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エルサの提案

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 こんな事なら、鉱山内で使う魔法をもう少し押さえて節約しておけば良かった……と思っても後の祭り。
 また一つ、火の精霊がやられるのを感じなら、どうしたものかと考える。
 火の精霊が少なくなって、壁のように燃え盛っていた炎の勢いが弱まった事で、街へ向かえるようになったはずの魔物達は、完全に標的を俺にむけているため、離れて行くような奴はいない。
 その分、俺に向かって来る魔物が多くて大変なんだけどね。
 ちなみにこれまでに多少の魔物が、俺達の隙をすり抜けて街に行ったけど、ユノでも対処できるくらいの数だし、兵士さんや冒険者でも時間稼ぎができるくらいと思う。

「……リク、どうするのだわ?」
「どうするって言われても……どうしよう? やっぱり周囲の影響も考えずに、最初から広範囲の魔法を使っておけば良かったかなぁ? ヘルサルの時みたいに……」
「あれは……私も危険なのだわ。それに、魔力が枯渇する事はないはずだけどだわ、でも多分無理だったのだわ」
「無理? どうして?」
「だって、リクはあの時魔力を一切使っていない状態だったのだわ。けど、今回は散々魔法を使った後だったのだわ。だから使えるかどうかはともかく、リクの魔力が足りるかはわからないのだわ」
「そうかぁ……」

 周囲の影響を考えなければ、最初から広範囲の魔法を使って殲滅という事も……ヘルサルのようにね。
 だけど、エルサにその考えは否定された。
 多分と言っているけど、契約で繋がっているエルサには、なんとなくそれがわかったのかもね。
 ともかく、結界を使ったりと散々魔力を使った後だから、あの時のような魔法は魔力が足りるかどうかが怪しい……という事みたいだ。

 うーん……だったらどうしたらいいのか。
 素直に、皆と一緒に戦えば良かったかな?
 でもそれだと、絶対に犠牲になる人がでるだろうしなぁ……キュクロップスやキマイラに、兵士さん達がやられる姿は容易に想像できる。
 マンティコラースも厄介な相手だし、他の魔物だって油断したら危険だから。

「……リク……もう少し持ち堪えられるのだわ?」
「どうだろう? 疲れは感じるけど、まだまだ戦いを続けるくらいならできるよ。全部倒せるかは、わからないけどね」
「全部倒す必要はないのだわ。私が飛んで、ユノを呼んで来るのだわ。そうしたら、少しは助けになるのだわ?」
「でも、さすがにユノ一人加わっても、この数だからなぁ……?」
「ユノだけじゃないのだわ、他の人間も呼んで来るのだわ」
「それじゃ、皆が危ないよ。ここは隠れる場所もないし、固い壁に守られてもいない。街にこもって防衛するのとは、訳が違うでしょ?」
「離れて戦えば問題ないのだわ。人間の魔法だから、あまり期待できないけどだわ、少しくらいは役に立つのだわ。それに、弓? とかいうのも使えばいいのだわ」
「離れてか……絶対に魔物達へは近付かないように、なら大丈夫なのかな?」

 魔物との戦いを続けながら、エルサと相談。
 悠長の止まって話す事もできないけど、頭にくっ付いているからなんとか話ができた。
 エルサの提案は、魔力が少なくなってまともに戦えなくなった自分の代わりに、ユノを呼んで来る事。
 だけでなく、街で待機してくれている兵士さん達も呼んで来る事。

 ユノなら魔物に接近しても難なく戦えるだろうけど、他の人達は危険過ぎる。
 それに、ユノだってずっと体力が続くわけでもないし……と思っていたら、離れて攻撃をとエルサは考えたらしい。
 戦闘をしながらだから、話に集中できない俺とは違って、エルサは一応そういうところまで考えていたみたいだね。
 離れて魔法や弓か……援護射撃ってやつだろうけど……。

「というか、それ……俺に当たらない?」
「リクの周囲には魔物も含めて、攻撃しないようにしたらいいのだわ」
「そうか……ならいい、のかな?」

 剣を振り、攻撃や魔法を避けながらだから、戦術的な考えがまとまらない。
 ……そもそもに、俺がそういう事を考えられるかどうかというのは、置いておこう。
 俺の周囲は俺が対処するものとして、囲んでいる魔物の外側を狙えば数が減らせるだろうという事かな。
 自分から任せてと言って魔物に向かった手前、助けを求めるのは恥ずかしい気もするが、そんな事を考えている場合でもないのは確かだしね。

「GAAAAA!」
「うるさいっ! まったく、落ち着いて話もできない」
「そういう状況でもないのだわ……」

 エルサと話している途中、雄叫びを上げて襲い掛かるキマイラ。
 大きな声で話せなくなったので、思わず一刀両断してしまったけど……体力や節約する、なんて考えておきながら、わりと全力で剣をってしまった、失敗失敗。

「……ふむ、だわ」
「どうした、何か別の事でも考えたのか?」
「そうではないのだわ。リク……リクはどうしてそこまでして、人間を助けようとするのだわ? かかわりのある人間ならまだしも、かかわりのない人間も大勢……だわ」
「どうしてって、冒険者として困っている人を助けるのは、当然だろ?」

 エルサから急な質問
 今そんな深い話をしている場合でもない気がするけど、契約してからずっと一緒にいたエルサだから、何か思うと頃があるのかもしれない。

「冒険者とか、言い訳はいいのだわ。それ以外に、何か理由があるように思うのだわ……」
「理由って言われてもな……」
「まぁ、すぐに答えなくていいのだわ。今ふと思ったから聞いただけなのだわ」
「後で良かったんじゃないか?」
「今必要そうだったのだわ。リク、よく聞くのだわ」
「……なんだ?」

 頭にくっ付いているため、エルサの表情は見えないが、声の感じからして真剣な様子なのがわかる。
 俺が人間を助ける理由と言われても、困っている人を助けたいから……と今まで考えていたんだけどなぁ。
 それに、冒険者としてもそれが本分であるという事もあるしからね。
 先程のように、大きな雄叫びを上げられる事はなかったが、襲い来る魔物攻撃や魔法を避けながら、最小限の動きを意識して剣を振る。

 これでもまだ、エアラハールさんから言わせるとまだ無駄な動きが多いと言われそうだけど、少し前から考えると改善された方だと感じられた。
 剣を折らないようにして、戦っていたおかげかな?
 以前のままの戦い方だったら、もしかしたら既に体力が尽きていたという可能性も、あったかもなぁ。

「もし、この場でリクが魔物にやられてしまったら、どうなるかだわ。この場でなくとも、もしリクがいなかったらどうなってしまうのか、だわ。自分を犠牲にという程ではないけどだわ、もう少し大事にする事も考えた方がいいのだわ」
「俺がいなくなったら……自分を大事に、か」
「それじゃ、変に考え込ませてもいけないからだわ、そろそろ行くのだわ」
「あ、あぁ。よろしく頼む。できるだけ数を減らせるように頑張るよ」
「頑張り過ぎも良くないのだわ……けど、ここは頑張りどころだから、仕方ないと思っておくのだわ。後リク、もう少し集中して戦う事、魔力を無駄に使わない事を言っておくのだわー……だわー……だわー」
「集中って……あ、行っちゃった……」

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