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ガラスを使っての結界維持

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「ちょっと特殊な方法だけど、できるわ。昔のエルフは、魔法具と魔法を使って、長時間魔法を維持させる方法も研究してたみたいだしね」
「そうなんだ。……けど、しばらく維持できるって、どのくらいなのかな?」
「そこまではっきりとはわからないのだわ。多分、数十年そこらとしか……だわ」
「数十年……農地として使うのに十分な時間ね。それ以降の事も、時間があれば考えられるし」

 昔のエルフは、そんな事も考えていたらしい。
 ともあれ、フィリーナの考える方法を使えば、しばらく維持できるらしけど、どれだけの間維持できるかをエルサに聞いてみる。
 維持できたとしても、数日程度じゃ意味ないからね。

 と思って聞いてみたら、驚きの答えが返ってきた。
 数十年って……結界に使う魔力が、俺やエルサに取ってそこまで多くないとはいっても、ガラスにはどれだけの魔力が詰まっているのか……。
 それ以前に、それほどまでの魔力を魔法に込めて、ゴブリン達に放った自分が少し怖い。
 やっぱり、あの魔法はもう使わない方がいいんだろうなぁ……。

「よし、それじゃあ準備もあるし、その案で行きましょう!」
「大丈夫かなぁ? というより、勝手に俺達で決めていいの?」
「大丈夫だと思うわよ? 昼に話した限りだと、代官さんも副ギルドマスターも、リクのお願いを無碍にしたりしないでしょうし、対応には困ってたみたいだしね」
「そうかなぁ……まぁ、許可してくれたらいいけど……あ、でも……」
「ん、まだ何かあるの?」

 フィリーナが結果を使う事と、ガラスで魔力を補う事を決める。
 それで、クラウスさんやヤンさんが納得するかわからなったけど、昼に話した時の感じでは、大丈夫そうだという事だ。
 まぁ、許可が出るかどうかはわからないけど、一応提案として出してみるのも悪くないと思う。
 それはともかく、ふと思い出した問題があった。

「結界って、完全に外と中を遮断する魔法だから……雨が降っても、畑が潤ったりしないんだけど?」
「それは……というか、それって出入りは大丈夫なのかしら?」
「結界の形は細かく決められるから、出入り口のようなところを作れば大丈夫だろうけど……」
「それなら、そこから水を運べばいいわ。できる事なら、川をこちらにひきたかったけど……そこは代官さん達に考えてもらいましょ。とにかく、人の出入りができるなら問題ないわ」
「結構、人任せな部分もあるんだね………」
「そりゃ、全てを私達が決める事じゃないからね。実際、ここで農地をやるのは、街の人間の仕事よ? 私達がやるわけじゃないんだし、何でもかんでも決められないわよ」

 結界の欠点というか、問題点をフィリーナに言って、どうするのかを聞く。
 結界で完全に遮断するという事は、空から雨が降ってもそれが畑に降り注がないという事。
 恵みの雨という言葉があるくらいだから、農場にとって問題になるかと思ったんだけど、水を運んで来る事で解決させようという事らしい。
 まぁ、街の南側に豊富な水源である川があるし、そこから運んで来るんだろうと思う。

 フィリーナの言う通り、どこからか川の水を引き込んで来るのが、一番なんだろうけど……川の水かぁ。
 ガラスの埋まってた地面を掘っても、水が出て来る事はなかったから、この辺りには地下水脈はないんだろうし……いや、もっと深く掘ったらあるのかもしれないけど。
 ともかく、それが期待できない以上、街や川から水を運んで来なくちゃいけないようだ。
 元々、水源のない場所に農場を作ろうとしてたんだから、それくらいは覚悟してたのかもしれないけども。
 広い農地を補えるほどの雨が、いつも必ず降るわけじゃないしね。

「ともかく、細かいことはここで話してても決まらないわ。一旦冒険者ギルドに報告へ戻りましょう」
「そうだね。それがいいか」
「ここにあるガラスはどうするんだ?」
「んー、マギアプソプションは駆逐したし、次が集まって来るのにも日数がかかるから、数日程度なら、このままでも良さそうね」
「そうか、ならとりあえずはこのままだな」
「そうね。話し合って、どうするか決めてからね」

 俺達がここでガラスを前に話していても、全て決まるわけじゃないと、報告へ戻る事になった。
 ヤンさんと、できればクラウスさんを交えて話さないといけないしね。
 クラウスさん、忙しそうだったけど……話せる時間があるかな?

 ソフィーやモニカさんとも話し、ガラスをここに置いて街へと戻ろうとしていると、フィリーナが一人難しい顔をして何かを考えてる。
 まず報告に帰ろうと言ったのはフィリーナなのに、どうしたんだろう?

「フィリーナ……どうしたの? 何か気になる事でも?」
「いえ……リク、このガラス……少しでいいから持って帰れないかしら?」
「え? 別に誰の物というわけでもないから、問題ないと思うけど……結界を維持するために使うんじゃないの?」
「維持には問題ない程度の量よ。アルネに見せたいの」
「アルネに?」
「えぇ。普通は魔法具を作るため、回路を組み込むようにして、素材に魔力を蓄えられるようにするのだけど……このガラスは大きな魔力を受けた事で、魔力を蓄える性質を持った。何か、研究に使えるかも……とね」
「でも、変な事に使おうとすると、暴発するんじゃないの?」
「そこは、アルネにちゃんと言っておくわ。リクの魔力が込められてるからってね。それに、魔力を練るという事の研究にも使えそうだし……」

 フィリーナが考えていたのは、ガラスを王都で待っているアルネに持って帰って見せる事だった。
 アルネは魔法の研究もしているから、フィリーナよりも詳しいというより、専門家に近い。
 という事は、これを見て何か魔法技術の発展に繋がると考えているのかもしれない。
 元々、偶然できた物だし、誰のものというわけでもないから、結界と繋げる事に支障がないのであれば問題ないと思う。
 まぁ、アルネやフィリーナなら、魔力を蓄えたガラスを使って、変な事を考えたりはしないだろうから大丈夫だろうね……多分。

「研究のためなら、いいと思うよ。それで研究が捗るのならね」
「当然、魔法技術の進歩が見込めるわ。……これは、エルフの里にも報せなきゃね」
「そんなになんだ……」
「ガラスもそうだけど、魔力を練る……という考えが素晴らしいわね。今はいないけど、アルネがいたら興奮して手が付けらえなかったかもしれないわよ?」
「ははは、そうなんだ……」

 フィリーナの言葉に、アルネがいなくとも、フィリーナやモニカさんが十分興奮してたと思うけど、言葉にはしない。
 あの興奮状態は凄かったなぁ……まだ背中痛いし。
 でももしかしたら、あれ以上に興奮してしまうんだろうか……?

 ともあれ、ガラスを持ち帰って研究する事で、魔法技術が進歩して、エルフ達や魔法を使う人達……ひいてはこの国のためになるのなら、反省はするけど、ガラスが作られた魔法を使った事を、後悔しないで済むかもしれない。
 笑ってフィリーナと話しながら、両手で抱えられるくらいのガラスを、怪我をしないよう布に包んで持って帰る事にした。
 それだけガラスが積まれた山から取っても、減った気がしないのは……量が多過ぎだからだろうね。
 ガラスの山は、俺が見上げるくらいの高さだし……。
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