上 下
551 / 1,903

観衆の中で腕相撲勝負

しおりを挟む


 見た目からして細い俺と、ガタイが良くて大柄な……親子とも言えなくもないくらい対格差がある、俺とフォルガットさんを見比べて、周囲の人達はフォルガットさんが勝つことを信じて疑っていないようだ。
 まぁ、俺が観客でも同じように考えるだろうから、当然でもある。
 ちなみに、時折ソフィーへ不躾な視線を送ったり、手を伸ばそうとした人がいたので、ソフィー自身が剣を抜いて突き付けて黙らせていたりもした
 一応、フォルガットさんも大声で注意していたりもしたので、すぐにおさまったけどね。
 うん、紳士的な人ではある……のかも……?

「まぁ、周囲の奴らは気にするな。これは、お前が本当に鉱山の事を任せてもいいのかどうか、それを見極めるための試験だと思ってくれればいい」
「……はい」

 試験ねぇ……腕相撲をする事が、調査の依頼をするために必要な資質を試す事になるのかは疑問だけど、この街では何かを決める時、これで決めるんだろう、多分。
 フォルガットさんの言い分に、渋々ながら頷いた。

「ともかく、言葉だけじゃ俺らは誰かを信用できねぇ。だったら、力で証明してみせろってこった。なぁに、手加減はしてやるから、思いっきりかかって来い」
「わかりました……あ、手加減は必要ないんで、フォルガットさんの方も全力でやって下さい。そうしないと危険ですから」
「ほぉ……中々言うじゃねぇか。そこまで言うなら、全力でやってやろう」
「おぉぉぉ……言うねぇ、若いの!」
「フォルガットさんを逆に挑発したぞ!? あのガキ、やばいんじゃねぇのか?」
「あぁは言っても、さすがに親方だって手加減するだろ」

 手加減なんてされたら、もし俺が勝った時に腕を打ち付けて怪我をするかもしれないからね。
 それに、鉱夫にとって体は資本だから、うでが折れたりしたら働けなくなるし……エアラハールさんの忠告を聞いたわけじゃないけど、一応ね。
 俺自身、見た目からも腕相撲が強い事がわかるフォルガットさんを見て、必ず勝てる自信というのはほとんどないけど……さっき力を込めて握手をした時から、なんとなく負けないだろうなぁと思ってる。
 そういう人ではないと思いたいけど、フォルガットさんが手加減して俺が勝っても、その後に文句を言われたりしないようにという意味もあるかな。

「周囲の奴らは気にするな。全力でやるから、さっさとかかって来な」
「はい……わかりました」
「……リク、くれぐれも手加減するんだぞ」
「そうじゃぞ。怪我をさせてはならんからな?」
「わかってますって……」

 俺を誘うように丸テーブルに肘を付けたままで、腕を左右に振るフォルガットさん。
 全力でやるとは言いつつも、その表情には余裕が見える。
 仕方なく、俺もその向かいで肘を付き、フォルガットさんの右手を握った。
 後ろでソフィーとエアラハールさんが、小声で言ってるけど……まぁ、さすがにこちらは全力でというわけにはいかないよね。

 俺自身、他の人達とあまり変わらないと思いつつも、エルサとの契約や魔力だとかで、通常とは少し違うんだなぁ……というのを自覚して来ているから。
 だからと言って、力を誇ったりとかしようとは思わないけどね。

「おい、審判やってくれ」
「はい、わかりました!」

 周囲にいる人達の中から、一人の男性へフォルガットさんが声をかけ、集まっている人の中から返事をしながら出てきた。
 確かこの人は……建物の奥から出てきた人だから、組合員だとかフォルガットさんと親しい人なんだろう。

「それでは、開始の合図をさせてもらいます。双方、よろしいですね?」
「おう!」
「はい……」

 審判を務めてくれる男性が、俺とフォルガットさんの握りあった右手を両手で包み込み、両者の顔を窺う。
 フォルガットさんが意気込んで返事をするのに対し、俺はあまり気乗りしない感じで声を出してしまった。
 だって……まさかこんな展開になるとは、思いもよらなかったからね……。
 ともかく、やる事になったのだから仕方ないと、少しだけ手を握る力を強める。

 フォルガットさんの方は、既に全力を出す気のようで、真剣な表情とともに右腕の筋肉が盛り上がっていた。
 ……これ、握る方も結構な力が入ってるよね……?
 あまり握手の時と変わらなような気もするけど……。

「それでは……始め!」
「むんっ!」
「……っ!」

 審判の男性が、俺達の手を包み込んでいる両手を一瞬離した後、少しだけ溜めて始めの声と共に、俺とフォルガットさんの手を軽く叩いた。
 その瞬間、腕相撲が開始され、フォルガットさんが全身に力を入れるのがよくわかった。
 距離が近いからね……筋肉お化けと言えそうなオジサンを、こんなに近くで見る趣味はないんだけど……。

「くっ……なんだ……とっ!?」
「おいおいおい、フォルガットさんが力を込めてそうなのに、全然動かねぇぞ!?」
「馬鹿、何言ってるんだ。あれはフォルガットさんが遊んでるんだよ! 全力でやったら一瞬で勝負がついて、つまらねぇだろ?」
「いや待て、テーブルをよく見ろ……いや、耳を澄ましてみろ。きしむ音が聞こえねぇか?」
「……確かに」
「ってぇ事は……フォルガットさんは全力で力を込めてるって事……か?」
「そうかもしれねぇ。じゃねぇと、丈夫なテーブルが軋む音なんて出すはずねぇからな」
「親方が勝負をする時は、あの軋む音と一緒にすぐ勝負がつくんだが……」
「あの小僧、何者だ……?」

 俺の正面で、勝負が開始されたにもかかわらず、どちらにも動かない腕を見て、フォルガットさんが表情を歪めた。
 とりあえず、向こうがどれだけかを測るために動かないよう腕を固定してたんだけど……成る程、これくらいか……多分、全力で殴られたり武器を当てられたら、さすがにソフィーの剣よりは痛そうだなぁ。
 なんて考えながら、これに対抗するための力をどれくらいにするかを決めようとしている間、周囲では見ていた人達が色々と騒いでいた。
 俺がこれだけ耐えるなんて、考えてもいなかっただろうから、騒ぎたくもなるのかもね。

 ともかく、そろそろ真面目にやらないと怒られそうだ。
 というより、肘の下にあるテーブルの方が耐えられそうにないね。
 ……腕相撲でテーブルを壊すって、どれくらいの力があればできるんだろう……なんて、そういう場面のある漫画とかを見ながら、この世界に来るまでは考えていたりもしたけど……成る程、このくらいなのか。
 まぁ、テーブルに材質だとかにもよって、耐久性は違うから、全部同じくらいの力加減だとは限らないけどね。
 それはともかく……。

「くっ……このっ……」
「んー……んっ!」
「ぐあ!?」
「「「えぇ!?」」」

 どうにかして俺の腕を倒そうと、顔を真っ赤にして力を込めるフォルガットさん。
 テーブルを軋ませ、そろそろ壊れそうだと言えるほどの力があるのは、さすがだと思うけど……。
 俺がやり過ぎないよう、フォルガットさんの力に合わせて腕に力を込め、右腕を左側に倒す。
 簡単に右手の甲をテーブルに付けたフォルガットさんは、わけがわからないと言うような悲鳴を上げ、倒れた腕の勢いのまま、体もひっくり返った。

 ……少し、やり過ぎたかもしれない。
 体も倒す程、力を込めたつもりはなかったんだけど……やっぱり俺は力加減が下手なんだなぁ……。
 周囲の人たちは、まさかフォルガットさんがあっさり負けるとは思っていなかったために、大きく声を上げて驚いていた――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...