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女性の扱い方講座

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「これが、英雄と言われる者の力なのかねぇ……? 少なくともアタシは、店をやっている関係上、色んな冒険者を見て来たけど、こんな事をやってのける者はいなかったと思うよ。冒険者用の品を売ってる事もあるんだけど……その魔法、普通じゃないね?」
「あー、あははは。まぁ、そうですね。他の人が使う魔法とは、どうやら違うみたいです」

 少し鋭い視線で射貫くように、俺を見るお婆さん。
 長年商売をやってきて、色んな冒険者や、いろんな魔法を見てきたんがろう。
 年の功ってやつかな?
 俺の魔法が普通の魔法とは違う事を、すぐに理解したみたいだ。

 治癒魔法が、人間やエルフに使われていないらしいし、そう考えても不思議じゃないか。
 誤魔化すように苦笑しながら、普通とは違う事を認める。
 全部を説明するのは長くなってしまうからね。

「そうかい。だからこそ、英雄たり得るのかもしれないねぇ。そこらの人間と同じなら、噂にあるような事はできないだろうしね」
「そう……ですかね?」
「そうだろうさ。少なくとも、アタシは怪我を治す魔法や、一人でゴブリンの大群を消し飛ばす魔法なんて、見た事も聞いた事もないからねぇ」

 俺が誤魔化すようにしているのがわかったのか、詳しく聞くつもりは、お婆さんにはないようだ。
 こういうのも、商売を長くしている経験で培った物なのかもしれないね。

「ところで……」
「ん?」
「あっちにいる二人は、ずっと立ったままなのかい? 扉が開いたままだと、落ち着かないんだけどね……」
「あぁ……」
「「っ!」」

 お婆さんが手で示して、疑問を呈したのは、玄関の外にいるルギネさんとアンリさんだ。
 怪我をさせた張本人が、顔を合わせづらいために躊躇してたら、俺が早々に治療を始めたりで、中に入るきっかけを失ったのかもしれない。
 俺が振り返ると、自分達の事を言われてると気付いた二人が、少し体を強張らせた。

「入っておいでよ。怪我はもう治ったし、責められたりはしないと思うよ?」

 まぁ、お婆さんが二人をどう見てるかは、確認してないから、わりと適当な事を言ってるけど。

「あ、あぁ……」
「失礼しますぅ」

 俺の言葉に従い、おずおずと家の中に入って来る二人。
 後から入ったアンリさんが、ゆっくりと扉を閉めた。
 入り口が閉じてるだけで、外からの喧騒が遠のき、少しだけ隔離されたような気分になる。

「アンタ達は……確か……?」
「えぇと……その。以前も謝りましたが……怪我をさせてしまい、申し訳ありません」
「すみませんでしたぁ……」

 二人は、お婆さんに見られて恐縮したように身を縮こまらせると、少々戸惑いながらも、素直に頭を下げて謝った。
 元々は、絡んで来た男達が悪いとはいえ、怪我をさせたのはルギネさんが露店に飛び込んだせいだからね。

「あぁ、やっぱりあの時の。相変わらずの恰好だねぇ。まぁ、それはいいんだけど。もう気にしなくていいんだよ、しっかり店の修理費も払ってくれたし……あの騒ぎは、最初からアタシも見てたからねぇ。悪いのが男達の方だってのはわかってる。……アタシも、若い頃は同じように声をかけられて、暴れたもんだよ」
「ありがとう、ございます」
「ありがとう、お婆ちゃん」

 頭を下げる二人が誰なのか思い当たったお婆さんは、苦笑しながらルギネさん達を許した。
 怪我も治ったし、店も修理費を使って直った。
 一応、二人を責める理由はもうない……のかな?
 怒るでもなく、すんなり許してくれたお婆さんに対し、二人はもう一度、感謝するように頭を下げていた。
 ……アンリさんの胸に抱かれてるエルサは、上体が倒されて落ちそうになってたけど……そろそろ落ちてもいいんじゃないかな?

「お婆ちゃん、若い頃はモテたの?」
「あぁ、そうだよ。色んな男から声をかけられてねぇ。そうだね、アンタ達」
「は、はい?」
「失礼な男達のあしらい方を教えてあげるよ。あんな風に暴れたんじゃ、また他に被害が出ちまうからね」
「は、はぁ……」

 ユノの質問に笑って答えたお婆さんは、ルギネさん達に顔を向け、何故か始まる男性のあしらい方講座。
 お婆さんは結構な年だけど、若い頃は美人だったような面影が少しあるようなないような……?
 若い頃の姿は想像できないけど、お婆さんの講座は、経験に基づいていて、最初は何故こうなったのか戸惑っていたルギネさん達も、途中から真剣に聞き入っていた。
 これで、また絡んでくる男達がいても、アンリさんが暴れたりせず、周囲に被害が出ないなら喜ぶべき事かもね。

「リク、何関係ないって顔をしてるんだい? アンタもだよ。女の扱い方ってのを学んで行きな!」
「えぇ~?」

 何故かこちらにも飛び火して、女性の扱い方講座まで始まってしまった。
 男女関係なく、その気がないのに、気を持たせるような行動をしちゃいけないとか色々な事を言われた。
 どういう事なのかわからず、不思議そうな顔をしていたらしく、熱を持って講義をしてくれてたお婆さんが、途中で渋い顔をしながら「魔法は凄くても、こっちはまだまだだねぇ……」なんて言われてしまった……。
 こっちの世界に来るまで、女性といえば、小さい頃仲の良かった姉さんと一緒にいるくらいで、他は少し会話をした事があるくらいの経験しかしてないからなぁ……難しい……。

 ちなみに、ルギネさんとアンリさんに対して始まったあしらい方講座だけど、何故かユノが一番真剣に聞いていた。
 ……誰かから声をかけられて、困ってたりするんだろうか……?
 俺が見る限り、今までそんな気配はないと思うけど……十歳前後くらいにしか見えないユノを、となると変態なのかもしれない。
 この世界にも、そういう人はいるのかな?
 まぁ、ユノの場合自衛というのは万全だろうけど……一応、俺も注意して見ておこうと思う。
 ……エルサの方が鋭く気づきそうだけどね。


「それじゃお婆さん、また」
「あぁ。また来な」
「お婆ちゃん、またなの!」
「ユノちゃんも、元気でねぇ。またいつでも、店に来るんだよ?」
「うん!」
「それでは……」
「お邪魔しましたぁ」

 お婆さんの長い講義が終わり、家を出る前に簡単に挨拶。
 俺には割と素っ気ないのに、ユノには笑顔で返してたのは……まぁ、仕方ないか。
 ……お婆さんの代わりに店をやってるお孫さんもいるのに、女の子だと対応が違うのかもしれない。
 ルギネさん達も、お婆さんに頭を下げて、一緒に外へ。

 王都へ帰るまで、あまり日にちはないけど、余裕を見てもう一度顔を出すくらいはしようかな。
 もちろん、ユノを連れてね。
 俺一人だと、文句を言われそうだ。

 外へ出ると、少しだけ傾き始めた日が眩しかった。
 結構長い時間、お邪魔してたみたいだね。
 途中、軽くお昼を用意をして、皆で食べたけど、その間もずっとお婆さんの講義は続いてた。
 俺やルギネさん達は、八百屋のおっちゃん達に御馳走されてあまり量を食べられなかったけど、ユノとエルサがモリモリ食べてたね。
 スイカも含めて、結構な量を食べたのに、凄い食欲だ……太ったりしないのかな?
 お婆さんは、嬉しそうにユノが食べる姿を見てたけど。

 昼食の用意をする時意外だったのは、お婆さんが始めた料理を、てきぱきとルギネさんが手伝っていた事。
 なんとなく、料理が苦手なイメージがあったし、アンリさんあたりが得意そうかなと思っていたら、逆だったらしい。
 モニカさんが作ってくれる料理とは、また違った味付けで、これはこれで美味しかった。
 何故か、ルギネさんが俺の食べる所をジッと見てたりしたけど……あれは何だったんだろう?
 不思議そうにしてたら、お婆さんを含めた皆に溜め息を吐かれてしまった。
 謎だ……。


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