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子爵家へエルサ紹介
しおりを挟む「まぁ、リクの事を知ったら、こうなるのも無理はないよな。……お爺様、大丈夫です。立って下さい、リクはそういう事で喜ぶような人間ではありませんから」
「む……ぬぅ……そ、そうなのか?」
「はい。だろ、リク?」
「あぁ、もちろん。えーと、クレメン子爵。初めまして、リクと申します。俺の事は、ただの冒険者として、普通に接して下さればいいので……むしろ、それでお願いします」
エフライムがクレメン子爵に手を添えて立たせ、俺に声をかける。
それに頷いて答えながら、自己紹介をして、何も気にせず接してくれと頼む。
「そ、そうなのですか? いや、そうか? しかしエフライム、随分とリク様と親しく話してるようだが?」
「はい。リクとは年の近い友人として、お互い遠慮をせず話をする事としました」
「そうか……リク様……いやリク殿、エフライムは失礼な事を言ったりしていませんか?」
「ははは、失礼も何も、俺がエフライムに頼んだんです。クレメン子爵も、気にせず話して下さい」
「はっ……いや、うむ、わかった。本人がそう言うのであれば。……少し、慣れないが」
「面白いでしょう?」
難しい顔をして、小さく呟くクレメン子爵に、エフライムが笑いながら問いかける。
「まぁ、自分の功績を誇るような、貴族や冒険者とは違うのだろうな」
「はい。少し話したらわかりますが、本人は至って自分の成し遂げた事を、凄い事だとは思っていません」
「……逆に、どう接して良いか悩むところでもあるが」
クレメン子爵とエフライムが話す事を聞いているけど、俺ってそんなに凄い事をやったのだろうか?
色々とやって来たけど、俺だけじゃなく、他の皆の協力があったからというのが大きいと思うんだよね。
俺一人だけじゃなく、皆の功績だと思う。
……時折、魔法も含めて力加減が難しく、やり過ぎた事があるのは、自覚してるけど。
「そんな事よりも、ここは安全なのだわ? お腹が空いたのだわー!」
「………そちらは?」
地下通路を抜けた先にある部屋で、暢気に話をしていたら、俺の頭にくっ付いていたエルサが騒ぎ始めた。
そういえば、街にどう入るかという事に集中して、お昼を食べてなかった。
エルサもそうだけど、ユノの方もお腹が空いてちょっと拗ね気味だ。
地下を抜けたから、皆緊張が解けてたのだろうし、目的のクレメン子爵にも会えたんだから、そろそろお昼を食べさせろ、とエルサは考えたんだろう。
俺の頭にくっ付きながら騒ぎ出したエルサを見て、クレメン子爵が驚きながら聞く。
騎士団長さんや、リロさんも同じような表情でこちらを見てるね。
「俺も、そろそろ説明して欲しいかな、リク?」
「リク殿、そのモフモフした生き物は何なのですか? 私も欲しいです!」
「あれ? エフライム達には説明してなかったっけ?」
「リクの事は聞いたが、そちらは説明されてないな」
「そうだったっけ……まぁ良いや。えっと……こいつはエルサって言って、ドラゴンです。……ほらエルサ、おやつのキューを上げるから、少しおとなしくしててくれ。ユノも……」
「キューがあればそれでいいのだわ」
「我慢するの」
「そういえば、説明していませんでしたね。私も慣れ過ぎたのかしら……?」
「そうですね。リク様といえば、エルサ様と常に一緒ですから……私も気にする事が減りましたが」
クレメン子爵たちの疑問と驚きに合わせて、エフライムが苦笑しながら、レナがエルサと同じモフモフを欲しがるようにこちらを向いた。
レナの気持ちは、俺にもよくわかる。
エルサのようなモフモフは、他に類を見ないくらい至高のモフモフだから、誰が欲しがっても不思議じゃない。
まぁ、エルサはドラゴンで、そこらにいるわけじゃないし、欲しがって手に入る物じゃないけどね。
そう考えながら、エフライム達にまだエルサの事を説明してなかったことに気付く。
考えれば、エフライム達の事情や、俺達が冒険者で勲章を……というくらいしか話してなかったっけ。
エルサとユノに鞄から取り出したキューを、数本上げながら、エルサがドラゴンである事を伝える。
後ろで、モニカさんとマルクスさんが小声で話してた。
「ドラゴン……あの伝説の? まさか本物が存在するのか?」
「お爺様、リクの言う事です。これまで成し遂げて来た事を考えても、信じざるを得ないでしょう」
「う、うむ。そう……だな」
「ドラゴン? ドラゴンって、そんなにモフモフなんですね!」
エルサがドラゴンだと伝えると、クレメン子爵は信じられないものを見るような表情になり、騎士団長とリロさんは固まってしまった。
確かにドラゴンって聞いたらそうなるかもね。
俺も、初めてエルサと会った時、ドラゴンと知って怖かったし。
ドラゴンがこんなにモフモフだとは、想像できなかったけど。
しかしエフライムとは、まだ出会ってそんなに経ってないはずなのに、色々と諦められてるような気がする……。
レナだけは、目を輝かせて俺の頭にくっ付きながら、器用にキューを齧るエルサを見てる。
エルサ、食べるのはいいけど、俺の頭によだれを垂らしたりするなよ?
「……むぅ……色々と話す事があるようだ。エフライム達も疲れただろう。まずは食事を用意させるか……リロ!」
「はっ!」
「至急使用人達に伝え、人数分の食事を用意しろ。ナトールは、エフライム達を」
「「はっ!」」
「……人数分で、足りるのか?」
「どうでしょう? 昨日、一緒に野宿しましたが、結構食べてたようにも……」
「この際だ、余っても構わんから、多くの食事を用意しろと伝えろ」
「はっ!」
「では、エフライム様、レナーテ様はこちらへ。まずはお召し物を……」
「それよりも、風呂に入って綺麗にしたいな」
「そうです。久々に暖かい湯に浸かりたいです」
「そちらも、すぐに」
クレメン子爵が、キューを食べるエルサを見ながら、リロさんに食事の支度を指示する。
騎士団長さんは、エフライム達を身綺麗にするための世話だ。
途中、クレメン子爵がエルサが次々とキューを食べる様子を見て、足りるのかどうか悩んだ様子だったけど、エフライムの言葉を受けて、多くの食事を用意する事にしたようだ。
エルサが足りないと言い出したら、またキューを渡して我慢させようと思ったけど、その必要も無いみたいだ。
すみません、クレメン子爵、お願いします。
リロさんが食事の用意をしてもらいに部屋を出て、その後にエフライム達が騎士団長さんに連れられて出て行った。
エフライムもレナも、風呂に入ってさっぱりしたいようだ。
閉じ込められてた間中、風呂に入る事はできなかっただろうし、昨日も冷たい川の水で、体の目立つ汚れを落としたくらいだから、久々にゆっくり入りたいよね、気持ちはわかる。
あまり大きくない部屋の中には、俺達とクレメン子爵だけが残った。
「失礼致します。御用でしょうか?」
「うむ。この方達を応接室に。大事な客だ、丁重にな」
「畏まりました。では皆様、こちらへ……」
クレメン子爵が残ったと思ったら、部屋の入り口をノックして、数人の男性と女性が入って来た。
このクレメン子爵邸の、使用人さん達だろう。
執事とメイドさんかな? 多分、部屋を出て行ったリロさんか騎士団長さんあたりが、この部屋に来るよう言ってくれたんだと思う。
その人達に指示を出し、クレメン子爵と一緒に、俺達は部屋を出て子爵邸の中を移動した。
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