607 / 1,903
エクスブロジオンオーガの実験と人体実験候補
しおりを挟むこの男性、人の事を見下した物言いなのに、自分が見下されるのは許せないみたいだ。
まぁ、こういう人間って自分が人より上だと思っていないと、我慢できなさそうだから、見下されるのには耐えられないのかもね。
というか、鉱夫さん達は多分見下すつもりはなくて、ブハギムノングでは珍しいとさえ言えるくらい体が細いから、ただ事実を言っていただけなんだと思う。
鉱夫さん達は力仕事だからね、細い体で心配になったんだろう。
俺から見ても、かなりひ弱というか……細い気がするし、力仕事とか苦手そうだし。
自分と鉱夫さん達を見比べて、確かに体格が良くないとか考えたり、それが通じるような人じゃなさそうだけど。
というか、ひ弱だとか言われてたって……もしかして……?
「えっと……もしかして、モリーツさん?」
「……ほぉ、俺の名前を知っているようだな。どうやら俺も、天才として世に名が知られるようになったか……」
「あー……えっと、そうですねー……」
「街の人間に聞いた名だからなのだわ……」
「こらエルサ、静かに……」
「はぁ……だわ」
鉱夫さん達に言われていたと聞いて、もしかしてと思ったけど、やっぱり行方知れずになっていた人らしい。
名前は鉱夫組合で聞いていただけで、本当にこの人が有名になったからというわけじゃないけど、とりあえず調子に乗らせておくために、話を合わせておいた。
エルサが余計な事をボソッと言ったので、静かにするよう注意したけど……自分に酔い始めたようにも見えるモリーツさんさんには聞こえていなかったようだね。
この人がモリーツさんさんだとすると、確かにエクスブロジオンオーガの事を最初から知っていそうだという話もわかるし、そもそも核の事を調べるためにこの鉱山へ来たんだろう。
まぁ、鉱山の中にこもっているだけで、どうして天才として名前が世に出るようになると思えるのかは、わからないけど……。
「……そうだな、やはり新しい実験をするべきか。ちょうど、人間が二人いるのだからな。そして、世界は私が天才だと思い知るだろう……」
「人間……俺達の事ですよね。でも、実験って?」
「エクスブロジオンオーガは、爆発の性質を増幅、条件の追加などができるかどうかの実験に過ぎないのだよ。本当に私が目的にしているのは、人間相手なのだからな」
「人間相手……えっと、爆発とどういう関係があるんですか?」
自分に酔っているからだろうか、微妙にさっきと言っている事が違う気がしなくもない。
さっきは、エクスブロジオンオーガの事を傑作と言っていたのになぁ。
実験の成果がちゃんと出ているという意味では、確かに傑作だと考えているのかもしれないけどね。
「本当は、鉱夫達を捕まえて来て実験しようとしていたのだが……エクスブロジオンオーガに命令はできないし、生け捕りにするなんて事も考えられない。どうしようかと考えを巡らせていたところだったのだ」
「……」
「人間相手と、エクスブロジオノーガの実験と爆発……それは……」
あ、ちゃんと説明してくれるんだ。
微妙に無視されて人間を捕まえる云々の話になったから、そこは秘密にされると思ったんだけど……やっぱり自分に酔っている状態みたいだね。
「人間に、エクスブロジオンオーガの性質を移植する事だ!」
「性質を移植……?」
「は、お前がわからないのも無理はない。これはまさに天才の発想だからな!」
「……ちっ」
おっと、思わず舌打ちが出てしまった……。
こちらを見下すのはわかっていた事だけど、自分を天才と言って憚らず、馬鹿にするような言い方に、ちょっとイラッとしてしまった。
深く呼吸をして、少し落ち着いて話を聞こう。
「教えて欲しいか? 教えて欲しいだろう? ……はっはっは! 仕方ない、天才自ら能なしの冒険者に教えてやろう、ありがたく思え! どうせ実験に使われる体だ、今のうちにありがたい話をよーく聞いておくんだな」
「……」
うーん……ぶっ飛ばしたい……。
でも、話してくれると言うんだから、聞いておくべきなんだろう。
さっきよりもさらに深く呼吸をして、エルサのモフモフを撫でて心を落ち着かせながら、耳を傾ける。
エルサの方は、先程までと違って怒っている様子がなくなっているけど、もはや呆れているせいなのかもしれない……。
「エクスブロジオンオーガの性質……つまり、爆発するという特性を、人間に与えるのだよ! それによって、人間を使った兵器ができる。エクスブロジオンオーガと違い、自分で考えて行動できる兵器だ。さらに言うなら、人間の方が魔力が多いからな……爆発の威力を引き上げる成果も追加する事で、一人でエクスブロジオンオーガ数体……いや、数十体分の爆発をさせる事ができるのだ!」
「……っ!」
エクスブロジオンオーガの性質、という時点で半ば予想はしていたけど……人間を平気として作り替えようとしているなんて……。
爆発の規模が大きければ大きい程、差し向けられた側の被害は大きいし、エクスブロジオンオーガと違って、考える事ができるから臨機応変に動く事ができる。
爆発の規模は予想できないけど、どちらにせよ一人を使うだけで多大な被害をもたらす事は、簡単に想像できる。
それこそ、仲間を装って潜り込む事だってできそうだ……この研究は完成させちゃいけない。
「数十体分という事は……」
「街一つ……というのは大袈裟だろうが、数軒の建物くらいは破壊できるだろう。それが大量にいれば……」
「街も十分に破壊できる……」
「いや違うな、街なんて小さい規模ではない! 国を一つ破壊しつくす事だってできるはずだ!」
「国一つ……」
それにはどれだけの人を巻き込めば、事足りるのだろうか……?
実際に爆発させられる人間、爆発に巻き込まれる人間……他にも様々な人間が巻き込まれてしまう。
いや、人間だけでなくエルフや獣人も。
国にいる人達が犠牲になってしまう……なんて事を考えているんだ、この人は……!
「近々、大量に人間の実験体が手に入る予定だったが、まずはここに来たお前達で試すのもいいだろう……これも俺が天才だと証明するために必要な事。礎になる事を喜ぶがいい!」
「っ……お前……!」
大きく腕を振り上げて、まるで演説をするように言うモリーツさん。
自分が天才だと世に知らしめるためには、他人の事は全て、道具のようにしか考えていないのだろうというのが、見て取れる。
まだ実際に人間相手の実験をしていないみたいだけど、このまま野放しにしてたら、いつか必ず誰かが犠牲になってしまうだろう。
それに、近々手に入ると言っていた人間の実験体……というのも気になる……。
「……その、近々手に入る人間の実験体……というのは?」
「ふっ……我々の計画は完璧だ。エクスブロジオンオーガに施す実験の元になった研究で、魔物を誘導する方法を確立させたのだ。それを使って魔物を集め、人を襲わせ、人間を回収する……無駄のない計画だよ!」
「魔物を誘導……集める……まさか、ルジナウムの!?」
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる