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ただひたすらに前進
しおりを挟む俺が殴った武装している人はまだしも、ヴェンツェルさんの重そうな拳を研究者にめり込ませるのはちょっとやりすぎかなと思うけど、とにかく突き進む事を考えるべきだから、手加減している余裕はないか。
俺もヴェンツェルさんも剣を抜き放ってはいるけど、人間相手には拳を使っている事が手加減と言えなくもないからね……俺は一応、やり過ぎるとグリーンタートルの時のように人体が破裂する可能性があるので、あまり力は籠めないようにしている……一応ね。
それでも、俺が殴り飛ばした人はピクリとも動かなくなったように見えるけど……気を失っているだけなはずだ。
「リク、右横、オーガ!」
「わかった。結界! せや!」
「GIGIGI!」
後ろから響くフィリーナの声は、魔法で増幅されているんだろう、隙間があるとはいえ結界越しにもよく聞こえた。
その指示に従い、結界を発動して視界の隅に移ったオーガと自分を包みつつ、体を横へ向ける勢いで剣を振る。
瞬間的に見えたのは、俺へと腕を振り上げる巨体のオーガと、横薙ぎに振った剣に胴体を斬り離される赤い体だった……次の瞬間、至近距離で大きな音を立てて爆発が発生!
「っ……よし、次!」
「……聞いてはいたが、確かに爆発の勢いは強そうだ」
「ヴェンツェルさんは、できるだけ近くで爆破ツを受けないように気を付けて下さい!」
「ぬん! そんな無茶、リク殿くらいしかできんだろう!」
足を踏ん張り、爆発の衝撃を耐えるついでに、背中を自分が張った結界に預けて衝撃が収まるのを待つ。
爆発が終わった瞬間に結界を解除し、さらに奥へと駆けだす。
隣にいたヴェンツェルさんは、爆発の威力を間近で見て驚いている様子だけど、さすがに至近距離であの衝撃に晒されると危険なので注意を促す。
ちなみに、俺がオーガと自分を結界へと即座に閉じ込めたのは、俺なら衝撃が直撃しても大して危険はないためだからね。
あと、隣にいるヴェンツェルさんに影響が及ばないようにするためでもある。
俺の注意に、正面からナイフを振りかぶった武装兵を殴り倒しつつ、突っ込むヴェンツェルさん。
まぁ、俺自身でも自分から爆発を至近距離で受ける代わりに、周囲に影響を出さないようにするのは無茶だと思うけど、一番手っ取り早いんだから仕方ない。
それにしても……一時は戸惑っていた向こう側の人間達もそろそろ状況を理解したようで、それぞれが動き始めたようだけど、全員がこちらにかかって来るわけでもなく、数人は研究者達に武器を向けて奥へと行くよう指示しているのが少し気になる。
研究者達が戦えないからなんだろうけど、武器を向けなくてもいいんじゃないかなぁ?
何人かの人間を殴り倒しつつ、さらに奥へと進む中でチラリとソフィー達の方を盗み見てみると、そちらではソフィーがオーガの腕を斬り落とし、その隙にモニカさんが槍を突き刺すという連携を見せている瞬間だった。
槍はすぐに引き抜かれ、エルサが結界を張ってちゃんと爆発を抑え込んでいるようだ……爆発する前、槍が刺さる瞬間にオーガの頭部へ斧も刺さっていたから、フィネさんも含めてしっかり連携しているようで何よりだ。
当然ながら、走っては殴り飛ばしを繰り返している俺達より進みは遅いけど、フィリーナの指示と兵士さん達の協力で広い範囲を制圧できている。
あちらは心配なさそうだね。
「リク、こっちばかり気にしていないで、前来てるわよ! ちゃんと見ているから、心配しないで!」
「っと! ありがとうフィリーナ!」
「あちらは大丈夫そうだな! 他の心配をするよりも、まずは自分のやるべき事をやらねば……なっ!」
後ろというか、モニカさん達の方を気にしていたらフィリーナに注意されてしまった。
事実、正面からきている人に気付かなかったので、それも当然か。
あちらはフィリーナに任せて、何かあれば呼ばれるだろうと安心して、前から襲い掛かって来る武装兵の体に肩を使って体当たりで突き飛ばす。
向こうは剣を振り上げていたけど、周囲に気を遣わずに突き進んでいるため、振り下ろされるより速く体当たりができた……というか、向こうの予想以上の速度だったらしく、フィリーナに注意されなかったら真正面からぶつかる所だった。
「そうですね、自分のやるべき事を! って、ヴェンツェルさん、オーガが!」
「おう、任せろ! オーガごとき敵ではないわ! ふんっ!」
「GIII!!」
「でも、爆発が……って一撃かぁ。っと結界!」
「爆発を受けてみたかったという好奇心はあるが……ここは助かったと礼を言っておくべきだな。足止めされるわけにはいかん」
「はい」
ヴェンツェルさんの言葉に頷いて左隣を見ると、俺がいる方とは逆側からオーガが突進してきている所だった。
即座に位置を変えて俺が相手をしようとしたのだが、ヴェンツェルさんは構わず大きな剣を構え、全力で下から上へと振り上げた。
剣の切れ味がいいのか、ヴェンツェルさんの膂力がすごいのか、オーガが一撃で左の脇腹から右の肩口までが斬り裂かれて動きを止める。
ほんのり肌の赤みが増した気がしたので、すぐに爆発するだろうと結界を張ってヴェンツェルさんの前に壁を作って衝撃を受け止めさせた……咄嗟の事で覆うまではいかなかったけど、オーガの後ろの方では爆発の衝撃が荒れ狂っているようだけど、おかげで結界で守られていない場所の人間は足止めされていた。
爆発の衝撃を実際に受けて見たかったと軽口を叩くヴェンツェルさんだけど、もう少し余裕がある時にして欲しい。
俺達は、できる限り足を止めずに奥まで突撃する役なんだからね。
「しかし、奥まって来るとさらに広い空間だというのがわかるな……ぬぅん!」
「そうですね……っとぉ!」
話しながら、襲い掛かって来る武装した人と、奥へ逃げ遅れた研究者風の人を殴り倒しながら突き進む俺達は、さながら暴風のように見えているかもしれない。
それはともかく、地下室の入り口付近はオーガが通る場所が確保されているくらいだったのに対し、奥へ進むごとに部屋の広さが増して行っているように感じる。
俺は探査魔法でなんとなくの広さがわかっていたし、説明はしたけど、ヴェンツェルさんは自分の目で確かめて初めて実感できたようだ。
地下室自体はおそらく円形で、正確な長さはわからないけど端から端までで百メートルくらいはありそうだ……地下に学校のグラウンドくらいの大きさを掘り、施設を作っていると考えれば、どれだけの広さかなんとなくわかるかもしれない。
掘削技術が優れているのかとか、魔法で補っているのかとか、色々と疑問はあるけど、とにかくモリーツさんの時も考えたように数人とか数十人の規模でこれを作るのは不可能そうだ。
どういう組織かはまだ詳しくわからないけど、とにかく考えていたよりも大きな組織という事だけはわかる。
とにかく今は、この場所にいる人間達を捕まえて、制圧する事が優先だね。
「しかし、これだけ広いとただ突き進むだけでいいのか、迷ってしまうな……」
「そうです……ねっ! 結界!」
「話しながらもオーガを倒し、魔法を使うリク殿はすさまじいな。しかもあまり足を止める事がないとはな……」
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