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リクの決意

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 今更ながらだけど、俺は以前にユノとも約束していたし……ユノが望むのは人々が泣いていたり、街が蹂躙された姿ではないはずだ。
 そういう事を望んでいるような神様なら、人間が多い地球に遊びに来たりはしないだろうしね。
 俺一人で全ての人を助けて笑わせられるなんて、思いあがるつもりはない。
 けど、ユノだけでなく、できるだけ多くの人が笑っていられるよう頑張る事くらいはできるはずだ。

 幸いにも、俺にはユノだけじゃなくモニカさんもいるし、こんな時でも寝息を立てて暢気なエルサだっているから。
 ユノと話し、内容がよくわからず、首を傾げるだけのフランクさん達。
 さぁ、俺がやるべき事を伝えよう――。

「フランクさん……俺は逃げません。そして、ルジナウムの街も、集まっている人達も守ります」
「は……?」
「リクさん?」
「リク、何を言っておるのじゃ?」

 あれぇ? 決意を込めて、真面目に言ったつもりなんだけどなぁ?
 ユノ以外の皆が、キョトンとして「何言っているんだ?」という表情になってしまった。
 エアラハールさんは、実際に言っているけど。

「完全に俺だけというわけではありませんけど、なんとかします。して見せます」
「……本気なのですか? 魔物は集団……それも、強力な魔物が多いのですよ?」
「はい。まぁ……多分なんとかできるんじゃないかと」
「絶対できる、と言わない辺りがリクさんらしいわね……」
「ゴブリンとは違うのじゃぞ? 初心者でもなんとか戦える……というような魔物ではないのじゃ。いくらリクとはいえ、無謀ではないかの?」

 気を取り直し、改めてもう一度決意表明。
 モニカさんだけは苦笑いをしているけど、フランクさんやエアラハールさんの二人は、信じられない事を聞いたという雰囲気だ。
 まぁ、そりゃそうか。
 キマイラやキュクロップスを含む魔物の大群に対して、どうにかできるなんて言いきれる人は、そうそういないんじゃないかな?

「本当にリク殿がなんとかできるとしても、一体どうなさるおつもりですか?」
「いくつか案があるんですけど……一番わかりやすいのは、俺が魔物達に突っ込んで倒す……ですかね?」
「……か、簡単に言いますが、それが難しいのは先程……」
「わかっています。剣を使うだけだと難しいでしょう。魔法を使って、なんとかします。もちろん、エルサにも手伝ってもらうんですけどね?」
「まったく、人使いが荒いのだわぁ。ふわぁ~……少し寝て回復したような気がするのだわ。リクと一緒に戦うのだわー」
「人って、エルサはドラゴンでしょ……」

 他の案だと、街全体を結界で包んで、魔物が絶対中に入らないように……というのも考えたけど、これだといくつかの魔物が、街を諦めて他の場所へ向かう可能性がある。
 完全に殲滅をしないと……というわけじゃないけど、少なくとも非難している人達の方へ魔物を向かわせちゃいけないから、この案は却下だね。
 他には、ヘルサルで使った魔法で、一気に殲滅するという方法。
 こちらは、周囲の環境も含めて、影響が大きすぎるからできれば最終手段にしたい。

 またガラスができて……とかになると後処理が大変だからね……魔力溜まりができても迷惑だし。
 結局、フランクさんに提案したのは、一番単純でわかりやすい方法。
 俺が魔物に向かって突撃し、街へ向かわないように倒す事。
 だけどこれは、相手にできる数に限りがあるため、エルサに協力してもらう。

 さっきまで寝息を立てていたエルサは、寝起きの声を出しながら、文句を言いつつも仕方なさそうに協力してくれると言ってくれた。
 真剣な話の最中でも暢気に寝ていたのは、もしかすると魔力とかを回復させるためだったのか……。
 エルサには、俺がやろうとして考えていた事が既にわかっていたのかもね。

「エルサ様も……しかし、いかにドラゴン様とはいえ、あれだけの大群を相手にするとなると……」
「ドラゴンをあの程度の魔物と比べるなだわー。リクと一緒なら、問題でもないのだわ」
「そんなに簡単じゃないとは思うけど……でも、なんとかやってみますよ。――エアラハールさん」
「なんじゃ?」
「すみません、魔法を使ってもいいですか? あと……剣、折れちゃってて……」
「ふぅ……こんな状況で、律儀に訓練を気にせんでもいいわい。好きに戦え、ワシはもう何も言わん……というより、言える立場じゃないからの。ふむ……そうじゃのう、見事魔物達を倒したのであれば、剣が折れた事を不問にするかの」
「本当ですか!? 頑張ります!」
「……魔物に向かって行くはずなのに、元気じゃのう」
「リクさんにとって、モフモフがあるかどうかってのは死活問題なんですよ」

 さすがモニカさん、俺の事をよく理解してくれている!
 エルサが簡単そうに言う程楽な事じゃないと思うけど、なんとかしようと決意し、そういえばとエアラハールさんに声をかけ、魔法の許可と剣が折れてしまった事を報告。
 微妙に俺が呆れられているような反応だったけど、結界以外の魔法を使ってもいいという許可が出たし、魔物達を倒せばモフモフ禁止にはならないとお墨付きをもらった。
 俺にとってモフモフは、活力源とか生きる原動力ともなっているので、これでさらに頑張れる理由ができたぞ。
 もちろん、街の人達を守る事の方が大きな理由だけどね……ほんとだよ?

「リク殿、もしもの際には本当にお逃げ下さい……」
「私がいるのだから、もしもなんてないのだわー」
「はい、危険を感じたらとりあえずここまで戻って来ますよ」
「そういう事ではないのですが……はぁ……」

 フランクさんの言葉に頷いて、何かあったら今いる場所まで戻って来ると伝えたら、溜め息を吐かれた。
 もしかして、さっき言ってた非難している人達の方まで逃げろって事だったのかな? まぁいいか。

「あと、ユノも協力してくれるかい?」
「もちろんなの。私も頑張るの!」
「ありがとう。それじゃ……俺とエルサが頑張っても、どうしても抜けてここまで来る魔物がいるかもしれないから、ここで皆を守ってくれるかい?」
「了解したの! キマイラでもキュクロップスでもどんと来いなの!」
「ユノ嬢ちゃんの強さは知っておるが……強力な魔物に対して物怖じしないのは、末恐ろしいのう」

 俺とエルサが突撃しても、絶対に魔物を通さないという事が難しい可能性が高い。
 そのため、ユノにはここで漏れた魔物を倒す役割をお願いした。
 ユノなら、数が多くなければなんとなるだろうしね。
 快く受けてくれたユノを見て、エアラハールさんが将来どうなるのかと、微妙な表情になっている。

 実際には、エアラハールさんよりユノの方が年上なんだよなぁ……というのはユノの名誉のために口には出さない。
 ユノにも怒られそうだしね。

「魔物です、魔物が見えました! こちらに向かって来ています! 先頭は巨体からおそらくキュクロップスです!!」

 少しの間だけフランクさん達と話し、俺が魔物に向かってから集めた人達のやる事を決めていたら、外壁の上で見張りをしていた兵士さんが、周囲に響くように叫んだ。
 距離があるのに声が響いて全体に行き渡っていそうなのは、魔法を使って増幅させているからだろうね――。

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