエルフである事に驚いていたけど、少し納得した様子でもあった。
モリーツさんの研究資料を持って行った時もそうだけど、あれだけの地下施設や、魔物に関する研究をしている事に、以前も話していたようにエルフの関与が予想されていたからだろう。
そのツヴァイは、フィリーナが生まれ育ったエルフの集落の者ではない、と保証もしてくれた。
今まであまり外へ開かれた集落じゃなかった事と、数が多くない事から集落に入る人だったら全員覚えているかららしい。
他のエルフと交流していないのかな? と疑問に思って聞いたら、この国には他にエルフが集まって暮らす場所がないため、頻繁には連絡ができないようだ。
数十年とか百年に一度程度、知識交流のための場があるらしいけど、長老達が参加する程度でエルフの中では比較的若い(とフィリーナは力を入れていた)者は、内容も含めて知る事はできないみたいだね。
「話を聞く必要はあるんだろうけど、あの地下施設の責任者というか、主導している立場にいる人がエルフだったんです」
「え、エルフが!?」
「フィネさん、私達とは別のエルフなの。この国にいるエルフは私と同じ、アテトリア王国に属しているわ。けど、あの地下にいたエルフは私達とは別の所から来たエルフみたいなの。私達は、魔法の研究をしたりもするけど……危ない研究はしていないわ、多分」
「まぁ、それこそ、地下施設ではそのエルフ以外全て人間だったかな。種族的な事を言えば、人間が悪巧みをした原因だろう」
「あ……申し訳ありません。エルフがいたからといって、フィリーナさん達が関係しているわけではありませんよね……」
エルフがいた事を教えると、フィネさんは弾かれたようにフィリーナを見る。
前もって確認していたから、この反応は予想で来ていたのか、穏やかに自分やこの国に属しているエルフは無関係だと諭すフィリーナ。
まぁ、大半が人間の施設なんだし、モリーツさんやイオスも人間だった……だからと言って全ての人間が悪いわけではなく、エルフがいたとしてもそれは同様。
ヴェンツェルさんのフォローもあり、その事を理解して謝るフィネさん……はいいんだけど、最後に多分を付け加えない方が良かったと思うよ、フィリーナ?
話していて、もしかしたらエルフの集落に行った時に会った、あの長老達なら何かしらやりそう……なんて俺が考えてしまうくらいだから、自信を持てなかったんだろうけど。
「まぁ、だからさっきはエルフに似ているかどうかを聞いたんだけど……フィリーナが見ていた魔力が人間と似ているとすると、オーガに魔力を注いでいたのはそのエルフじゃないって事になるね」
「そうね。エルフと人間も魔力が似ている部分はあるんだけど、やっぱり違うのよ。人間は、リクと行動を共にするようになってから散々見てきたし、エルフなんて同族なのだから、見間違える事はないわ」
地下施設に充満していた魔力は、人間と同質のものだというのに自信があるフィリーナ。
という事は、だ。
「じゃあ、その魔力を追いかけるようにした魔法は……どうなった?」
「あ! オーガではなく、リクに向かって言ったわね……」
「さすがにここで、オーガに魔力を注いでいたのが、実はリクさん!? なんて言ったりはしないけど……だったらどうして?」
「施設全体にその魔力があったという事だから、誘導するようにした魔法が、魔力の判別ができなくなったんじゃないか? だから、適当にリクへと向かったとか……」
人間の魔力と同質である事が間違いないうえ、魔力を見て誘導させた魔法はオーガとは別の方向へ向かった。
フィリーナが気付いたように声を上げ、すぐに眉を寄せて考え始める。
真っ直ぐ俺がいる方向へ向かって来ていたから、何も知らない人ならモニカさんが冗談めいて言っているように、俺が魔力を……と考えられるかもしれないけど、さすがにそれはないからね。
「ソフィーの考える事もわかるんだけど、それならむしろ魔法は真っ直ぐ進むだけで、急な方向転換はしなかったんじゃなかな? 魔力はそこら中にあったわけだから、一点を目指してというのもちょっとね」
「……確かにな」
「それに、魔力という意味ではリクは異質だから……間違えてそちらへ行く事はないと思うわ」
「フィリーナ……異質って……」
「だって、量も質も他の人間やエルフと違うんだもの。……ほんとに人間?」
「人間だよ……はぁ……」
まぁ、異世界の人間という事になるんだろうけどね。
フィリーナは冗談で言っているんだろうけど、エルサと契約した事を発端に、人間離れした事を今までして来たという自覚があるので、本当に人間かを聞かれたらちょっと答えづらい。
人間じゃなかったらなんだ? という事になってしまうので、人間だと答えるしかないんだけど……お腹も減るし眠くもなるし、身体的特徴も人間なはずだから、それ以外であるはずがないんだけどね。
ちょっと異世界で偶然魔力が多く生まれて来ていただけだ、と思う。
それはともかく……考えられるのは、あの場に魔力を注ぎ込んでいた人物がいるのではないかという事。
魔法の矢は俺の方へ向かって来ていたけど、俺を狙っていたわけじゃないのかもしれない……たまたま、向かった方向に俺がいただけで。
つまり、あの時俺の近くにいた人物を狙っていたという事になるわけだ。
「俺の方へ向かっておきながら、俺の魔力を目指していたわけじゃない。となると、俺の近くにいた人物が、魔力を注いでいた人になるんじゃないかな?」
「今までの話を考えると、そうなるわね。でも、あの時リクの近くにいた人って……」
「リク殿、私はすぐに飛び出したから、正確なところまでは把握していないのだが……飛び出してオーガへ向かっている途中に、魔法の軌道が変わったからな。だが……」
離れていた場所から見ていたフィリーナ、さらに一緒にいたヴェンツェルさんはほとんど気付いている様子。
モニカさん、ソフィー、フィネさんは、あの時休憩していたのもあり、俺の近くに誰がいたかまでは見ていないようで、首を傾げている。
「俺の後ろには、フィリーナの魔法が向かって来て驚いていた兵士さん……隠し通路を通って入って来ていた兵士さん達がいたんだよね。で、その人達には拘束した人達を運び出す手伝いをお願いしたんだけど、あの部屋にはもうあまり人がいなかったから、俺の近くにいた兵士さんはまだ誰かを運び出していなかったんだ」
「つまり、リク殿や私と共に部屋を出た者という事になるわけか……リク殿、その推測が正しければ、私が連れて来た者の中に、施設の関係者がいたという事に……?」
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