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むにむにエルサ

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「探査魔法を使っても、ほとんどわからないんだ。一緒にいる皆の事はわかるんだけど、少し離れると魔力が広い範囲で渦巻いてるように感じるだけで……自分達も含めて、魔力で満たされた水中にいるような感覚だね」
「……成る程ね。多分それは、魔力溜まりのせいでしょうね。まだ中心からは離れているけれど、ここでも十分に大きな魔力を感じるわ。魔力溜まりは自然に溶け込んでいる魔力量が、通常より多い状態だから……リクの言う水中にいるような感覚というのは、正しいのかもね」
「魔力に満たされているという事か?」
「小さな魔力溜まりなら、そこまででもないでしょうけど……リクの魔力が原因だからね……」
「そうね、リクさんならそれもありそうね」
「むにー……だわぁ」
「ん、エルサ?」

 フィリーナに魔力探査を使った結果を教えると、納得したように頷いて理由の推測を説明してくれた。
 多分、それは正しいんだろう。
 水の中にいながら、水を探すようなものだからね。
 これが川の流れのように、一方向に流れているとかだと、その中で流れに逆らっている存在を探したりできそうだけど……魔力は畑を中心に渦巻いてるような、何も動いていないような……不思議な感覚だ。

 フィリーナの説明に納得していると、頭の上でいつものエルサでは言わないような、機嫌が良さそうな声が聞こえた。
 むにー? 何を言ってるんだ、エルサは?

「あはははは! だわ。むにーむにー……だわ」
「おい、エルサ?」
「急にどうしたんだ? 酒場で見かける酔っ払いのようになっているぞ?」
「んー、エルサ魔力酔いなの?」
「むにー、そうなの……だわぁ。むにーむにーだわ」
「魔力酔い?」

 いつもでは言わないような声を発したエルサは、すぐに笑い出し、またむにむに言っている。
 ソフィーを始め、モニカさん達も急にどうしたのかとエルサを見ている。
 ユノが俺に近付き、頭にくっ付いてるエルサを見上げながら問いかけると、むにむに言いながらも肯定。
 魔力酔いってなんだ?

「エルサは、いつもリクからにじみ出る魔力を吸収してるの。ここの魔力溜まりは、リクの魔力と親和性が高いから……多分それで、許容量以上に吸収してしまったんだと思うの」
「魔力を吸収……マギアプソプションと似たようなものか?」
「マギアプソプションが、お酒に酔ってるような状態になるなんていうのは、確認されていないけど……エルサちゃんは酔っ払うとこうなるのね。かわいい……」
「うむ、かわいいな……んん! 魔力を吸収というのは、ドラゴンだし……そういう事があるんだと考えられるが……どうする?」
「むにむに言うエルサちゃんもいいわねぇ。けど、このままで大丈夫かしら?」
「大丈夫なの。ちょっといろいろおぼつかないくらいだと思うの。意識ははっきりしてるようだし、これ以上酷くはならないの。エルサ、魔力遮断するの」
「むにー……あはははは、だわ……わかったのむにーだわ」
「……ん? これが魔力遮断ね……成る程」

 そういえば、エルサとは契約をしてから、俺の魔力が向こうへ流れてるとか言ってたっけ。
 だから、魔力を感じやすい頭にくっ付いてるのが一番癒されるとかなんとか……。
 俺の魔力が原因でできた魔力溜まりだから、俺自身が出る魔力に質としては近いんだろう。
 だから、制御できる分以上に魔力を吸収してしまって、酔っ払った状態になったのか……。

 確かに、むにむに言ってるエルサはちょっとかわいいと思う。
 モニカさんやフィリーナは、エルサを見て心配そうにしながらも、微笑んで嬉しそうだ。
 ソフィーは、頬が緩みかけたところを、咳ばらいをして真面目な表情を取り戻した……隠そうとしなくても、ソフィーが可愛い物だとか、モフモフが好きなのは皆知ってるんだけどな。
 ともあれ、状況を説明してくれたユノは、エルサに呼び掛けて魔力遮断とやらを伝える。

 むにむに言ったり、急に笑い出したりしながらも、ユノの言葉通りに魔力遮断とやらをしたエルサ。
 今まで発動していた探査魔法や、なんとなくエルサと繋がっていたように感じていた感覚が、全て壁のようなものに遮られたような気がする。
 契約してからずっと、エルサと繋がってるような安心感があったんだけど、それがなくなってちょっとした喪失感も感じるくらいだけど、頭にくっ付いてるモフモフはそのままなので、大丈夫だ。
 魔力遮断をするとこうなるのか……と納得した。

 多分、俺から流れる魔力やらなにやらを、エルサの方で遮断した……というより、魔力の膜で自分を覆って、外部からの干渉を受け付けないようにした……んだと思う。
 魔力での繋がりが途絶えて、エルサと繋がっていたのが途切れたと感じたんだろう。

「これで、しばらくすれば元に戻るの。吸収さえしなければ、酔う事もないの」
「まぁ、酒も飲まなければよいが進む事もないか……」

 お酒と魔力を同じに考えるのはどうかと思うけど、エルサにとっては似たような物なのかもしれない。

「それにしても、魔力で酔うなんて事があるんだ……?」
「通常は、そこまで大きな魔力を扱える事がないから、確認する事はできないけれど……確か、エルフの研究で似たような事が報告されてたわね。まぁ、方法がほとんどないから、確認も研究自体もほとんどできなかったみたいだけど」
「そうなんだね」
「エルサちゃんはドラゴンで特別だし……魔物ならまだしも、人間やエルフが他人の魔力を吸収するなんて、できないから仕方ないのかしら?」
「そうなのよ。他人の魔力を流し込んだりとか、色々試してみたみたいだけど……まぁ、これは今は関係ないわね。ともかく、エルサちゃんがなんとかなりそうで良かったわ」
「むにー、むにー……あはははは……だわ」

 魔物は知らないけど、人間やエルフで魔力を吸収という事ができない以上、酔うかどうかを試すのも一苦労……という事のようだね。
 ともかく、エルサはまだむにむに言ったり笑ったりしてるけど、これ以上酷くならず、支障がないようで良かった。
 まぁ、頭にくっ付いてむにむに言ってるから、ちょっとうるさい気もするけど……キューの事に焦って急かされるよりはマシ……かな?


「……エルサちゃんが酔うのもわからなくもないわね……これだけ魔力が濃いと……私も感覚がおかしくなりそうよ。吸収しているわけでもないのに、むせ返りそうだわ」
「そうなの? 私はなんともないんだけど……」
「私もだ」
「俺もだね」
「私もなのー」
「むにーむにー……だわ」

 エルサがむにむに言っているのを聞きながら、魔力溜まりの中心と思われる場所に近付く。
 そこは畑になっている場所の真ん中あたりで、ここまで来たらさすがに、そこらにマギアプソプションらしき動いてる物が見えるようになった。
 その中で、向こうから向かって来る事を警戒し、戦闘準備をしながら進んでいる途中、フィリーナが呟いた。
 その呟きに、モニカさんやソフィー、俺やユノは、平気そうな何も感じていない顔で答える。
 エルサは……うん、そのままむにむに言っててくれ。

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