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黒装束の死因
しおりを挟む「調べた結果、わかった事ですが……男は自分の口の中、奥歯に毒薬を仕込んでいたようです。モリーツという男を口封じする組織……おそらく捕まってしまい、内情を話さないようにという処置なのでしょう。……裏の組織からの工作員には、時折見られる処置です」
「そう……なんですか?」
「私は、ここで兵長になる以前には、他の街にいた事もありました。その時取り締まった組織にも、そのような者がいたのです。……ほとんどが、他国の工作員という事が多かったようですが。幸い、現在の女王陛下が安定した治世を行ってくれているおかげて、国内にはそこまで闇の深い組織がほとんどなくなっているというのもあるのでしょう。一切ない、という程ではないでしょうが……」
「工作員……」
奥歯に毒を仕込んで、自分から情報を引き出されないために……というのは、何かで見た事がある。
ガッケルさんの言うように、大体は裏の組織とか闇の組織とかに所属している工作員だったと思うけど、この世界でも同じような事があるみたいだ。
というより、一応は平和だった日本と比べると、国家間の思惑だとか、魔物がいたりと世界的に安定していない方が、そういった人や組織というのはいるのかもしれない……。
「つまり……リク様の会ったあの男は、何かの組織に属していた可能性が高いという事です」
「まぁ、そのあたりはあの場所を見ればわかる事だと思う」
「そうだね……一人や二人であれは用意できないだろうし、他にもいるような事を言っていたからね」
なんらかの組織に所属していたというのは、ほぼ間違いないだろう。
エクスブロジオンオーガが入っていたガラス……俺達にけしかけるためや、爆発でほとんど割れてしまったけど、あれを作ったり運んだりするのを、少人数でなんてとてもじゃないけどできない。
その組織というのが、この国に潜んでいるのか、他の国からなのかはわからないけど……これまでの考えからは、単純に帝国がという疑いにも繋がる。
だけど、本当に帝国が関与しているという証拠はないのだから、決めつけるわけにもいかないか。
下手にそうだと主張して、もしそれを姉さんやヴェンツェルさん、ハーロルトさんが帝国に何かを言っても、違った場合にこの国の立場が悪くなってしまうかもしれないからね。
「あぁそれと、モリーツという者の方は、鉱夫達に確認したところ、ソフィー殿から聞いた者で間違いがないようでした。それと、もう一人の方も鉱夫として働いていたようです。紛れ込むためですな」
「モリーツさんの方はともかく、黒装束の方は大柄だったし、簡単に紛れ込めたでしょうね」
「えぇ。フォルガット……鉱夫組合の組合長も、今回の事の原因と知って驚いていました。それだけ自然に鉱夫として溶け込んでいたのでしょう」
モリーツさんは言われていた通り細身で、確かに鉱夫として続けられるのか心配されるのもわかるくらいだったけど、黒装束の男はフォルガットさん達と比べても見劣りするような事はなかったからね。
紛れ込んで工作員として動くには、丁度良かったんだろう。
「リクが戻るまでの間、ガッケル殿とあの男の事を話していたんだ。まぁ、ここにいればルジナウムからの伝令が来るから、情報を得られるからな」
「リク様とソフィー殿が同じ冒険者パーティというのは、知られていますからな。信用に足る方なので、お互いに情報の共有をしていたのですよ」
「そうなんですね。……伝令は、フランクさんが送ったみたいですね。最初は、この街に皆を避難させようとしてたみたいですけど……」
「そうらしいな。遅れてきた伝令が、魔物の脅威がなくなったため、避難する住民を戻したと言っていた時には、やはりリクが……と思ったものだ」
「まぁ、なんとか頑張ったよ」
「私は、リクがさっさと片付けて戻って来ると思っていたんだが……伝令の方が先に来ていた。何か問題でもあったのか?」
「問題というか、ちょっとね……えっと……」
ソフィーとガッケルさんは、ここで黒装束の男や、そこに連なる組織について話していたらしい。
だから詰所にいたのか。
まぁ、結論と言うか、俺と同じように答えは出てないみたいだけども。
とりあえず、俺がルジナウムに言ってから起こった事を、二人に説明する。
ガッケルさんは、魔物が集まっている事や、ルジナウムに向かっている事は伝令や黒装束の男の話から、知っていたようだけど、その中にキュクロップスやキマイラ、マンティコラースまでいたという事に驚いていた。
冒険者ギルドで言う、AランクやBランクの魔物が大量にだから、仕方ないか。
一体や二体いるだけでも脅威になる魔物だからね。
ソフィーは、キマイラがいる事はわかっていたし、他にも強力な魔物がいる事は予想していたようで、あまり驚いてはいなかったけど、数が多かったというのには驚いていた。
「リク、聞いていた話よりも、魔物の数が多いように思うのだが?」
「それなんだよね。多分、集まっている途中だった魔物も、後続で来たんだろうけど……なんであそこまで多かったのか、よくわかっていないんだ。フランクさんとの話では、森の奥とか……魔物に近付けずあまり調べていなかった場所に潜んでいたとか、他の場所にも集まっていて、それが合流したという推測になったんだけど……」
「まぁ、まさか魔物が一瞬で数を増やすわけではないしな……」
「そうだねぇ……」
一定数に達するまでは、ルジナウムの街へ襲い掛かる事はないだろうと予測していた。
けど、結局黒装束の男に繋がっていた魔力が途切れる事で、規定に達していなくとも街へと向かってきた……というのは、あの男の話を信じるならだ。
実際に魔物達が一斉に動き出したのは確かだから、否定する材料はないんだけど。
ともかく、俺やエルサ、ユノが倒した魔物の数を考えると、そもそも既に街へ向かっていてもおかしくないくらい、大量にいたのは間違いない。
どれだけの数を集めるつもりだったのか、今になってはわからないけど……あれだけ強力な魔物がいたんだ、一つや二つの街を壊滅させられただろうからね。
魔物が分裂したり、細胞分裂のように増えるわけでもないから、結局は見逃していた場所や見られなかった場所に潜んでいたんだろう……という結論になった。
……フランクさん達に細胞分裂という言葉が通じなくて、四苦八苦したのは余談か。
集まっていた魔物のすぐ近くまで調べたわけじゃないし、危険もある事からモニカさん達も含めて、皆森を全て調べたわけじゃないし、木々は簡単にキュクロップスすら隠してしまうから、きっとそうなんだろうというだけなんだけどね。
こんな事なら、少しでも時間を取って、先に探査魔法で森の方を調べておけば良かったとも思ったけど、それも後の祭り。
あの時は鉱山の方を、さっさと解決しようとしていたし、数を増やさなければ動き出さないと思って、モニカさんやユノに対処を任せてしまったからね。
鉱山の方も、エクスブロジオンオーガの爆発があるために、結界を使える俺とエルサが必要だったし……結果としては、被害は少なくできたんだから、それでよしとなった。
フランクさんやノイッシュさんは、必ず何かあるはずだと、調査に力を入れる事にしたみたいだけど――。
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