529 / 1,903
手加減をするための剣
しおりを挟む思い返すと、ユノはしっかり相手の攻撃が当たらないように動いていたと思うし、それこそ相手に攻撃させないように動いていたとも思う。
ただがむしゃらに、相手を斬る事だけが技術じゃないという事に、今更ながらに気付かされた。
もしかすると、これに気付かせるためにモニカさん達を使って、二人がかりで俺に相手をさせたのかもしれない。
俺からの攻撃をさせなければ、防御をどうするか考えないといけなくなるからね。
「ふむ、その顔を見ると気付いたようじゃの。リク、お主は常に緊張状態でいる事は既に指摘した通りじゃが……それは防御面に不安があったからじゃ。自分が避ける技術、受け流す技術に優れていれば、ある程度緩ませても対処はできるものなのじゃよ。じゃが、リクはその頑丈さがあるためにそちらに考えが回らず、攻撃する事、相手を打ち倒す事ばかりを考えておるようじゃった。攻撃する時は、当たり前じゃが体に力を入れなければならぬ。向こうが先に攻撃して来たとしても、こちらが攻撃する事で全て弾き飛ばせるのが、原因かのう……」
「……そう、かもしれませんね」
「じゃから、攻撃する直前まで体を緩ませ、相手をよく見て一瞬で切り替える事で、力を込めて攻撃もしくは防御や回避といった行動に移る事ができないのじゃろう。ワシを持ち上げた時のように、なまじ力があり過ぎる故の弊害……とも言えるかもしれぬ」
「……」
難しい表情になっている自分を自覚しながらも、回避の事、防御の事を考えていると、エアラハールさんはようやく気付いたかとでも言うような表情だ。
そこから、俺がどういう状態だったかの分析をされた。
確かに、今まで薙ぎ払えばいい……とまでは考えてはいないけど、大体の攻撃は当たっても大丈夫だし、力任せに剣を振れば、相手はほとんど斬り裂けるか弾き飛ばせていた。
技術が足りないと感じていたのは、それに対する危機感のようなもののせいなのかもしれない。
逆に、無意識のうちに自分を過信していて、防御する必要がないと感じてしまっていたため、いつでも攻撃ができるよう、常に緊張状態でいた……という事かな。
攻撃する気満々だから、常に体へ力を入れていたし、いつでも剣を振れるようにしていた事が、エアラハールさんの言っている緊張状態なんだろう。
ユノが剣を振る時、自然体で動いているようにも見えた事を考えると……俺は今まで、初心者のようにガチガチになった状態で剣を振るっていた状態だったのかもね。
いや、剣を使い始めてからの期間を考えると、実際に初心者に毛が生えた程度なんだけども。
「じゃから、これからしばらくの間リクには力を制限してもらう」
「力を、制限……?」
「うむ、そうじゃ。魔物相手に手加減しろという事じゃ」
「手加減……」
俺なりに、今まである程度は手加減をしてきたつもりではある。
完全に力任せに剣を振れば、今使っている剣が魔法具な事もあって、周囲に影響を及ぼしかねないから。
それに、オシグ村の魔物討伐で試したように、グリーンタートルの甲羅を素手で割る事もできたのだから、その力を平気で使うわけにはいかない。
だけど逆に、本当に全力で戦うという事も実はした事がない。
それは多分、センテ近くの森で初めて戦った野盗を、勢い余って殺してしまってから……なのかもしれない。
魔物相手にも、ある程度力を制御しているつもりで戦っている。
というより、魔物の場合は魔法を使ってどうにかする事もあるから、全力が出せないという事もあるんだけどね。
なにせ、本当に全力を出すとヘルサルでゴブリン相手にやってしまった事のようになるから……一応俺も、魔物を見てできるだけ周囲に影響がないように考えて魔法を使っているから。
……時折、考えていたよりも威力があったりで、城門周辺を傷だらけにしたりもしたけどね。
ともかく、意識的にも無意識にも、今まで手加減をしてきているのだから、これからさらに手加減を……と言われても、どうすればいいのかよくわからない。
「ですがエアラハールさん、魔物を相手にする場合に手加減をしていたら危ないのでは?」
俺が俯いて考え込んでいると、ソフィーが代わりにエアラハールさんへ質問をした。
確かに、手加減をし過ぎると魔物を倒せなくて……という事も起こりえるからね。
「リクならば平気じゃろう。まぁ、多少痛い思いをするだけじゃ。それが嫌なら、回避や受け止め、流す方法を学ぶ事じゃな。もちろん、周囲に被害が及ぶ可能性もあるのだから、相手にもよるがの。それに、じゃからこそ、ワシがリクに同行するのじゃ」
「エアラハールさんが同行する事が、ですか? リクさんや私達に訓練をという事で、話はしましたけど」
「うむ。それもあるがの。リクがどれだけの手加減をするのか、ワシならば判断できる……かもしれん。とりあえず、この国に出るような魔物とは戦った事があるしのう」
「その時々によって、手加減の内容を変えると?」
「その通りじゃ」
多少の痛い思い、というのはできる事なら痛くはないと思うけど……それもエアラハールさんの訓練に必要な事であれば、仕方ない。
さすがに、大きな怪我をするとまでなったら、反対するけどね。
誰だって、進んで痛い多いなんてしたくないものだし。
ともあれ、エアラハールさんが俺達が冒険者として、依頼を遂行する場合に同行するというのは、そういう考えもあったみたいだ。
元Aランクだから、様々な魔物と戦った事のある経験が生きて来る……のかもしれない。
「差し当たっては、この剣を使って戦って見る事じゃ」
「この剣は……エアラハールさん、さっきまで剣を持っていませんでしたよね?」
俺に向かって鞘に入ったままの剣を差し出して来る、エアラハールさん。
その剣はショートソードで、初めてマックスさんに借りた剣や、ユノが使っている剣と似たような物だ。
ただ、相当使い込んでもいるようで、鞘に入っているので中身は確認できないけど、飾り気のない外観は、大分くたびれているように見えた。
「当然じゃ、城に入る時に預けないといけないからの」
「では、なんで今持っているんですか?」
俺が初めて王城へ来た時、入場の際に剣を預けるという手順があった。
今では、勲章を授与された事の他に、バルテルに捕まった姉さんを助けた事や、城に押し掛ける魔物を倒した功績で、俺やモニカさん達は武器を持って入る事を許可されているけども。
……まぁ、顔パスで出入りできているから、割と後になってそう言えばと思い出したんだけどね。
ヒルダさんに聞いたら、許可が出ているので気にしなくて大丈夫という事だった……信用されてるなぁ。
「ん? この剣はほれ、そこに合った物を拝借しただけじゃ」
「……城の備品じゃないですか!」
「多くあるのじゃから、一本くらい拝借しても構わんじゃろう? それに、リクが一言言えば、もらえそうじゃしの」
エアラハールさんが示した先は、木剣を含め訓練に使う道具が保管してある場所。
学校によってあるかないかがわかれるかもしれないけど、体育館の中にある、体育倉庫を思い浮かべるとちょうどいいかもしれない。
武器が多くあるため、いつもは扉が閉まっているのが、今は空いていた……エアラハールさんがあけたんだろうな、いつの間に……。
その場所自体は、訓練場を使う人が自由に出入りしてもいい場所だから、それ自体は咎められないだろうけど、そこの物を盗って来るのはだめだろう……。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる