397 / 1,903
キューの調査途中経過
しおりを挟む「起きるのだわ! キューがどうなったのか、聞くのだわ!」
翌日の朝、俺やユノより早く起きたエルサの声で起こされる。
「キューがなくなる夢を見たのだわ。早くなんとかしないといけないのだわ!」
「夢って……そんなにすぐなくなる物じゃないから……」
夢を見たと騒ぐエルサ。
俺とユノ、エルサにとって、夢は特別な意味を持つけど、さすがにそれは大袈裟過ぎる気がする。
大方、エルサがキューの事を気にし過ぎて見た夢だろう。
ユノも、特にエルサの夢に何か意味があるようには感じてないみたいだし。
「おはようございます、リク様、エルサ様、ユノ様」
「おはようございます、ヒルダさん」
「キューはどうなったのだわ!?」
「おはようなの!」
俺達が朝の支度をしていると、ヒルダさんが入って来て挨拶。
それに返す中、エルサだけは挨拶ではなくキューの事を聞いている。
気にし過ぎだろう、エルサ……。
「エルサ、まずおはようだろう。ヒルダさんにも失礼だぞ?」
「……わかったのだわ。おはようなのだわ。それで、キューはだわ?」
「そういう事じゃないんだけど……まぁ、挨拶しただけ良しとするか」
「ふふふ、エルサ様はキューの事が気になって仕方ないのですね」
エルサに注意して、一応の挨拶はしてくれたけど、やっぱりキューが気になるようで、そちらの事ばかり聞いている。
ヒルダさんは笑いながら、気にしていない様子で良かった。
「では、気になるエルサ様のために……現在、陛下が調査のための人員を招集している段階です。朝食が終わる頃には、調査が開始される運びになります。お昼ごろには、断片的にでも情報が得られる見込みです」
「そんなに早いんですか?」
「陛下が力を入れているという事もありますが……あくまで断片的に、です。原因が究明できたわけではなく、噂程度の情報と考えていた方がよろしいかと思います」
「まぁ、短時間でならそのくらいですか……」
姉さんは調査に力を入れてくれてるらしい……昨日のエルサの反応を見て、早く調べないと……と考えているのかもしれない。
城や町を破壊したり、畑を強襲されたらたまらないからね。
なんだか、国の最高権力者を、ドラゴンを使って脅してる気分だけど……姉さんも漬物が食べたいと考えてるんだろうし、大丈夫だろう。
「昼にはわかるのだわ?」
「まだ、良くて噂くらいだよ。完全に原因がわかるわけじゃないからな?」
「むぅ……だわ」
「エルサ、我慢するの!」
早く原因を知りたくて仕方ないエルサは、落ち着かない様子だ。
そんなに焦っても、すぐに情報が入るわけじゃないから、おとなしくしてた方が、疲れないだろうに。
またむぅむぅ唸り始めたエルサに、ユノが腰に手を当てて叱る。
その様子は、おませな女の子が犬を叱っているように見えて、微笑ましい。
けど……よく考えたら、エルサを作ったのはユノなんだよなぁ……。
今の姿を見る限り、元神様だとか、叱ってる先がドラゴンだとか、想像できないと思う。
見た目だけでなく、言動も子供っぽくなってるユノだからというのもあるか。
「とにかく、朝食を頂いて昼まで待とう。噂程度でも、何かわかるかもしれないしな」
「……わかったのだわ」
「お腹すいたのー!」
「では、準備をさせて頂きます」
まずは朝食をと、エルサをおとなしくさせ、ヒルダさんに準備をお願いする。
しばらくして朝食を頂いた後、レナとメイさんが部屋を訪ねて来た。
さらに、モニカさん達も部屋に来て、全員が揃う。
エルサは不満そうにしながらも、一応おとなしくしてくれていた。
しばらく皆で雑談した後、モニカさんとソフィーが、町へでて調査の協力をすると言ってくれた。
もちろん、専門ではないから、城の人とは違って有力な情報を得られる可能性は低いけど、手伝えない俺やエルサに代わって動いてくれるのはありがたい。
フィリーナとアルネも賛同し、目立つエルフという事を考慮して、耳を隠す帽子を被っての参加となった。
それでも、そこらの人間より目を引く美形だから、目立つのは仕方ないけど……あまり人の多くない場所を選んで調べる事にしたようだ。
皆が部屋を出て行って、残ったのは俺とエルサ、ユノとレナさん、それとメイさんとヒルダさんだ。
ユノとレナは、拗ねたように丸まってるエルサを撫でて、少しでも落ち着かせようとしてくれてる……遊んでるだけかも?
メイさんは、恐る恐るエルサを手で触れては引っ込める……を繰り返してる。
もしかして、ドラゴンのエルサがちょっと怖いのかな?
「失礼します。ヒルダさん、よろしいでしょうか?」
「はい、私ですか?」
お昼になる前、兵士さんが一人部屋を訪ねて来て、ヒルダさんと話し始める。
この部屋に訪ねて来る人で、ヒルダさんをというのは珍しいね。
いつもは俺を訪ねて来る人が多いのに……。
「わかりました。ご苦労様です」
「はっ!」
少しの間、ヒルダさんと話した兵士さんは、何かを伝えた後すぐに退室して行った。
重要な伝達とかだったのかな?
「リク様、予想より早いですが、新しい情報が入りました」
「……今調べてるあれの、ですか?」
「はい」
今は、エルサがユノ達に構われておとなしいから、刺激しないよう、キューの名前は出さないようにした。
キューに反応して、またエルサが騒ぎだしたら、ちょっと面倒だしね。
頷いたヒルダさんと、エルサから距離を離すように、洗面場がある場所へ。
さらに念のため、声が漏れないように結界を使っておく。
これで、今のエルサに聞こえて刺激する事はないと思う。
「エルサは耳がいいですからね。それで、新しい情報とは?」
「はい。キューが不足している原因の多くは、王都に住まう民が、大量に買い求めているからかもしれないとの事です」
「王都の人達が?」
確実な原因とは言えないかもしれないけど、王都の人が多く買えば、確かに不足する事になる。
でも何故、珍しい物でもないキューが、今突然売れ始めたんだろう?
「それに関しては、どうやらまた別の噂が流れているようです」
「また噂、ですか?」
「そのようです。なんでも、リク様やエルサ様が、好んでキューを食べている……と」
「それ、噂でもなんでもなく、ただの事実ですよね……」
俺はもちろんキューは好きだし、エルサに至っては言わずもがなだ。
「そうなのですが……まだパレードを行う前、エルサ様を連れたリク様が、キューを買い、食べている姿があちこちで見かけられたのではないかと……」
「あー、それは見られてるでしょうね」
城下町でキューを買ったり、エルサにキューを食べさせながら歩いていた事もある。
エルサを頭にくっ付けた俺は、当然目立つから、それを見られていてもおかしくはない。
それを見た人達が、噂として話して広まって行ったって事か。
最初は俺達の事をよく知らなかったけど、パレードで顔を見て、初めてキューを食べてた俺やエルサが……と気付いた人達がいたんだろう。
キューを食べてる俺を見た人が、知り合いに伝えて、その人がまた……というように拡大して行ったんだろう。
人の噂って、よくわからないけど、広まるのは早いよね……。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる