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ヘルサルの話を詳しく説明

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「……成る程。ユノ殿にモニカ殿。さらにはエルサ様が付いたリク殿がいて、ヘルサルであの戦果となったわけか……」
「あの戦果? リクが活躍して、最高勲章を授与されるのは知っていますが、どれほどの戦果だったのですか?」

 少しエフライムと話した後、クレメン子爵は俺達を見渡して、ヘルサルでの事を納得した様子になった。
 でもエフライムの方は、首を傾げている。
 どうやら、ヘルサルで戦った、という事は知っていてもどういう事があったのかは知らないようだね。

「エフライム……ヘルサルは知っているな?」
「え、まぁ……はい。王都の東にあり、王都を除けばこの国一番の街……ですね」
「うむ。そのヘルサルが魔物の集団に襲われたのだが……」
「そこまでは聞いています。確か、ゴブリンの集団だったとか」
「そうだ。ゴブリンの集団……どれくらいの規模だったか……」
「えーっと、大体10万くらいですね」
「は!?」

 ヘルサルでの防衛線の事を、詳しく知らないエフライムに、クレメン子爵が説明を始める。
 クレメン子爵が、ゴブリンの数を思い出そうとしていたので、あの時戦闘開始前に報告されていた事を伝えた。
 確か、10万以上と言ってたはずだね。
 エフライムは、そこまでゴブリンの数が多いとは思ってなかったのか、大きな声を上げて硬直した。

 でもまぁ、正確な数はあの状況だったし……数えられなかったんだよね。
 それに、ほとんどすべてのゴブリンを、俺が魔法で消滅……蒸発?……させたから、戦後も数を確認できなかったと思う。
 あの時のあれは、やり過ぎたとこの世界に来て、一番の反省点だ。

「……ゴブリンが10万……一体ヘルサルで何が……?」
「まぁ、そこは後でワシが説明しよう。ともかくだ、その時周辺の街や村と協力して、ヘルサルを守ろうと防衛線をしたようなのだ。話を聞いた時は、こちらからも兵を差し向けたかったのだが……距離が離れているため、間に合わないと断念したのだ」
「そう、ですね。ここからだと、ヘルサルまで早くとも1週間以上……複数の兵士を派遣するとなると、準備も入れて2週間以上はかかるかと……」
「うむ。王都は迅速に対応し、ヘルサルを治めている伯爵も派兵したようだ。だが……その兵士達がヘルサルへ到着する前に、全て終わっていたのだ」
「え……10万のゴブリンでしょう? 1日や2日で終わるような戦いには、ならないと思いますが?」
「そうなのだがな……その戦闘に参加したのが、リク殿達だ。リク殿達は、ヘルサル街門に押し寄せるゴブリンの軍団相手に打って出て……その……だな……」
「どうしたのですか、お爺様?」

 クレメン子爵がエフライムに、その時の事を説明してくれてる。
 距離があるとはいえ、子爵領を任される人だから、こちらにもあの時の事は詳細に伝えられたんだろう。
 まぁ、そうでもしないと、俺に最高勲章の授与なんて信じられないからだろうね。
 ただ最後、俺達が討て出た後の事を説明する段階で、言い淀むクレメン子爵。

 視線を巡らせてみれば、レギーナさんやヘンドリックさんは苦笑しているようだ。
 二人共、エフライムとは違って、詳細を知っているみたいだね。
 次期当主はエフライムなんだろうけど、補佐としてある程度クレメン子爵を手伝ってるから、知っているんだろう。
 ……訓練をお願いしに来た時の、騎士団長さんの反応を見るに、あちらは知らなかったみたいだけどね。

「はぁ……戦果を聞いた時は信じられなかったのだが、今日の訓練の様子やユノ殿の事を聞くと、可能なのかもしれないと思えるな。……エフライム、リク殿達は、ゴブリン10万を相手に、被害0で殲滅したのだ」
「……」
「ははは、一応、怪我人や一部外壁に損傷はありましたけどね」

 クレメン子爵から戦果を聞いて、絶句したまま固まるエフライム。
 その様子を見て苦笑しながら、一応訂正しておく。
 怪我人はいたから、全く被害が出なかったわけじゃないからなぁ……外壁に関しては、俺のせいだけども……。

「怪我人がいたとしても、死者はいなかった。この戦果をもって、女王陛下は最高勲章の授与を決めたのだ。改めて考えると、勲章授与以外あり得ない戦果だな……ユノ殿やモニカ殿、その他の者達が頑張った成果なのだろうが、リク殿が人一倍活躍したのは想像に難くない。まぁ、それもあって、リク殿のみの勲章授与なのだろう」
「あはは……あの……」

 絶句したままのエフライムに、クレメン子爵は俺達を見て納得した顔になる。
 そんな中、モニカさんが苦笑しながら、クレメン子爵に声をかけた。

「うん? どうしたのだ、モニカ殿?」
「いえその……私は確かにその時、元冒険者の両親と一緒に戦闘に参加しました。けど、ほとんどのゴブリンを倒したのは、リクさんです。それと、その時にユノちゃんはまだいませんでしたから」
「なんだと!?」
「「「……」」」

 申し訳なさそうに話すモニカさん。
 だけどその内容に、クレメン子爵は再度声を上げて驚き、他の面々は絶句している……あ、エフライムはさっきから固まったままだったね……大丈夫かな、息してる?
 レナは、もう眠気が限界らしく、目がほとんど開いてない……お皿に顔を突っ込まないよう、メイドさん、頑張って下さい。

「あー、確かにその時は、まだユノはいなかったっけ」

 ユノが俺の前に現れたのは、ヘルサル防衛線が終わってしばらくしてからだったね。
 まだそんなに月日が経っているわけでもないのに、なんだか懐かしい気分だ。

「……リク殿とユノ殿で、先陣を切ってゴブリン達に突撃、次々と倒す……さらにエルサ様がドラゴンの力で、という姿を想像してたのだが……違うのか?」
「私は何もしていないのだわ」
「私も、リクの所に来た時には、もう戦闘は終わってたの!」

 クレメン子爵の想像は、俺もなんとなくわかる。
 俺とユノが斬り込んで、ゴブリンを手あたり次第倒しつつ、エルサが大きくなってゴブリンを薙ぎ払う……とでも想像してるんだろう。
 ……あれ、クレメン子爵にエルサが大きくなれる事を教えてたっけ? いや、ドラゴンだからそれくらいで来てもおかしくないと考えてるのか……まぁいいや。

 ともあれ実際は、エルサは何もせずに俺の頭にくっ付いていただけだし、ユノはまだこちらに来ていなかったからね。
 モニカさんは確かに戦ったけど……結局俺が魔力というか魔法を暴走させて、決着を付けた。
 ……うん、外壁がちょっと溶けかかってたり、エルサが結界を張っていなかったら街も危なかったとかは、忘れよう。

「それでは……あの戦果は、リク殿一人で……?」
「えっと、他にも協力してくれた人達が、いたからだと思ってますよ?」
「よく言うわね、リクさん。あの時、ヘルサルに押し寄せるゴブリンを食い止めようと、第1陣で戦闘したけど……その後交代する時に、一人だけゴブリンに向かったのは忘れないわよ?」
「あははは……まぁ、確かにそんな事もしたなぁ……」

 若さゆえなのかなぁ……いや、あれからそんなに時間は経ってないし、今でも十分若いけどさ……10代だし。
 ともかく、マックスさんが俺を庇って怪我をして、ちょっと理性のようなものが吹き飛んじゃったんからね。
 姉さんに関する記憶を封印してたとか、俺を庇うという状況が、日本で姉さんが亡くなった時と状況が似ていたから、刺激されてしまったんだと思う。
 姉さんと出会った事で、自分で封印した記憶なんてものもなくなったから、暴走はしないと思う……うん、きっと……。


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