上 下
462 / 1,903

魔法陣に書かれる文字

しおりを挟む


「~……~……」

 静かな小屋の中で、フィリーナが呪文のような言葉を呟く声が響く。
 俺には何をしているのかわからないけど、一緒に見ている商店主さん達はその目に焼き付けようと、真剣な眼差しで作業を見守っている。
 ちなみにクラウスさんもよくわからないらしく、俺と同じような不思議なものを見る目で見ているだけだ。

「~……~~~~」

 少し長めの呪文を唱える時、フィリーナがガラスに向かって動きを止める。
 どうやら、地面に何か描いていたのは完成したようで、持っていた棒を地面に置き、手をガラスに向かってかざした。
 地面にフィリーナが描いていたのは、魔法陣のようなもの。
 円を描き、その中には文字が描かれている。

 というか、この文字って……漢字だよね?
 「魔」とか「結」とか、「業」や「議」って漢字もあった。
 文になってたり、言葉にはなってないようだけど、どれもが俺にとっては馴染み深いというか、一度は見た事のある漢字ばかりだ。
 中には、読み方がわからない漢字もあったけど……漢字、あまり得意じゃないからなぁ……姉さんならわかるかもしれない。

 というか、魔法陣を描くというのはわからなくもないけど、それに漢字が書かれてるのは……俺にとっては違和感しかない。
 何故この世界で漢字が使われてるのか、不思議だ……。
 というか、フィリーナはこれが漢字だとわかって使ってるんだろうか。
 エルフだけに伝わる文字だったりするのかな?
 機会があったら、フィリーナやアルネに聞いてみよう。

「~~~~~~……っ!」
「「「っ!」」」

 長々と詠唱していたフィリーナが、ガラスに手をかざして閉じていた目をカッと開き、力を込めた。
 その瞬間、手から細い糸のような魔力が伸び、ガラスに絡みつき、一度だけ発光。
 それを見ていた商店主さん達は、息が詰まったような様子で驚く。
 発光が収まった頃には、フィリーナの手からはもう魔力は出ておらず、かざしていた手も降ろしていた。

「……終わりました。これで、後はリクに魔法を使ってもらうだけですね。まぁ、他の場所も同じようにしないといけませんが」
「お疲れ、フィリーナ」
「お疲れ様でございます。――皆、しっかり見ていましたか?」
「「はい!」」
「見てはいましたが……理解まではちょっと……質問をしてもよろしいでしょうか?」

 ガラスから離れ、こちらへ寄って来ながフィリーナが声をかける。
 労うように笑いかけながら迎えると、隣にいるクラウスさんも同様に笑顔でフィリーナを迎えた。
 さらに商店主さん達に声をかけたけど、三人のうち二人はクラウスさんに頷いたものの、残りの一人は眉をしかめながら、何やら聞きたい事がある様子。

 どうやらフィリーナがやっていた事を、全て理解できずに、色々と聞きたい事があるらしい。
 まぁ、俺もよくわからない事が多かったし、専門家とも言える商店主さんでもわからない事があったんだろうね。

「そのあたりの質問は、移動しながら受けますね。まだ、他の所も行かないといけないですし」
「そうですな……トニにも聞かせましょう。よろしければ、答えられた事をまとめて、記述させますが?」
「そうですね、何度も同じ質問をされても困りますので、その方がよろしいかと」

 質問は受けるけど、まだガラスは三か所に保管されていて、そこでも同じ事をしなくちゃいけない。
 ここでじっくり話す時間は、ちょっともったいないという事だろう。
 他の商店主さん達にも見せないといけないから、その時同じ疑問や質問が出てもいいように、クラウスさんはトニさんを書記のようにするつもりみたいだね。
 自分の疑問も説明される事で、ホッとした様子の商店主さんを連れて、フィリーナやクラウスさんと小屋を出た。

 出る間際に一度振り返って、安置されているガラスを見る。
 フィリーナによって魔法具としての役割を与えられたガラスは、地中から掘り起こした時よりも、薄っすらと入る光を反射して綺麗に輝いているように見えた――。


「成る程……それでしたら……」
「あれは……という事なの」

 次の小屋へと移動する間、フィリーナが先程の商店主さんの質問に答えて、魔法具に関する事を説明している。
 移動するのは、俺とフィリーナ、クラウスさんとトニさん以外では、小屋の中で見学する商店主さん達がぞろぞろと付いて来ている。
 ほとんど、フィリーナの方に集まっていて、皆魔法具に対して勉強熱心なんだなと思った。
 他の人達は、東側の小屋の前で引き続き待機だ。

 小屋の中に入れるのは一部の人だけだし、どうせまたそこに戻って来るから、全員が移動しないといけないわけでもないので、そういう事になった。
 モニカさんは街の人と、ソフィーは他の冒険者さんやヤンさんと、ユノとエルサはお姉さま方と話しが弾んでたから、大丈夫だろう。
 ……ユノとエルサが、大量のお菓子をもらって食べてたのが少し気になったが……後でちゃんとお礼を言っておかないと。

「ほぉ……ではあの魔法陣は……?」
「あれは定着のための……なのよ」

 フィリーナが商店主さんへ説明しているのを聞きながら、移動する。
 ガラスの周囲に描いた魔法陣は、魔法具として魔力の導線を回路のようにして埋め込むための物らしい。
 その魔法陣と、フィリーナが魔力で糸のようなものを出してガラスをまとめ、埋め込んだ……という事だ。
 これで、特定の魔法に対して魔力が流れる導線を作り、さらに全ての魔力を一気に消費しないよう、弁のような機能も持たせたらしい。

 魔法具は使用者の魔力など、溜め込んだ魔力を一度に使ってしまうので、それが必要だったらしい。
 確かに今回は、魔法を発動するためではなく、継続して魔法の効果を持続させるのが目的だから、一度に魔力が消費されたら、意味がないからね。
 ある程度一定の量を、使われた魔法の維持のために放出するようにする事が必要だったらしい。
 ちなみに、唱えていた呪文のような言葉は、商店主さん達もよくわからなかったらしく、やっぱりエルフ特有の言語だったらしい。

 商店主さん達のうち数人が、エルフの集落と連絡を取って、その言語を教えてもらおうと意気込んでた。
 まぁ、これはフィリーナが人間とエルフの橋渡し的に、詳しく知りたい場合はそうするように言ったからなんだけど。
 人間との関わりを拒絶するか、消極的だと考えていた商店主さんやクラウスさんは喜んでるみたいだね。
 一部の長老達がどうするかわからないけど……エヴァルトさんを始めとした、若いエルフ達は人間と関わる事に積極的だから、多分大丈夫だろうと思う。

 さらに、魔法陣に描かれていた漢字については、商店主さん達も知っていたみたいだ。
 ありふれた文字とか、誰でも知ってる物ではないみたいだけど、魔法具を扱う上で重要な文字らしい。
 ……これは、フィリーナに聞こうと思ってたけど、ユノに聞いた方がいいのかもしれないな。
 だけど、知ってる事と扱えるかは別のようで、魔法陣に描かれていた漢字の配置や文字の選別は、商店主さん達にはよくわからなかったらしい。
 そこは、魔法具に関して知識の深いエルフだから、知っていた事みたいだね。

 魔法陣は、魔法具にどういう性質を持たせるかという重要な部分で、魔法具を作るには欠かせないものらしい。
 ガラスに魔力を、少しずつ放出するように仕向ける回路のようなものを埋め込むのに必要だったらしいけど……漢字かぁ。
 こんなところで、日本の文字に遭遇するとは思わなかったなぁ。
 元々漢字は日本のではなく……とかは置いておいて、魔法陣に描かれていた漢字は難しい物もあったが、ほとんど見た事のある文字だった。
 懐かしいとも思うけど……どちらかというと、驚きの方が大きかった――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...