上 下
562 / 1,903

謝罪と酒場の宣伝

しおりを挟む


 俺が頭を下げている事に、慌てているらしい店主さん。
 だけど、迷惑をかけたのは俺なんだから、ここは頭を下げさせて欲しい。
 英雄と呼ばれてるとかで、ふんぞり返ったりお金をばらまくだけで解決なんて事は、したくないからね。
 そう思って謝罪をしていたら、さらに慌てた様子の店主さんに腕を引っ張られ、店の奥へと連れていかれた。

 お客さんがいるのに、大声で頭を下げて謝罪っていうのも、いけなかったのかな?
 ……またお店に迷惑をかけてしまったかもしれないなぁ。
 ちなみにだけど、お店の奥へ行く時視界に入った隅の方では、俺が壊したと思われる粉々になった机や椅子が寄せられていた。
 木の床にも、数か所穴が開いているようだし……やっぱりもっと謝らないといけないなぁ、これは。

「えーと……それでその……」
「昨日は迷惑をかけてしまい、本当にすみませんでした……」

 連れていかれたお店の奥、事務所というか、店員の休憩所のような部屋だね。
 いくつかある椅子に座り、俺を連れてきた女店主さんに向き合って再び頭を下げる。
 女店主さんはどうしたら……と困った表情をしていたけど、とにもかくにも、まずは謝らないといけない。

 ちなみに、頭にはエルサがいつも通りくっ付いている。
 朝は避けられていたのに、渋々ながらもついて来てくれた。
 多分、以前俺がヒルダさんと話していた中で、一人になる云々というのを気にしているんだろう……ありがたい。
 ソフィーとエアラハールさんは宿で留守番だね。

 今回は俺だけが迷惑をかけたんだから、ついて来ると言っていたソフィーには遠慮してもらった。
 こういうのは、誰かについて来てもらうとかじゃなく、ちゃんと一人で謝らないとね……エルサはいるけど、それはそれとして。
 エアラハールさんは、俺が暴れた事でお酒をあんまり飲めなかったと言って、部屋でのんびり飲んでいると言っていた。
 ……昼前から飲んでいても大丈夫だろうかと心配だけど、あの人の事だからなんとかなるんだろう。

「リク様、とにかく頭を上げて下さい。そのままでは、畏れ多くて話ができません……」
「あ……えっと……はい」
「リクが頭を下げてたら、くっ付きやすかったのにだわ……」

 女店主さんに言われ、頭を上げる。
 エルサがボソッと呟いていたけど、それはスルーさせてもらう。
 後頭部にくっ付きやすくするために、頭を下げていたわけじゃないし、今は女店主さんと話さないといけないからね。

「? どこからか声が?」
「あははは、そっちは気にしないでいただけると……」
「はい。まぁ、昨夜リク様が暴れた事ですが……」
「申し訳ありませんでした! 修理費は払ったとの事ですが、足りなければ追加で! それに迷惑料も……」

 女店主さんにも、エルサが小さく呟いた声が届いたのか、キョロキョロと首を巡らせていたけど、とりあえず気にしないように伝える。
 まぁ、エルサの事をよく知らなかったら、喋るなんて思わないよね……噂では、白い毛玉を俺がくっつけているとしか思われていないようだし。
 ともあれ、昨日の事へと話が戻ったので、もう一度謝っておく。
 修理費が足りなかったり、迷惑料が必要なら払う事も辞さない構えだ。

「あぁ、いえいえ。それは大丈夫です。正直に言うと、うちとしてはありがたいくらいですよ」
「え、ありがたいって……さっき見ましたけど、テーブルや椅子も壊れていましたし、床も……」
「まぁ、床は修繕しないと危ないので、頂いた修理費を充てさせてもらいますが……テーブルと椅子は、あのままにしておこうかと考えています」
「うぇ?」

 この女店主さんは何を言っているんだろう?
 床を修繕しないといけないのは当然だろうけど、それでもテーブルや椅子はそのままって……。
 店としては、壊れて使えない物を置いておくなんて、損にしかならない気がするんだけど。
 よくわからなくて、変な声が出てしまった。

「いえね? 今この国で一番話題というか、噂になっている英雄リク様ですからね。そんな方が私の店を利用し、テーブルや椅子を破壊した……まぁ、リク様の気分を害したとか、そういう事はなかったと説明する必要はありますが、宣伝になりそうなのですよ」
「はぁ……いやまぁ、確かに酔っ払っただけで、気分を害したわけじゃありませんが……」
「もちろん、リク様の悪評となりかねないので、後でお伺いするつもりでした。……まさか、謝りに来られるとは思ってもいませんでしたので……」
「いえ、迷惑をかけたのはこちらですから。それに、お店の物を壊したわけですし……悪評……はあまりいい気分ではないですけど、物を壊したのは事実ですからね」

 商魂たくましい……と言うべきなんだろうか?
 女店主さんは、噂と俺の名前を使って、壊れたテーブルや椅子をそのままにする事で、お店の宣伝に使えないかと考えているようだ。
 確かに、王都から結構離れたこの場所にも、余計なものがくっ付いているとはいえ、既に俺の噂が広まっている事を考えると、客寄せになる可能性はあるのかもしれない。
 俺やエルサが、キューを食べていたという話だけで、キューが売れすぎたりもしているみたいだしね。

 悪評と言われると、ちょっと微妙な気分になってしまうけど、それでも物を壊した事は事実なんだし、それが多少誇張して伝わるだけかなと思う。
 ……そういう噂が広まると、姉さんには怒られそうだけど、今のような称賛される噂を少しは緩和できないかな……と浅はかにも頭の隅で考えたりもしている。

「リク様は昨日、親方と勝負をしたので知っていると思いますが……この街では、力を持っている事が良く見られます。もちろん、暴力が全てとかではなく、単純な力比べで強い人が優秀とされる程度ですけどね」
「はい。それは昨日もフォルガットさんに聞きました」

 力と言っても、喧嘩が強いとかそういう話ではなく、腕相撲で強いとかの、力持ちが称賛されるとかそういう事だ。
 この街には来たばかりだけど、体格のいい人や気性の荒そうな人はよく見かける。
 それでも、喧嘩をしている所というのは全く見ていないし、殺伐とした空気のようなものも感じない。
 鉱山に出る魔物の影響で、意気消沈していたりして、寂れている雰囲気は多少感じるけど、それでも争いを良しとする風潮ではない事くらいはわかる。

 というより、単純に力持ちの人が偉いというわけではなく、皆から尊敬される……といった程度で、それが上下関係をもたらしているわけではないんだろう。
 力試しも、腕相撲なら怪我をする事も少ないだろうしね。

「リク様は昨日、酔っていたとはいえ素手でテーブルや椅子を破壊していました。それは確かに、親方を打ち負かした事を納得できるものです。そして、多くの力自慢がいるこの街でも、あのような事ができる人はおりません」
「えーと……鉱夫さん達が暴れたりは?」
「酒場なので、そういう事も多々ありますが……元々荒っぽい人間が来る事も想定しておりますので、頑丈なテーブルと椅子を用意しております。そして、今まで力試しをしても、体格のいい力自慢の鉱夫が酔って暴れても、壊れる事はありませんでした。あれを壊す事ができたのは、リク様だけなのです」
「はぁ……」


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...