上 下
599 / 1,903

穴の中へ

しおりを挟む


「……服が切れているな。見ている限りでは、リクに攻撃を当てたエクスブロジオンオーガはいなかったから、確かに風の魔法を使ったのだろう」

 不可視の刃だから、離れて見ているソフィーにはよくわからなかっただろうと思い、ソフィーへ腕を持ち上げて切れた服を見せる。
 手首まである服の袖は、数か所が切れており、魔法が当たった事を証明していた。
 威力が弱くて鋭い刃ではなかったんだろう、切れると言うよりも破れると言った方が正しいかもしれないけど。
 アルネ達だったら、もっと鋭く剣で斬ったのと似たような感じになったんだろうね。

「魔法を使って、意識がなくなっても爆発しない……しかも肌が緑……これって」
「リクが聞いた特徴と一致するな。もしかすると、これが本来のエクスブロジオンオーガなのか?」
「どうなんだろう……? 他の赤みがかった肌の方も、爆発するからエクスブロジオンオーガなんだろうけど……爆発の威力も鉱山じゃなければ危険、という程でもないし」
「そう、だな……だが、実際に別の種類と言える程の違いだが……」

 緑のエクスブロジオンオーガは、魔法を使い、意思の力で爆発するから瞬時に決着を付ければ爆発しない。
 大して赤いエクスブロジオンオーガは、魔法を使わず、意思の力以外にも爆発するため、爆発しないように倒す事はできないに等しい。
 突然変異とか、色違いによる差異とも言えるかもしれないけど、どちらが変異でどちらが正しいのか……。
 いや、フィネさんから聞いた話や、最初に発見されていたのは緑の方だから、そちらが正しいんだろうけど。

 でもそれにしては、俺達が鉱山に入ってから赤い方ばかり遭遇していた。
 突然変異だと、そんなに数が多くなりそうにないから、違うんだろうし、色違いだとしても赤い方とばかり遭遇する理由がわからない。
 もっと混在しててもいいはずだからね。

「これは、やはり無理にでも穴の向こうを調べる必要があるかもしれないな」
「……そうだね」

 倒れたままのエクスブロジオンオーガから視線を外し、穴の方へと向けるソフィー。
 このエクスブロジオンオーガは、間違いなく穴を通って出て来たのだから、向こうには何かがある可能性が高くなってきた……のかもしれない。
 これだけ頻繁に、エクスブロジオンオーガが通り道として使っているうえに、今までと違う事があれば怪しさ倍増だね。

「それじゃ、予定通り向こうへ行く事にしよう。エルサは、もう食べ終わったの?」
「あぁ。満足したみたいだ」
「お腹いっぱいなのだわぁ」
「そのまま寝ないでくれよ? 穴を取っている時にエクスブロジオンオーガが来たら、結界を任せるからな?」
「わかってるのだわぁ。そのくらい昼飯前なのだわー」
「……それを言うなら朝飯前だろ……しかも昼は今食べたばかりだし」

 予定通り、穴の向こうへ行くため準備を開始する。
 とは言っても、結界の形をイメージするだけだけど。
 エルサの食事が終わっている事を確認し、声をかける。
 満腹になって人の頭にくっ付いてたら、寝ている事が多いから、そうならないためだね。

 エルサに頼る部分もあるから、今寝られると困る……というか寝ていたら起こしてたところだ。
 妙に俺の記憶から言葉を引っ張って、気楽に言うけど、使い方というか微妙に間違っているのがエルサらしい。
 ともかく、穴へと近付いて結界を発動させ……。

「あ、リクちょっと待つのだわ」
「ん?」

 穴の中に体を潜り込ませ、結界を発動させようとした直前で、後ろからエルサの声で止められた。
 どうしたんだろう?

「結界で完全にふさいだら、その外へ私が結界を張れないのだわ。結界は完全に遮断する事を目的にしている魔法だからだわ。魔力が通らないのだわ」
「あぁ、そうか。だったら、俺達を完全に包むんじゃなくて、後ろの方は開けておこう」
「ちょっと通りが悪くなって、発動に時間がかかるけどそれでいいのだわー」
「時間がかかる?」
「魔力を迂回させないといけないのだわ。けど大丈夫なのだわ。数秒程度の誤差なのだわー」
「それなら大丈夫か」
「……魔法の使えない私にはわからない話だな。まぁ、リクの魔法は人間の魔法からもかけ離れているが」
「そうかな? まぁいいや。それじゃ、結界!」

 魔力といえど、結界で完全に塞いだら通り道すらなく、外側で魔法を使えないって事か。
 そういえば、魔力溜まりから漏れ出す魔力というか、気配というか……そういったものも結界で遮る事ができるから、そうなってしまうのも当然だろうね。
 魔力は、空気のように見えなくともちゃんとそこに存在するものなのだから。
 匍匐前進のような格好で、前に俺、後ろにソフィーという並びを考えて、ソフィーのさらに後ろを開ける事で、魔力の通り道を作る事に決めた。

 前方はエクスブロジオンオーガと接触する可能性のある部分で、しっかり塞いでおきたいから。
 数秒のタイムラグのようなものができるようだけど、その程度なら問題ないだろうと、結界をイメージ通りの形になるよう気を付けながら、発動した。
 話が分からないと言っているソフィーは、魔法を使えないのだからある程度は仕方ないかなと思う。
 というより、俺自身もわかっていない事が多いからね……ちゃんと勉強した方がいいかもしれない。
 アルネあたりに教えてもらおうと一瞬だけ考えたけど、興奮して話が長くなりそうだから、フィリーナやモニカさんとかが適任そうだね。

「あ、明かりはどうしよう……?」
「仕方ないのだわー。暗いのは私もあまり好きじゃないのだわ」
「おおう。ありがとう、エルサ」
「……別に、リクのためじゃないのだわ。ただくらいのが嫌だっただけなのだわ」
「く……モフモフが……」

 穴の中に潜り込み、結界を発動していざ進もうとしたところで気付く。
 今はまだ入り口付近で、俺やソフィーの体で遮ってはいても、広場の方から多少の明かりが差し込んでいる。
 そのため、かなり暗くはなっていても何も見えないという程じゃない。
 けど、穴の奥までは届かないので、視線を向けた先ではどこまで続いているのかもわからないくらい、黒い暗闇が続いていた。

 その事に気付いたあたりで、後ろにいるソフィーから俺の頭にコネクトしたエルサが、以前地下通路を通る時にやってくれた明かりを灯してくれた。
 頭にくっ付いているから見えないけど、エルサの目から光線が出ているような……? いや、ここはあまり気にしない方がいいか。
 エルサは俺と同じでイメージをもとに魔法を使うから、どこから光を放ってもおかしくないだろうしね。
 お礼を言うと、照れ隠しのような事を言うエルサを撫でたいけど、狭いから手を自由に動かせない……後でしっかり撫でてあげよう、モフモフも堪能したいし。
 自分の頭から気持ちの良い感触が消えて、寂しそうに後ろで呟くソフィーの事は気にしない。

「随分、奥まで続いているのだな。ん……中々、こうして進むのも疲れるものだ」
「そう、だね……剣を振ったり、戦闘する程ではないけど、それなりに運動している感じだね……」


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...