300 / 1,903
対野盗戦準備
しおりを挟む「大丈夫か?」
「まぁ、何とかなると思う。もしもの時は、周囲に魔法を使うから」
「リクさん……本気ね」
「まぁ……ね。肉親を殺されたロータの事を思うと、どうしても昔の自分に重ねてしまってね……」
「そうか……」
つい最近まで、辛いからか無意識のうちに記憶を封印していた俺。
この世界に来る前、随分前の事になるけど、俺もロータくらいの時姉さんを失った。
肉親を目の前で失うというのは……やっぱり悲しい。
当然の事なんだろうけど、それをやった野盗達を、俺は許せそうにないから。
「魔法を使うのは良いけど、大丈夫かしら?」
「ははは、まぁ失敗しないように気を付けるよ。それと、エルサに結界を張ってもらおうと思うからね」
「それなら、こちらへの影響もないか……わかった」
「じゃあ、モニカさんとソフィーは、マルクスさんと一緒に馬を守るのと、馬車に野盗を近づかせないようにしてね」
「ええ、わかったわ。もしリクさんが野盗を取りこぼしてこちらに来ても、何とかして見せるわ」
「野盗の一人や二人、警戒していたらなんとかなるからな」
「うん、お願い。あぁ、あと、逃げる野盗がいたら、捕まえていて欲しいな。もちろん、深追いは厳禁で」
「わかったわ」
「あぁ、しっかり野盗の動きを見ておこう」
数が多いとはいえ、野盗だから……魔法を使う程の事はないだろうし、俺一人でさっさと倒してしまおう。
警戒すべきは、遠距離からの攻撃で馬車や馬に何かされる事だけど、それもエルサの結界を張っていればなんとかなる。
さすがに、俺一人で12人の野盗相手と考えた場合、手が追いつかずに逃げ出してしまう奴もいるかもしれないから、そっちや取りこぼして馬車に向かう野盗の事は任せる事にする。
まぁ、馬車に向かっても、エルサの結界があるから、野盗に抜ける事はできないだろうけど……念のためね。
「……どうしたの?」
「ちょっと、やる事があるから……ロータは馬車の中に入っててね。……エルサ、ユノ頼んだ」
「わかったのだわ。結界は任せるのだわ」
「わかったの!」
エルサを撫でていたロータを馬車の中へ。
一緒にエルサとユノも入れておき、結界の事やロータの事を頼む。
「マルクスさん、エルサが結界を張ってくれるので、大丈夫だろうとは思いますが……もしもの時はお願いします」
「エルサ様も結界をお使いに……さすがはドラゴンと言ったところでしょうか……。了解しました」
「私達は、結界の外で野盗達とリクさんの戦いを見ておくわ」
「うん、馬車に向かってきたり、逃げようとしていたらお願い」
「任せろ」
マルクスさんは馬の横で、一応の警戒。
エルサも結界を使える事に驚いてた様子だけど、本当は先に結界を使てたのはエルサなんだよなぁ。
モニカさんとソフィーは、エルサの結界の外で野盗達の動きを見る役目。
無理は厳禁だけど、逃がしたり馬車に向かって来た場合の対処を任せた。
これで、後は野盗達の到着を待つばかりだ。
んー……ちょっと遅れてない?
予想より近づいて来る速度が遅いんだけど……何でだろう?
反応を見る限りだと、もうそろそろ俺達を囲み始めても良さそうなのに、まだ野盗達が合流して12人になり、ここから少し離れた場所にいるな……。
「遅いなぁ……」
探査魔法で野盗達の動きを監視しつつ、一人呟く。
俺が一番最初に狙われるよう、警戒しているモニカさん達とは離れて、一人だけ突出している。
馬車から数十メートル南へ行ったところで、野盗達を迎え撃つつもりだ。
南側から近づいて来るから、多分最初に俺の方に近付いてくれるはずだしね。
馬車の方に向かおうとしたら、向こうが来なくともすぐに打って出よう。
そこまで考えて、一つ気付いた。
もしかして……野盗達は、俺達を見失ってるんじゃないか?
「あぁ、そうか……さっき監視の野盗を倒したから……」
監視は、獲物の現在地を報せる役目もあったんだろうと思う。
それがいなくなったから、野盗達は俺達が今どの位置にいるのかわからなくなって、動きが遅くなってしまっているのか……。
というより、仲間に随時報せるなら、最低でも二人いた方が良いんじゃないか? とは思うけど、森の中に慣れてる野盗達だ、何かしら連絡する方法があるんだろう。
それは今俺が気にする事じゃないけど……それが無くなったから、俺達を見失い、戸惑っているのかもしれない。
とはいえ、俺達が南下しているのは、最初の段階でわかっているはずだし、今も南から野盗達が固まって北上している。
いずれは俺達を見つけて襲い掛かって来るだろう。
とりあえず、今は我慢して待つかな……。
「お、来た来た」
考えていたよりも10分と少し遅れて、野盗達が俺の近くに来た。
当然ながら、その姿は俺からは見えない。
道にいる俺から見えないように、木の影や木の上に隠れながら移動してるようだ。
まぁ、探査魔法で動きは丸見えなんだけどね。
「さて、どう動くかな……?」
俺を発見した事で、さらにゆっくり動くようになった野盗達。
小さく呟いた俺は、探査魔法でその動きを捉えながら、どう動くのか様子を見る。
野盗達は、俺が一人で動いてる事に少し戸惑った様子だったけど、すぐに複数に別れて行動を始めた。
3人の組が4つ。
それぞれ、南を向いてる俺の右前方と左前方。
さらに右後方と左後方に分けて、俺を囲む。
後方に行った組は、馬車の方に行くのかと一瞬思ったけど、馬車と俺の中間あたりで様子を見ている。
……先に前方の奴らが俺に襲い掛かって、驚いてる間に、後方の野盗が馬車へ奇襲……かな?
「えーと、右後方の野盗が木の上……左後方が地上にいるのか……よし、決めた」
野盗達がジリジリと俺に近付きながら、包囲を狭めて来るのを確認しつつ、どう動くかを決めて呟く。
馬車に行かれると面倒だから、先に後方の野盗を攻撃する事にしよう。
開始の合図は……野盗達がやってくれそうだね。
「さすがに慣れてるだけあって、目視はさせないんだね。熟練? 野盗に熟練もなにも無いか……」
もう少し、もう少しと前方の野盗達が近づいて来る。
向こうは、俺が動かない事を不思議に思わないのだろうか?
それとも、足を止めてるのは好機と捉えてるのかもしれない。
森で活動しているのに慣れてるからか、こちらから目視されるような場所に来たりはしないけど、そのあたりの警戒が薄いのは、野盗らしいのかもしれない。
もしかすると、ロータの父を襲った事で、変な自信を付けたのかもしれないね……それなら、その自信をへし折らなきゃ。
前方の野盗は見えない……多分後方の野盗が俺を見て指示を出してるんだろう。
もし今、俺が振り向いたら、すぐに後方の野盗は身を隠して動きが止まるんだろうな……なんて考えつつ、野盗達からの合図を待った。
こうして待つのも、ちょっと焦れるから……早くして欲しいなぁ。
こっちに野盗の行動は筒抜けなんだから……とは思うが、向こうはそんな事知らないから、仕方ないか……。
そんな事を考えながら、道に佇んで野盗達からの動きを待っていると、左前方の木の葉がガサガサと大きく揺れた。
1
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる