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喧嘩は一瞬で終了
しおりを挟む「ぐふぁ!!」
注意して見ていたけど、結局その必要はなかったようで、あっさりユノに持っていた木の斧ごと弾き飛ばされるノイッシュさん。
木剣で、身の丈程もある大きな斧を持った、筋骨隆々のノイッシュさんを簡単に一撃で弾き飛ばすのは、中々壮観だった。
「うぐぐ……」
ノイッシュさんは壁まで飛ばされ、強かに背中を打ったようで、くぐもった声を出して痛みに耐えている。
呼吸はできているようだから、助けは必要ないみたいだね。
背中を強打して、もし骨に異常が出たりすると呼吸が困難になる事もあるらしいから、そうはならないようユノが加減したんだろう。
エアラハールさんとは違って、飛ばされる方へ自分で飛んだりしたわけでもないから、割と無防備に背中を打っているため、かなり痛そうではあったけどね。
ちなみに、今いるのは冒険者ギルドにある訓練場のような広い場所。
学校の体育館よりも広いくらいの場所で、ヘルサルでヤンさん相手に冒険者の実技試験をしたところと似たような感じだ。
冒険者ギルドでは、希望する冒険者が訓練をするため、こういった施設が併設されているのが通常だ。
街中とかで武器を振り回したり、魔法を使うわけにはいかないからね……獅子亭の裏では、よくモニカさんとマリーさんが訓練していたけど……まぁ、あれは例外というかなんというか……。
ともかく、ユノとノイッシュさんの口喧嘩がヒートアップし、それなら実力で相手を黙らせるとばかりに、ここへと移動してきた。
結局、大きな斧の形に加工されている物を持ったノイッシュさんが、ショートソードくらいの木剣を持ったユノに一撃で弾き飛ばされて終わったようだ。
「これで、私が子供じゃない事はわかったの!」
まだ背中が痛むのか、立ち上がれずにいるノイッシュさんに対し、腰に手を当てて言い張るユノ。
その姿は、完全に背伸びしている子供そのものだったけど、これだけの実力を示したユノに対して子ども扱いはできないだろうね。
というかユノは、子ども扱いされたくない年頃なのかな……?
実際の年齢が子供じゃないのは、確かだけども。
「つぅ……くそ、確かにこんな一撃を放つ子供なんてなぁ、普通いねぇな……認めてやるよ……」
「偉そうなの!」
「いやユノ、ギルドマスターだし、実際に地位としては偉いんだけどな?」
「……ワシも、一歩間違えばあぁななっとたんじゃろうなぁ……」
「エアラハールさんは、王都の冒険者ギルドで、もっと酷い事になっていませんでしたか?」
「……そんな事は忘れたのう……?」
悔しそうにしながらも、なんとか声を絞り出してユノを認めるノイッシュさん。
ユノの方は、ノイッシュさんに上から言われていると感じて、ぷんぷんしているけど……実際にギルドの中ではお偉いさんになるんだよなぁ。
まぁ、元神様とどっちが……と言われると微妙だけど。
エアラハールさんはノイッシュさんの方を見て、微妙な物を見るような視線で呟く。
でもエアラハールさんは、冒険者ギルドで騒ぎを起こした時は、武器こそ使わなかったけど、ユノの拳で滅多打ちにされていたんだから、あれ以上だろう。
ソフィーに指摘されていたけど、そっぽを向いてとぼけている様子。
都合のいい記憶だなぁ……どうせそのうち、また女性を触ったり触ろうとして、ユノに殴り飛ばされるんだろうというのが、簡単に想像できるね。
「認めるしかねぇな。わかった、英雄様がいなくとも、嬢ちゃんがいりゃ十分だ。魔物と戦う事になっても、負ける事はないだろうよ。すまなかったな、絡んじまってよ」
「わかればいいの」
「こらユノ、向こうが謝っているんだから、ユノも謝りなさい。ユノも色々言っただろう?」
「ごめんなさいなの……」
先程までの部屋に戻り、ノイッシュさんがユノの事を認めて頭を下げる。
腕を組んでそれを見ていたユノにも注意をし、お互い謝って仲直りだ。
先にノイッシュさんがユノを馬鹿にしたとか、そういう事はあるかもしれないけど、売り言葉に買い言葉だったし、喧嘩両成敗という事もあるから、こういうのはやっておかないといけない。
しばらくは、調査の依頼のためにこの街に留まるんだから、お互い喧嘩腰じゃ話も進まないしね。
モニカさんなら上手くやってくれるだろうけど、それに頼ってばかりもいけないとも思う。
ちなみに部屋へと戻る道すがら、ノイッシュさんにはユノと俺が剣を使って戦ったら、俺の方が負けるだろうという事を説明してある。
それを聞いたノイッシュさんは「あの年でAランクより強いなんてな、本当に人間か?」なんて言って唸っていたけど、まぁ、その感想もわからなくもないよね。
そもそも元は人間じゃないなんて事は、教えたりしなかったけど。
「それじゃ、正式に嬢ちゃんと……モニカだったか? そっちの二人に調査依頼を任せる事にする。……くそっ、絶対あの女狐はこうなる事をわかってたな……」
「マティルデさんを知っているんですか?」
「ん? あぁ。ギルドマスターだしな、それくらいは知っているしあった事もある。向こうは国の中心部で統括ギルドマスターだから、あっちの方が立場上だがな。まぁ、俺ぁ口が悪いし喧嘩っ早いから、ここのギルドマスターになれただけでも儲けもんだが……あの女狐はそこのところ上手いからな」
俺がいなくとも、調査依頼を進める事を認めるノイッシュさんは、最後にボソッと女狐と言った。
確か、ヤンさんも似たような事を言っていたし、マティルデさんの異名のようなものだったよね?
気になって軽く聞いてみると、やっぱり知り合いだった。
というか、ギルドマスターにまでなっている人が、王都の統括ギルドマスターと知り合いなのは当然か。
ともあれ、モニカさんとユノが依頼調査をする事を許可され、ノイッシュさんから詳しい話を聞く。
ここからは、俺ではなくモニカさんが主に話を聞く事になった。
この街では、モニカさんが主体で動く事になるからね。
「えーとだな……まず、この街付近での目撃情報で……」
「……成る程。でも森の中までは、魔物は行かないんですか?」
「元々そこにいた魔物もいるからなのか、ほとんどが森の入り口付近だな。だが、数が多くなってきているらしくてな、森の中に踏み入れた魔物が他の魔物と争う姿を見たという冒険者もいる」
モニカさんが俺と変わり、ノイッシュさんの向かいに座って調査依頼に関する詳しい話をしている。
一応、隣にユノも座っておとなしくしていた。
調査依頼、なんでもここ一カ月程度、街付近で見慣れない魔物を見かける事が多くなったそうだ。
偶然他の場所から来た魔物と遭遇する事もあるにはあるけど、その頻度が多いという事らしい。
さらに、その魔物達と戦うような危険を冒さず、様子を見るだけにとどめた人からの報告によると、見慣れない魔物達は街の方へ来るわけではなく、森の方へと移動をしていたらしい。
そこで、森の方を調べてみると、いつもより魔物の数が多くなっている。
そのうえ、高ランクの魔物までもがいたらしい。
ほとんどがこの街周辺にはいない魔物であった事と、森の方へ移動しているという報告から、森付近へ魔物が集結しているのではないかと推測したとの事だ。
ヘルサルに対するゴブリンの大群や、王都へ押し寄せた魔物の大群の事があり、魔物の集団というのに敏感になっているらしく、早めにこちらから調べようと考て、調査依頼を出す事にした、と。
その後の流れはさっきも話したように、任せられる高ランクのパーティがいない事や、人数を多くすると魔物を刺激してしまう可能性があるので、王都へのギルドへ冒険者の派遣を頼んで、俺達が来たという わけだね。
強い魔物が確認されているから、もし戦闘になってもやられたりしない冒険者を求めていたらしい。
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