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アルネは書庫に引きこもり
しおりを挟む「はぁ、行って来るわ、リクさん」
「ごめん。頼んだよ、モニカさん」
「……今度、何かで返してもらうわ」
「はい……」
連れて行かれるエフライムを見て、溜め息を吐いたモニカさん。
さすがに、苦労をかけ過ぎだから、今度埋め合わせしないとなぁ……。
城下町へ気軽に行けるようになったら、一緒に散策するとかで良いかな? もしくは、甘いデザートでもご馳走しようかな。
喜びそうだから、ユノやエルサと、許可が出たらレナも連れて行ったら、楽しそうだね。
そんな事を考えながら、苦笑するソフィーやフィリーナの視線を受けつつ、冷めかけたお茶を頂いて、一息ついた――。
その後、しばらくエフライムへの説得というか、事情説明を済ませて、夕食を頂いた。
モニカさんだけでなく、ヒルダさんや姉さん、レナやメイさんに囲まれたエフライムは、恐縮しきりで少しかわいそうにも思えた。
女性数人に囲まれるというのは、ある意味羨ましいと思う男もいるかもしれないけど……責められてるようにも感じる強めの説得は、近くで見ていたら全然羨ましくなかった。
まぁ、強く言っていたのは主にレナなんだけど……やっぱり、兄に何か思う事でもあるんだろうか?
結局、少しぎこちないながらも、以前と同じ態度に戻ってくれたエフライム。
今すぐとはいかなくとも、これから接していく中で、年の近い普通の友人として関係を築いていければという事になった。
今日知り合った仲というわけでもないから、すぐに慣れてくれると思う。
女性達により説得の結果、憔悴した様子のエフライムは、夕食後にすぐ部屋へと戻ったけども。
うん、お疲れ様。
「それにしても、夕食にはここへ来ると思ったけど……来なかったね、アルネ」
「そうねぇ。多分、夢中になって本を読み漁っているんでしょうね。何か、気になる本でも見つけたのかもしれないし……まぁ、帰りに声をかける事にするわ。もし本から離れようとしなかったら、引きずってでもね」
なんだろう、俺の周囲の男性陣は引きずられる宿命でも持っているんだろうか?
ヴェンツェルさんしかり、エフライムしかり、今回はもしかしたらアルネも……。
俺が引きずられる事はないよう、気を付けよう。
「エルフの知識でも、人間の蔵書で気になる事ってあるのかしら?」
ふとした疑問のように、姉さんがフィリーナに聞いた。
「そうですね……エルフは長寿なので、知識の蓄積という点では人間よりも有利かもしれません。ですが、閉鎖的な集団だったので、広く知識を得るというよりは、自分達で研究した結果の知識という事が多いのです。なので、広い地域と交流して得た知識からは、得られる事も多いかと」
「確かにそうかもねぇ……。国内にエルフの集落を持っているこの国でも、積極的に交流を始めてからあまり経っていないわ。そう考えると、人間の知識も捨てたものじゃないのかしら?」
「所詮は、我々は一つの集団内だけの知識ですからね。蓄積できたとしても、新しい知識は入って来る事は少ないのです。それに、視点が違えば考え方も違うでしょう。人間とエルフでは知識そのものが違う事もあるかもしれません」
長生きする種族であるエルフは、知識を語り継いだり本に残したりするのが容易でも、閉鎖的だったために新しい知識を得にくい。
その代わりに、魔法に関する研究というのがあったんだろうけど、広く別の国との交流もある人間の国と比べたら、その知識は限定的というか、量より質というものになるのかもね。
逆に人間は広く交流するおかげで、質よりも量が集まる……と考えるとしっくりくるかな。
どちらがいいというわけでもなく、両方の利点をかけ合わせれば、質と量を備えた素晴らしい知識になるのかもしれないけど、種族だとか様々な問題があって、難しい部分も多いんだろう。
アルネが城にある蔵書を読んで、新しい知識を得た事で、有用な深い知識になってくれるといいんだけどね。
「あぁそういえば、姉さん?」
「ん、どうしたのりっくん? もう、りっくんの事は漏らさないよう、気を付けるわよ?」
「いや、その事はもう……いや、気を付けるに越した事はないけども、そうじゃなくて。ヘルサルで偶然見つけたんだけど……」
「ヘルサルで見つけた物?」
姉さんにヘルサルで偶然見つけ、あまり知られていなかった切って食べるという事を教えたスイカについて話す。
スイカの話題になった事で、テーブルの上で満腹になって仰向けになっていたエルサが起き上がり、期待するように姉さんを見ている。
夕食を食べたばかりで、キューもしっかり食べてたのに……スイカは別腹だとでも言うのかな?
「あぁ……スイカねぇ。確かに私が以前、国内を見て回っていた時に発見したわ。村に悪い影響がないよう、一定数運んでもらうようにしたけど――いつの事だったかしら?」
「……確か、各地を見て学ぶという事をなされていたのは、五年以上前かと」
「そうそう。お父様がまだ生きていた頃よね。見聞を広めるため、国内の各地を見て回ったわ。その時の事があったおかげで、王都や王城だけでなく各地の様子を考えて政策ができるようになってると、自負してるわ」
「そうなんだ。実際に見て学ぶというのはいい事だよね」
先代の王様が決めた事なのか、他の誰かが考えた事なのかはわからないけど、城の中にこもってばかりではなく、各地を回って実際に街や村でどんな暮らしをしているのかを見る事は、勉強になったんだろうと思う。
まぁ、重要人物というか、最高位の貴族として手厚い護衛を引き連れてたんだろう、というのは想像に難くない……当然の事だけど。
だから、視察された街や村の方も構えてしまって普段と違う事はあったんだろうけど、それでも見ると見ないとでは全く違うんだろうね。
国どころか、領地を治めるという事を経験した事ないから、詳しくはわからないけども。
「それはいいんだけど、スイカの事だよ。姉さんは俺がスイカが好きだって知ってたでしょ? 教えてくれても良かったのに……」
少しだけ拗ねたような感情を出しながら、姉さんにどうしてスイカの存在を教えてくれなかったのかを問いかける。
日本にいた時、姉さんと一緒にスイカを食べた事を思い出しながら。
「スイカの事を忘れてたわけじゃないのよ? でも……今年はまだ、城まで来ていないからねぇ?」
「まだ来ていない? じゃあ、これからなの?」
「そうよ。ヘルサルにあったのは、作っている村が王都より近くて、先に出荷した物なんでしょう。そこまで気を使う必要はないと私は思うんだけど、献上品と言われてるから、質の良い物を選定する時間もあるしね」
「あー、そうか。成る程ね……」
「……まだ、食べられないのだわ」
スイカを作っていた村からすると、王都よりもヘルサルの方が近い。
だから先に出荷していた分はヘルサルで入手できたけど、王都へは献上品として品質のしっかりした物を選ぶ必要があるため、少し時期が遅れるという事なんだろう。
俺が納得しているのとは別に、エルサががっくりとして呟いている。
もう少ししたら食べられそうだから、キューを食べて我慢してて欲しい。
……よく見ると、フィリーナやソフィー、モニカさんも少し気落ちした様子だった。
やっぱり皆、ヘルサルで食べたスイカが気に入ったみたいだなぁ――。
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