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ソフィーは村でロータの訓練
しおりを挟む「ふむ……成る程な。それでは明日、領主邸のある街へ出発するのか」
「うん。クレメン子爵の様子は、早いうちに見ておきたいからね」
マルクスさんとの話を終え、ソフィーとロータが休憩に入る頃合いを見計らって、さっきの話をする。
ロータは、基礎的な運動を終え、広場の隅で水を飲みながら疲れを癒してる。
中々息が整わなくて苦労してるようだ。
「……そうか、明日か」
「何か問題でもあるの、ソフィー?」
「問題があるわけではないんだがな……」
明日出発という事を伝えると、何やら考え込んだ様子のソフィー。
少し難しい顔をしたまま、視線を疲れきってるロータへと向けた。
「ロータの訓練なんだが……さすがに1日でどうにかなるものじゃないからな。せめて数日……3、4日は欲しい。それだけあれば、ロータに訓練の方法を叩き込む事ができるだろう」
「そうかぁ……」
1日で剣の訓練が終わるようなら、誰も苦労はしないよね。
ソフィーが言う3、4日というのは、ロータを鍛えながら、どのように訓練して行けば良いのかを教える期間という事だろう。
その間にソフィーが教えた事を、反復してやれば、ちゃんとした訓練になる……という事だと思う。
「リク、相談なんだが……私はここに置いて、子爵邸へ行ってくれないか?」
「そうだね……うん、それで良いと思うよ。クレメン子爵の様子を見るのは、俺とモニカさんでやっておく。マルクスさんもいてくれるしね。それに、魔物と戦ったりする事もないだろうし」
「ありがとう。私はリク達が離れている間に、ロータを鍛えながら訓練の仕方を叩き込んでおく事にする」
「……程々にね?」
クレメン子爵の所へは、ソフィーがいなくても問題はないと思う。
マルクスさんもいてくれるしね。
王都への帰り道にこの村へ寄って、ソフィーと合流してから帰ればいいだけの事だ。
確か、街へは馬車で半日……朝出発して夕方到着するくらいだから、往復を考えると早くても2、3日はかかる。
どれだけ時間がかかるかは、クレメン子爵との話次第だけど……そこまで時間はかからないんじゃないかな。
ロータへの訓練にやる気なソフィーが、ロータの母親の所へ向かうのを見送りながら、あまり厳しくなり過ぎないよう、注意するように呟いた。
それを聞いたソフィーは、移動しながら手をこちらに振っていた……大丈夫だろうか?
「じゃあ、イオニスさん。俺達は明日街の方へ出発します。ソフィーだけは残るので、よろしくお願いします」
「はい、畏まりました。リクさんのお仲間が一人でも残って下さるのは、村としても嬉しい限りです」
ユノとエルサを引き取りに来たイオニスさんの家で、明日出発する事を伝える。
魔物を討伐したと言っても、またいつ魔物が集まるかわからないので、ソフィーが残ってくれる事に喜んでいた。
まぁ、数日もすればその不安も取り除けるんじゃなかな、と思う。
もし魔物が出ても、数が多過ぎなければある程度は、ソフィーがなんとかできるだろうしね。
「ユノちゃん、エルサちゃん。行くわよ?」
「……んー、むにゃむにゃ……」
「キューを……キューを……だわぁ……」
「ははは、ぐっすり眠ってるみたいだね」
「……そうみたいね」
「穏やかに寝てるので、私共も微笑ましく見ておりました」
起こそうとするモニカさんの声をものともせず、気持ち良さそうな表情で寝ているユノとエルサ。
……むにゃむにゃなんて、寝てる時に言うのは初めて聞いたな……エルサがキューの事で寝言を言うのはいつもの事だけど。
その様子を見ながら、朗らかに笑顔で見守るイオニスさんと奥さん。
ユノが孫のように見えて、可愛いのかもしれないね。
「でも、さすがにこのままにはできないわよ?」
「そうだね……それじゃあ、俺がユノを背負うから、モニカさんはエルサを抱いて宿に連れて行こう」
「そうね……ユノちゃんは私が連れて行くわ。エルサちゃんはリクさんがお願い」
「……良いけど……逆にしたのはどうして?」
「……特に理由はないわ。まぁ、ユノちゃんを私が背負っていれば、そのまま部屋に連れて行けるしね」
「そうなんだ、わかった」
何となくモニカさんが別の事を考えてる気がしたけど、あまり気にしないようにする。
変につついて、モニカさんに怒られちゃいけないからね。
それに、モニカさん達の部屋でユノを寝かせるのなら、俺じゃなくモニカさんに連れて行ってもらうのが一番早いか。
わざわざ部屋の前で受け渡しをするのも、手間だしね。
「それじゃ、イオニスさん、奥さん。お世話になりました」
「いえいえ。また明日、お見送りはさせて頂きます」
「またいつでも、ユノちゃんを連れて来て下さいませ」
「はい」
イオニスさんと奥さんに挨拶をして、宿へと運ぶ。
奥さんもユノの事を気に入ったみたいだね。
次来る時は、ソフィーと合流する時だから、その時はまたユノを連れてイオニスさん達の家に来るのも良いかもしれない。
宿へと戻り、モニカさんと別れて部屋でエルサをベッドに寝かせる。
その後は、少し早めの夕食を頂き、明日の出発に備えて早めに寝る事にした。
ソフィーは、夕食の後またロータに教えるために出て行ったけど。
ちなみに、夕食時になったらユノとエルサはきっちり目を覚ました。
モニカさんが声をかけても、宿まで運んでる途中も起きる気配は全くなかったのに、食いしん坊な事だね。
――――――――――――――――――――
翌日の朝、朝食を頂いて宿を出る準備をする。
馬車の用意や細かい諸々の準備は、マルクスさんが昨日のうちにしておいてくれたようで、俺達は自分の荷物を持って馬車に乗るだけだ。
マルクスさん、色々とやってくれるからありがたいなぁ……けど、今回たまたま付いて来てくれてるだけだから、あんまり甘えないようにしないと……いなくなった時に、色々大変そうだ。
「それじゃあな、リク。気を付けて……なんて、リク達には不要か」
「あははは、うん、気を付けるよ。ソフィーの方も、ロータの事よろしく」
「あぁ、わかってる。リク達が戻ってくるまでには、ある程度できるようにしておこう」
「……やり過ぎたりしないようにね……?」
馬車に乗る前、見送りに来てくれたソフィーと話す。
ちらりと視線を向けると、ロータとその母親も来てくれているんだけど……ロータは昨日の訓練で立っているのもやっとの状態のようだ。
筋肉痛が酷いんだろうな……。
「時間が少ないからな……本来はもっとゆっくりやりたいんだか……仕方ない。まぁ、鍛錬の方法や考え方なんかは、ある程度母親の方にも教えておく」
「そうだね……ロータ一人じゃ覚えきれないだろうしね……」
「リクさん、この度は本当にありがとうございました。おかげさまで、村の者達も救われました」
「いえ、俺達はロータに依頼されて、冒険者として依頼を遂行しただけですから」
ソフィーはロータだけじゃなく、その母親も巻き込むつもりのようだ。
まぁ、訓練の方法を教えるみたいだから、ロータ以外の人も知っておいた方がいいか。
ロータの方は、今までやって来なかった訓練で、覚えるどころじゃないかもしれないしね。
それにまだ子供だから、近くに大人がいて見守っていた方がいいと思う。
ロータの事を考えてると、イオニスさんが進み出て頭を下げた。
魔物の脅威に晒されていた村を救った、という自覚はあるけど……そこまで畏まらなくても……とも思う。
本当に称賛されるべきは、魔物を倒した俺達じゃなく、命を懸けて王都の冒険者ギルドへ救援を求めた、ヌートさんとロータだからね。
そう思いながら、イオニスさんと同じように頭を下げていた村の人達へ、頭を上げるように伝えた。
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