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まずは腹ごしらえ

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 とりあえず、エクスブロジオンオーガについてじっくり話をしたいけど……まずはお腹が減ったエルサを落ち着かせないといけないため、宿よりも先に酒場へと向かう。
 エルサにキューをあげて静かにしていてもらうのも、そろそろ限界だしね……大量に持って来ているわけじゃないから――。

「いらっしゃーい! あら、英雄様のご来店ですか?」
「どうも。……英雄じゃなくて、せめて名前で呼んで欲しいんですけど」
「そうですか? それじゃリク様ですね。えっと、昨日と同じ三人っと。こちらへどうぞー」

 夕食のためにと入ったお店は、昨日と同じ酒場。
 昼前にも謝罪のために来たけど、そこは気にしないようにしておく。
 入ってすぐ、威勢のいい声に迎えられ、英雄様と呼ばれたので名前で呼ぶようにお願い。
 様を付けて呼ぶのは取れていないようだけど……細かい事まで気にしたり言ったりしない方がいいのかなと思う。

「本当に、リクが壊したテーブルが飾ってあるんだな」
「看板まで作ってあるのう。何々……『英雄様が壊した物』だと書いてあるの。あれで人は来るのか?」
「……どうなんでしょう? 俺としては、失敗を飾られているのは恥ずかしいですけど……。まぁ、戒めとしては悪くないかもしれません」
「ふむ……昨日より人が少し多い……か?」

 給仕の女性に案内されたのは、昨日とは別のテーブル。
 さすがに、同じ場所には通されなかった……というよりも、その場所には今も壊されて使い物にならなかったテーブルが置いてあるからね。
 ソフィーが、俺が説明した事を確かめるようにそちらを見て頷き、エアラハールさんが木の板で作られた看板を読む。
 ……看板なんていつの間に用意していたのか。

 ともあれ、俺が壊したテーブルや椅子は、お店の一角に積まれ、周囲を縄で囲んで見世物のようになっている。
 その前に看板が置いてあるんだけど……広告というより、博物館とかの展示物に近い扱いに見えるのは俺だけなんだろうか。
 床の方は応急処置のような補修がしてあって、人が通っても大丈夫なようにしてあるし、いずれ直すんだろうけど、自分の失態が飾られているというのは微妙な気分だ。

 ソフィーが店内を見渡して、お客さんが増えているような気がすると言っているけど、日によって違うだろうし、まだ飾って一日目だから、すぐに効果が出るものでもない気がする。
 本当に宣伝効果があるかはわからないけど、迷惑をかけたんだしお店に貢献できるのであれば、恥ずかしさも我慢できる……かな?

「今日はなんにします? 一応、連日暴れられるのは……」
「あぁいや、さすがに今日は暴れませんよ。お酒も飲まないですし」
「なんじゃ、飲まないのかの?」
「昨日のリクを見て、飲ませようと思うのはエアラハールさんだけですね。――すまない、料理の方を頼みたいのだが……」

 テーブルについた後、給仕さんに注文を聞かれる。
 苦笑しているけど、さすがに連日暴れようとは思わないし、お酒を飲もうとも思わない。
 暴れたのは酔っていたから……という言い訳もできるけど、かといって昨日のように慣れるために無理矢理飲みたいとは思わない。
 いずれ慣れる事は考えないといけないかもしれないけど、昨日の今日でまた同じ失態をしたら、お店に対して申し訳ないしね。

 ソフィーは残念そうなエアラハールさんに対し、溜め息を吐くように呟いた後、代わりに注文をしてくれた。
 もちろん、エルサ用のキューも忘れずに。
 お酒が飲めない事を、ブツブツと文句を言うようだったエアラハールさんだけど、結局自分だけは飲むようにこっそり頼んでいた。
 俺が飲まなければいいんだから、別にエアラハールさんが禁酒をするわけじゃないし、別にいいんだけどね。

「ソフィーは、飲まないの?」
「昨日のリクを見ていたら、しばらく酒を飲むのも控えたくなる……というのは冗談だが、エクスブロジオンオーガの事もあから、今日は止めておく」
「あははは……まぁ、話をするならお酒が入っていない方がいいよね、うん」
「酒が入ってても、しっかりと話をして建設的な意見を出す……それが冒険者じゃ!」
「……顔が赤くなっている状態で言われても、微妙に説得力がありませんよ?」

 俺とは違って、ソフィーはお酒を飲んでも暴れたりしないし、平気なようだったからエアラハールさんと同じように呑まないかと聞いてみた。
 冗談を交えながら、飲まない理由を教えてくれたけど、確かにエクスブロジオンオーガに関する事も相談しておかないといけないし、控えておいた方がいいか。
 がばがばと、料理よりもお酒を飲む事を主としているエアラハールさんは、赤みがさした顔で主張しているけど……さすがにその主張にはあまり説得力を感じない。
 確かに、冒険者はお酒を大量に飲んでいるイメージはあるけど……実際、ヘルサルでも昼夜問わず酒場には冒険者が多かった。

 まぁ、それで本当に建設的な話ができるのかわからないけど、俺達は俺達なりのやり方でやろう。
 エアラハールさんの意見は、欲しかったりもしたんだけど……この状況じゃそれも難しそうだから、ソフィーとしっかり話をする事に決めた。

「モキュモキュモキュ……美味しいのだわー」
「そうかそうかー」
「あー、とりあえず夕食を頂いてからにしよう。宿へ帰ってから静かな場所での方がいいだろうしね……」

 エルサがキューやら他の料理やらを食べて、ご満悦な様子なのをソフィーが見て、頬が緩んでいらっしゃる。
 いつもは俺の近くで食べているエルサだから、すぐ近くで観察できるのが珍しいんだろう。
 とりあえず酒場だと騒がしいのもあるし、話をするのは後にすると決めて、まずは料理を食べる事にした。


「はぁ……まさかあの場で寝るとは……」
「結構な年齢でもあるからな。それに、鉱山の調査で体力も使っている。仕方ないのかもしれんな」
「そうだね……」

 宿の自分の部屋へと戻り、大きくため息。
 ソフィーと話しているのは、酒場でお酒を飲むだけ飲んで寝こけてしまったエアラハールさんの事。
 酔いが回ったからなのか、疲れが原因なのかはわからないけど、気付けば樽ジョッキを片手にテーブルへ顔面を打ち付けるようにしてそのまま寝てしまった。
 結局、俺とソフィーが協力して宿へ運び、ようやく部屋へと戻って来て一息といったところだ。

 ソフィーの言う通り、間違いなくお爺さんと言える年齢なのだから、仕方ないのかもしれない。
 というより、元Aランクの冒険者というだけで、俺達と一緒に鉱山の中に入って調査協力してくれた事を考えると、ありがたいと言えるのかもね。
 お酒が入っても話を……と言っていたエアラハールさんは、部屋で寝かせてソフィーと二人……いや、エルサも一緒にエクスブロジオンオーガの事や調査の事を話し合うため、俺の部屋へと来た。
 エルサは、お腹いっぱい食べられて満足しているようだし、話には積極的に参加したりしないだろうけど。

「とりあえず、調査に関する事だね。えっと……ここかな」

 話し合いを始めるため、テーブルに置いてある地図を広げ、見つけた穴があった場所を指して話し合いを始めた――。


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