上 下
618 / 1,903

強力な魔物の集団

しおりを挟む


 西門に人が集まっていたのは、戦力を集中して迎撃するためだみたいだ。
 フランクさんやギルドマスターが協力してくれて、人を集めてくれたんだろう。
 でも、王都でもなく、国一番の都市であるヘルサルと違って、兵士や冒険者を含めた戦える人の数は多くない。
 さらに、ヘルサルの時のようにゴブリンが相手なら、ある程度は戦えるだろう人達も、強力な魔物相手だと戦力にすらならない可能性が高いという事。

 ユノのが見つけたらしい魔物の名前を聞いて、マックスさんが教えてくれた冒険者の知識のうち、魔物の話を思い出した。
 あの時はまだ、ユノはいなかったし、まだ冒険者になる前で新人だから絶対に手をださないように言われていた魔物。
 マンティコラースは、獣の胴体に人間のように見える顔を持ち、サソリのような尻尾に毒を持つ魔物。
 人の顔で、人を食べる魔物らしく、その姿は同じ多種合成魔物と呼ばれるキマイラ以上におぞましい……らしい。

 さらにキュクロップス……こちらは二足歩行の、人間に近い形をしている魔物。
 しかし、その体はただただ大きく、特に大きい物では五メートル以上の巨体が確認された事もあるとか。
 キュクロップスは、単純にその巨体から繰り出される怪力による破壊行動が問題で、皮膚の固さも相俟って生半可な攻撃は受け付けず、一体で街一つ破壊できる体力を持つとも言われている。
 もっとも、それは高ランク冒険者などの、戦える人がいない街であった場合らしいけど。

 単純な怪力による攻撃ばかりなので、離れて魔法で動きを制限し、疲れさせて倒すというのが一般的らしいけど、BランクやAランクの冒険者が複数いれば、可能な程度らしい。
 体力と腕力の化け物だから、野放しにした時の被害は大きいけど、倒せない相手じゃない。
 キマイラとキュクロップスは同等と見られ、Aランク討伐対象であり、マンティコラースはBランク相当だったはずだ。
 絶対に敵わない相手というわけではないんだけど、それが複数……しかも戦うのは高ランクの冒険者ばかりではない……と。

「かなりやばい状況、だよね?」
「やばいで済んだら、まだマシと言えるじゃろうな。フランク子爵の号令で、戦えない者は着の身着のままで北へと非難させておる」
「北へ? という事は、ブハギムノングの方へ?」
「そちらに、リクがいるとフランク子爵は知っておったからの。じゃから、そこまで行けばなんとかなるかもと考えたようじゃ。……いささか、リクを頼りすぎと言えるかもしれんが、絶望的な状況なのじゃ、それも仕方あるまい」
「運が良ければ、ブハギムノングまで逃げられる。運が悪ければ……」
「ルジナウムの街が壊滅したうえで、北上した魔物によって、非難した人達も……って事かな……」
「そうなるのう」

 エアラハールさんという、元Aランク冒険者がいるとしても、できる事は限られている。
 キマイラを楽々倒すユノがいたとしても、集団全てを相手にできるわけじゃないから、こちらも限界がある。
 モニカさんや、街の戦える人達は、正面からキマイラやキュクロップスを迎え撃っても、どうにかできるとは、とてもじゃないけど言えないだろう。
 俺が街を離れている事から、フランクさんがん考えたのはおそらく、兵士や冒険者を集めてできるだけの時間稼ぎ。

 戦えない人達を避難させて、少しでも生存者を増やそう……という事なんだろう。
 街を捨てて全員で逃げる案も、フランクさんなら考えたと思うけど、それだと魔物に追いつかれる可能性だってあるからね。
 人間も、集団になれば移動する速度は落ちるものだし。

「でも、リクさんが来てくれて良かった。これで、もっと時間を稼いで逃げる人達を安全にできるわ」
「そうじゃの……ワシはリクの実力を目にする事はほとんどなかったが、それでもそこらの者よりは戦えるじゃろう。今は、少しでも戦力が欲しいところじゃからの」
「リクと私で頑張るの!」
「えぇ、頑張りましょうユノちゃん。とりあえずリクさん、フランクさんの所へ」
「あ、うん。わかった」

 モニカさんもエアラハールさんも……ユノも状況は最悪だと感じているようで、魔物を打ち倒す事よりも、逃げる人達が助かるように時間稼ぎする事を考えている。
 でも……俺は少し違う考えだ……。
 皆とは違う意見というか、考えを口に出す前に、モニカさんに促され、まずはフランクさんと会う事にした。
 とりあえず、ここで話しているだけじゃ時間を浪費するだけだからね。

「リクさん、ソフィーはどうしたの? エルサちゃんに乗って来たから、てっきりソフィーモ一緒だと思ったんだけど?」

 俺の手を引っ張って、速足で移動しながらモニカさんが一緒にいるはずのソフィーの事を聞かれる。

「ソフィーはまだ、ちょっと鉱山でやる事があってね。とりあえず、ルジナウムの街が危ない事がわかったから、俺だけこっちへ来たんだ。エルサに全力で飛んでもらってね」
「エルサちゃんの全力……という事は、ソフィーは乗れないわね」
「ちょっと待つのじゃリク。おぬしはどうして、ルジナウムの街が危険だとわかったのじゃ? ドラゴン様に乗れば、移動は楽なのは確かじゃが、さすがに離れた場所の状況がわかるわけではないじゃろう?」
「それは確かにそうです。けど、鉱山の中でエクスブロジオンオーガがいた原因と繋がっていたんです、ルジナウム付近の魔物集結は。まぁ、細かい話は後にしますけど……とある人物の研究と、企みで、ルジナウムに魔物が押し寄せると分かったんですよ。それで、すぐにこちらへ……」
「うむぅ……よくわからんが、何かを見つけたようじゃの」
「はい。詳しくは、ルジナウムを守ってから話します」
「……それじゃ、話を聞く事はできそうにないのう……」
「そうね……残念だけれど。せめて、ヘルサルの時のように、準備する時間があれば……非難させたり、戦える人を集めたり、王都へ救援を要請できるのに……」

 西門へと向かいながら、軽く鉱山での事を話す。
 要約し過ぎて、ちゃんと伝わらなかったようだけど、詳しくは後でいいだろう。
 まぁでも確かに、モニカさんの言う通りもっと準備時間があれば、ヘルサルのように戦う支度を整える事はできただろうなぁ。
 あの時も、状況は絶望的と言えたし、完全に支度が整っているとは言えなかったけど。

 とにかくルジナウムの街を守った後でなら、時間はいくらでもあるだろうし、その時に話せばと思うんだけど、エアラハールさんとモニカさんは、状況を悲観しているためか、その機会はないと考えているようだ。
 唯一、ユノだけは俺が何か考えていると勘づいたのか、ニッコリとした笑顔をこちらに向けていた。
 なんというか、少しこの世界へ来る直前……神の御所だったっけ? あそこでユノと話した事を思い出す。
 つまらなさそうに、寂しそうにしていたユノの事を考えると、こんなところで魔物に押しつぶされるわけにはいかないし、ユノ自体も巻き添えでやられてしまってはいけない……と、内心に灯る火のような感情が沸いているのを自覚する。
 これは……誰かを、何かを守ろうという気持ちであると同時に、仕組んだ者達への怒りなのかもしれない……。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...