457 / 1,903
リクの剣は呪われた代物なのかも
しおりを挟む夕食の終えた獅子亭で、同じテーブルで対面に座る人達を眺める。
黄色信号さん……黄色の髪が目立つグリンデさんが俺を睨んでるのに、溜め息が出そう。
俺のせいじゃないんだけどなぁ……多分。
アンリさんはユノと一緒にエルサをつついてる。
随分と、エルサやユノと馴染んだね。
昼間、一緒に街を歩いて色々話したからなんだろう。
ミームさんは相変わらず、何を考えているのかわからない表情で、どこからか取り出した焦げた肉を齧ってる。
ジャーキーとか干し肉みたいに、ちびちびと食べてるようだけど、夕食を頂いた後なのによく食べられるなぁ。
そして問題のルギネさん。
グリンデさんに手伝ってもらって、なんとか夕食を食べられてたけど、テーブルに突っ伏したままで動く元気はないようだ。
何故こうなったかと言うと、早い話が魔力切れ。
元々、剣を使う戦士で、ソフィーのように魔法を使えない人らしく、魔力は多くないみたいなんだけど……。
「リクの剣は危険ね。使おうとすると、被害者が出るわ」
「さすがに、エルフのフィリーナなら、そんな事はないと思うんだけど……」
「前に見た時、どれだけの魔力を消耗するか知ってるわ。……いかにエルフとはいえ、一振りする程度の間持って平気だったら、それだけで尊敬されるわよ?」
「そんなに?」
エルフは人間より魔力量がかなり多いというのは、周知の事実。
そんなエルフであるフィリーナが、そう言うという事は、俺の使っている剣は相当な魔力量を必要とするようだ。
確かに、買う時に普通の人間には扱えない量の魔力を使うと聞いたし、複数の魔法が発動する事で、異常な魔力量を消費するようになった……なんて聞いたけども。
「驚いたぞ、リクがルギネを運び込んで来た時は」
「私は、お姉さまが拉致されて来たのかと思いました!」
「あははは……とにかく休める所に運ぼうと思ったからね」
経緯は簡単。
俺の剣に興味を持ったルギネさんが、説明を聞く中で真偽を確かめようと手を伸ばす。
試してみるくらいならいいかと、俺が剣を渡してルギネさんが剣を抜き、構えようとした瞬間にしなびた植物のように剣を落として、力なく地面に倒れた。
あの時のルギネさん、全身から力が抜けたようだったなぁ……。
多分、剣を構える時に魔法が発動してルギネさんの魔力を、ほとんど吸い取ってしまったんだろう。
意識はあったけど、倒れて動こうともしないルギネさんに焦った、俺とアンリさんは、街の散策どころではなく、ぐったりしてる体を抱き上げて急いで獅子亭へ連れて帰った。
まぁ、抱き上げたのも運んだのも、全て俺だけどね……アンリさんは力持ちらしいけど、エルサを抱いたままだったし。
そこで、ちょうど夕方の営業を開始したばかりの獅子亭へ、食事をしに来ていたグリンデさんとミームさんに合流。
俺がルギネさんを抱いて運んでいる事に、グリンデさんが食って掛かろうとしたけど、アンリさんの手によって止められた。
小柄なグリンデさんが、アンリさんの片手がおでこに当てられて、それ以上前に進む事ができなくなり、その場で腕をぐるぐる回していたのは、ちょっと面白かった。
その後、すぐにマリーさんに事情を話し、フィリーナを連れて来てもらう間に、店の片隅のテーブルに座らせてルギネさんを休ませる。
呼ばれて来たフィリーナに診てもらうと、魔力切れが原因で、虚脱症状のように体に力が入らなくなってるんだとか。
ただ、魔力が完全になくなると人間は生きられないため、死なない程度に魔力は残っているそう。
剣には使用者の魔力を吸い尽くしてしまわないように、安全装置のようなものが組み込まれており、そのおかげで魔力が完全になくなる事はなかったみたいだ。
不足してる魔力は休んでいれば回復するため、そのままにしておく事になった。
そうして、時間をかけて少しだけ動けるようになったルギネさんが、グリンデさんに介護されて夕食を取り終わり、今に至る……というわけだね。
食事は魔力回復を助けるとの事で、食べさせる事にしたけど、今もテーブルに突っ伏してるルギネさんは、話したりする事もほとんどできない状態だ。
「リクさんの剣は、呪いの武器ね……」
「そうだな。呪われた武器……強力だが、使用者または周囲へ不利益をもたらす物。ほとんどが強力な魔法がかかっていると聞いているが……その一つと言えるな」
「それを普通に使ってるリクさんって……」
俺やフィリーナ、リリーフラワーのメンバーが座ってるテーブルの隣で、こちらもテーブルに突っ伏したまま話してるモニカさんとソフィー。
マリーさんに相当絞られたらしく、食事を取るのも辛そうだったけど、こちらはルギネさんと違って話す余裕はあるみたいだ……まぁ、自分で料理を食べられてたしね。
それはともかく、俺の剣を呪いの武器だなんて……切れ味もいいし、無茶な使い方をしても刃こぼれ一つないから、結構気に入ってるんだけどなぁ。
確かに、ルギネさんのように使おうとしたら、魔力が吸収されて倒れるのは、呪いとも言えるかもしれないけど……。
「母さんの特訓が終わったと思ったら、リクさんが女性を連れ込んでて驚いたわよ……」
「連れ込んだって……人聞き悪いよ、モニカさん」
「お姉さまは、男なんかに連れ込まれたりしません!」
モニカさんが、気だるそうにテーブルに顔を乗せながら、俺をジト目で見る。
連れ込んだわけじゃなく、休ませるために連れて来たんだから……あれ? 似たようなものかな?
でも、変な事を言ったら、またグリンデさんが反応するから止めて欲しい。
さっきは拉致されたかと思った、とか言ってたのに、今は連れ込まれたりしないと叫んで俺を睨んでるから……とにかく俺に突っかかりたい心境らしい。
「まぁまぁ、モニカ。リクが女を連れ込むような甲斐性があるわけないだろう?」
「……それもそうね」
「なんだか、酷く失礼な事を言われてる気がする」
モニカさんと同じような体勢になって、休んでるソフィーが、取りなすように言うけど……それ、フォローになってないからね?
俺だって、その気になったら女性を連れ込むくらい……できるとは思えないけど、あまりしようとも思わないね……うん。
軽い気持ちで、女性を口説くとか、俺にはできそうにない。
姉さんの教育のたまものかもしれない……喜ぶべきことなのかどうかは、ちょっとわからないけども。
「まぁ、もう少し休ませてやればいいだろう」
「そうね……私も疲れたわ……」
「私もだな。だが、この疲れもまた、心地良い」
「二人共軟弱ねぇ。リクに追いつこうとしたら、もっと頑張らないといけないわよ?」
「「いや、追いつこうとは思ってない」」
「マリーさん、見張っていた私から見ても、結構な動きに見えましたよ?」
「そうかしら?」
俺達の事を見ていたマックスさんが、もう少し休むように皆に言ってくれて、モニカさんのジト目もなくなった。
二人共、マリーさんの特訓でかなり疲れてるようだから、今はしっかり休んだ方がいいからね。
ソフィーは、それも楽しそうだけど……特訓した事に満足感があるんだろうと思う。
そんな二人を見ながら、マリーさんが溜め息を吐くように声をかけたけど、二人は真面目な表情で否定していた。
えっと……なんとなく、あまり掘り下げたり突っ込んだりはしない方がいい、かな?
フィリーナが苦笑しながら言うと、首を傾げるマリーさん。
モニカさん達が動くのも億劫なくらいに疲れてるのに、マリーさんにとって十分な特訓でどれほどなんだろうか……?
ちょっと興味はあるけど、俺が受けたいとは考えちゃいけない気がする。
まぁ、俺の方はヴェンツェルさんに頼んで、師匠さんに来てもらう予定だから、それでいいか……。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる