上 下
501 / 1,903

祖父への連絡は孫にお任せ

しおりを挟む


「いえ陛下、祖父には私から。こちらの近況も含めて連絡をする必要があるので。それに、リクの事やハウス栽培? の事も伝えるように致します」
「そう、わかったわ。それじゃあお願いね。できるだけ早く!」
「姉さん……そんなに急かさなくても……。あ、エフライム、俺と姉さんの事は……」
「もちろん、伝えないでおき……おくさ。信じてもらえるかという事より、これは多くの人に知られない方がいいだろう?」
「そうね。何か変な考えを起こす人がいても面倒だしね。あ、クレメン子爵がそう考えるとは思っていないわよ?」
「はい、陛下の考えはわかるので、大丈夫です。お爺様には、陛下とリクが親しい程度くらいにしておきます」

 姉さんがヒルダさんに言って、伝令の用意を始めようとしていたのを、エフライムが止めた。
 レナもこの王城……というか、今俺の隣で夕食を頂いているし、色々と報告する事があるんだろう。
 それも含めて、エフライムが自分で報告するつもりみたいだ。
 姉さんに任せたら、エフライムやレナの事には触れず、ただ鉱石の話を求める伝令になりそうだからね。

 それと、エフライムは俺と姉さんの関係については、ただ親しいとだけにしてくれるみたいだ。
 姉さんが言うような、変な考えをクレメン子爵はしないだろうけど、多くの人に知られない方がいいというのは同感。
 人の口には戸が立てられないというし、どこから漏れるかわからないものだからね。
 俺はまだしも、姉さんは女王様だから困るような事があったらいけない。

「あ、そうそう。クレメン子爵にも聞くけど、りっくんはフィリーナ達にも聞いておいてね?」
「フィリーナ達にも?」
「えぇ。魔法に関しては、人間よりもエルフの方が知識が多い事が多いのは間違いないわ。だったら、もしかすると有効な手立てや、エフライムの言う鉱石の事も知っているかもしれないからね」
「確かにそうだね。うん、わかった。……今日はさすがに聞けないと思うけど、明日にでも聞いておくよ」
「お願いね」

 フィリーナとアルネなら、もしかすると何か重要な知識を持っているかもしれない。
 それこそ、俺の魔力を蓄積する事のできる物の事を、知っていてもおかしくないよね。
 さすがに今日は、研究モードに入って文献を漁ってるみたいだし、邪魔をするのは悪いから、明日にでも話をして聞いてみよう。

「それと、さっきも話したけど……冒険者ギルドのギルドマスターが来てたわよ? りっくんを訪ねて来ていたみたいね」
「え? さらっと話してたから、姉さんとかに用があって来たものだと思ってたけど、俺だったの?」
「そうよ。りっくん、ギルドに何も言わずにヘルサルへ行ったでしょう? まぁ、エルサちゃんが暴走しそうだったから、仕方ないと思うけど……それで、最近りっくんが冒険者ギルドに来ていないと気にして、訪ねて来たみたいなの。まぁ多分、りっくんに任せたい依頼があったのかもしれないわね。緊急性はないみたいだから、暇な時にでも行ってみるといいんじゃないかしら?」
「そうだね、わかったよ。ありがとう姉さん」

 マティルデさんは、国に対するようで王城に来たと思ってたんだけど、違ったみたいだ。
 俺に依頼を頼もうとしたのかな? さすがに、顔を見に来ただけという事はないと思うけど……忙しい人だし。
 何も言わずにヘルサルへ行ったのは、エルサが急かしていたからも大きいけど……誰かに伝言なり頼めば良かったね。
 明日からはエアラハールさんからの訓練もあるし、アルネとフィリーナに話を聞いてみないといけないから……ちょっと無理そうだ。
 でもまぁ、近いうちに様子見がてら冒険者ギルドに行ってみようと思う。

 ヘルサルでは突発的に依頼をこなしたけど、訓練をする間ずっと依頼を受けないというわけにもいかない。
 俺もモニカさんもソフィーも、冒険者なんだから依頼をこなすのは普通だし、エアラハールさんも元冒険者だから、その辺りはわかっていると思う。
 しばらくは、訓練と依頼で忙しくなりそうだなぁ……あ、アルネ達とも魔法に関する話をしないといけないか。
 なんて事を考えながら、姉さんにお礼を言った。

「お礼は、対応をしたヒルダにね。りっくんのお世話係専任のようになってるから、基本的に王城へりっくんを訪ねて来た人は、ヒルダが対応しているわ」
「そうなんだ。ありがとうございます、ヒルダさん。色々と手間をかけさせてるみたいで……」
「いえ、リク様が王城にいる限りは、私の仕事と心得ております。これからも何かあればご用命ください」
「……元々は、私の侍女だったのに……りっくんに取られちゃったわ」
「今でも、姉さんが仕事をサボったら、注意したりもしてくれるみたいだし、俺が取ったとはいえないんじゃない?」
「前言撤回。りっくん、ヒルダを取っちゃって構わないわよ」
「……リク様だけでなく陛下の事も、お世話させて頂きます」
「いい侍女を持ったね、姉さん?」
「有能過ぎるのも、考えものだわ……」

 なんというか、ヒルダさんが有能でこれから先も色々とお世話になってしまいそうだ。
 姉さんもたまには息抜きをするくらいは構わないと思うけど、仕事が滞ってしまうようなら、ヒルダさんに注意された方がいいだろう。
 女王様の仕事だから、他に誰かが変わってやるわけにもいかないし、国全体にかかわる事だからね。
 数年後には俺も姉さんも、ヒルダさんに頭が上がらなくなっていそうだな……なんていう予想をしながら、苦笑する姉さんに俺も苦笑を返した。


――――――――――――――――――――


「ふぁ~……」
「だわ~……」
「おはようございます、リク様」
「ヒルダさん、おはようございます。……今日は部屋に来るのが早いですね?」

 翌朝、目が覚めて体を起こし、エルサと共鳴したかのように、同時にあくびをしながらベッドから降りる。
 それと同時に、部屋にいたヒルダさんから挨拶をされたのに返しつつ、首を傾げた。
 いつもなら、気配を感じるのか物音を聞いたからなのか、俺が朝の支度を終えた頃に部屋へ来るんだけど……。
 ん、何か不自然に壁を背にしてるね……どうしたんだろう?

「リク様にお客様が参られていましたので、ご案内させて頂いておりました。寝ている間に部屋へ入った事、申し訳ありません」
「あーいえいえ、それは全然いいんですよ。お世話になっているんですから、それくらいは。……それで、お客様というのは……やっぱり?」

 俺が寝ている間に部屋へ入った事を謝罪するヒルダさん。
 色々お世話をしてくれてるし、特に俺へ何かするわけでもないので、寝ている時に部屋へ入るのは全然構わないんだけどね……むしろありがたい。
 ヒルダさんに気にしないでと手を振りながら、通したお客様が座っていると思われるソファーへと顔を向ける。
 そちらには、ベッドに背を向けて座っている男性の背中……ソファー越しだからはっきりとはわからないけど、ヒルダさんが不自然に壁を背にしている事といい、起きてすぐエルサがジト目をしている事といい、間違いなくあの人だよね……。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...