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酔ったリクの所業

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「そのだな? あの後リクは酔って楽しくなって来たのか、ひたすら笑っていてな?」
「んー、その辺りはなんとなく覚えてるね。今考えると、何が楽しかったのかわからないけど、妙に楽しくて笑いが止まらなかったのは覚えてるよ」
「そうか。それでな、その後……」

 ソフィーから、昨日の俺について説明を受ける。
 楽しくなって笑っていたのはなんとなく覚えているけど、俺って笑い上戸だったのかな?
 いやでも、それだけでエルサに避けられたりまではしないと思うし、その先に何かがあったんだろう。
 記憶にない部分を知るために、ソフィーからの話を聞いた。
 その間、エアラハールさんはお酒が入っていると思われる革袋の中身を、ちびちびと飲んでいたけど……大丈夫なんだろうか……。

「……俺、そんな事を?」
「……あぁ。いつものリクからは考えられない行動だったな。まぁ、その様子を見ると、本当に記憶にないようだし、やはり酔っておかしくなっていたのだろう……」

 全部じゃないが、俺が酔っ払った後の事をソフィーから聞いた。
 とりあえず、頭の中に浮かぶ感想は、本当にそんな事をしたのかという疑念と、酷いという事ばかりだ。
 俺がひたすらに笑い始めた後、まずは服を脱ぎ始めたらしい。
 お酒で熱くなった体を冷ますためと言っていたそうだ。
 まぁ、それに関しては上半身をはだけるだけ程度だったから、まだ良かったらしいけど、問題はその後だ。

 まずはキューに夢中だったエルサを抱き上げて、ひたすらモフモフを撫でまわし、頬ずりまでしていたらしい。
 さらには、椅子から立ち上がってクルクルと回転までし始めて、ソフィーとしてはどうしたらいいのかわからなくなってしまったとの事だ。
 うん、俺も自分の行動ながら、どうしたらいいのかわからない。
 そして、回転したり体を動かした事で、さらに酔いが回ったらしく、顔だけでなく体も赤くした俺は、あろう事かソフィーに手を伸ばしたと……。

 エアラハールさんのように、隙をついたり目にも止まらぬ速さ……とかだったりしなかったから、難なく止められたらしいけど、そのまま俺はソフィーの事を撫でまわそうとしたらしい。
 ……どこの酔っ払った痴漢だ……俺の事だ……はぁ……。
 結局、酔って前後不覚な俺が伸ばした手はソフィーに届かなかったらしくて安心したけど、そこからさらに問題行動を起こしたらしい。
 なんでも、ソフィーに触れなかった鬱憤を晴らすように、その場にあったエールを凄い勢いで飲み始め、エルサの尻尾を掴んでぐるぐる回したりとよくわからない事もしていたようだ。

 ……エルサが俺を避ける理由がよくわかった気がする。
 その後は、エアラハールさんが命の危険を感じたと言ったように、俺が暴れ始め、テーブルや椅子を片手で殴って壊したりと、散々酷い事をしていた……と。
 一応、人に対して暴力を振るうような事はしておらず、被害は物のみでソフィーが平謝りしてくれたのと、酔っていた勢いの俺が、修理代として多目のお金を懐から出した事で、なんとかなったらしいけど……お店には本当に申し訳ない事をしたみたいだ。
 あと、どれだけ酔っていても素手で暴れていた事と、魔法を使うような事はなかったから、店の中でも俺達がいた周囲くらいしか、大きく物が壊れたりしなかった事が幸いだったと言われた。

 それでも、店の物を壊したりしちゃいけないだろう、俺。
 修理費や迷惑料は払ったみたいだけど……後で絶対もう一度謝りに行こう……うん。
 もしその時に、払ったらしいお金が足りないようなら、追加で払う事に決めた。
 もちろん、お金で解決する事が正しいとは思えないから、誠心誠意謝る事は忘れないようにしないとね。

「……なんというか、本当にごめん、ソフィー。エルサも」
「まぁ……酔っていた事だしな。これからは気を付けてくれれば問題ない。……リクに触られそうになった時、ちょっと迷ってしまったが……」
「うん?」
「いや、なんでもない」
「とんでもない酒乱なのだわ。これから先、リクはお酒を飲む事を禁止するのだわ」
「そうだな……それだけの事を聞いた後、また飲もうとは思えないな」

 とにかく、迷惑をかけてしまったソフィーとエルサにまずは謝る。
 ソフィーは俺の代わりに謝ってくれたみたいだしね。
 エルサは、尻尾を掴んだり振り回したりしてしまったみたいだし……これからもモフモフに触れようとして避けられるのは辛いから、ちゃんと謝っておく。
 何かソフィーが小さく呟いた気もするけど、よく聞こえなくて聞き返したら、首を振って誤魔化された。

 エルサからは、お酒の禁止を言い渡される……当然だよね。
 飲んでも呑まれるな、なんてお酒を飲み始める前に考えていたのに、見事に呑まれてしまってるんだから……。
 これからは酒場に行っても、お酒を飲まないようにしよう。
 酒場なのだから、お酒を飲む場所でもあるけど……絶対飲まないといけないわけじゃないしね。

「……ワシには、謝罪はないのかの?」
「え、だってエアラハールさん、さっき面白かったって言ってましたし……」
「リクを器用に避けながら、笑って追加の酒を飲んでいたぞ?」
「……そんな事もあったかもしれんのう。まぁ、楽しかったのは本当じゃ。あれ程の暴れっぷりは、そうそう見られるものでもないからの」
「見世物じゃないんですけどね……はぁ……」

 エアラハールさんは、俺が暴れる所をただ楽しんでいただけのようだし、あまり申し訳ないという気持ちが沸かない。
 まぁ結局、一応頭を下げて謝意を示すくらいはしたけどね。
 それからとりあえず、ソフィーに追加のお水を持って来てもらったりもして、二日酔いがある程度収まるまで、休憩した。


「本当に、すみませんでした!!」

 大体一時間くらい経った後、完全に気持ち悪さは取れてはいないけど、多少は二日酔いがマシになったので、俺が暴れてしまったという酒場に謝りに来た。
 まずは店の中に入り、開口一番勢いよく頭を下げて謝罪。
 場合によっては、飛び込み土下座も厭わない意気込みだ。
 頭を下げているから、よくは見えないが、昼前の営業中だった酒場では、数人のお客さんと店員さん達が目を丸くして俺を見ているような雰囲気を感じる……いや、ちらりと視線を巡らせて見たんだけどね。

「……あ……えっと……英雄のリク様……ですよね?」
「はい、そう呼ばれております! ですがこの度は、英雄と呼ばれるのに相応しい行動をせず、迷惑をおかけしてしまいました!」

 奥にいた店主らしき女性が、少しして状況を把握したらしく、声をかけながら近付いてきた。
 ちなみに、昨日注文を取ってくれたり、料理を運んで来てくれた給仕の女性ではない。

「いえいえいえいえ! リク様に頭を下げられるような事はっ!」
「ですが、お店に迷惑をかけてしまいました! 本当に申し訳ありません! もし修理費がかかさむようでしたら、追加もお払いしますし、店が被った迷惑に関しても……」
「そのような事は! えっと、とにかく奥へいらして下さい!」
「あ、はい……」

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