291 / 1,903
依頼へは明日の出発
しおりを挟む「落ち着いた?」
「うん……ごめんなさい」
「ううん、良いのよ。辛かったものね……」
しばらく泣き続けたロータを皆で見守る。
涙が収まって来た頃に、優しく声をかける副ギルドマスターのミルダさん。
子供とか好きな人なのかもね。
「それじゃ、リク君への依頼は……ロータがいた魔物の討伐依頼ね。もちろん、討伐した魔物によっては、素材を買い取るわ。これは依頼とは関係のない部分だしね」
「野盗の方はどうなりますか?」
「ギルドは取り締まる機関じゃないから、排除すれば成功とみなされるわ。生き死には問わないという形ね。あと、国の機関に引き渡せば、それなりに報奨金が出ると思うわよ。特別報奨金がかけられてるようなのもいるから……引き渡すなら、国の方へお願いね」
「わかりました」
「王都との間で野盗と出会ったんだから……まずはそっちの方よね」
「ああ……ロータの父の無念を晴らさねばな……」
マティルデさんに軽く依頼の説明を受け、頷く。
小さい声でロータに聞こえないよう、父親の事をできるだけ思い出さないように、モニカさんとソフィーが話してるけど、俺も同じ気持ちだ。
野盗達がした事は、許せる事じゃないからね。
「それじゃ、さっき渡した依頼書の方は……どうするの?」
「そっちは……また帰って来てからにします。それでいいよね、モニカさん?」
「ええ。緊急性の高い依頼は無いという事だったし、軽く見た感じだと、今すぐ対処しないと誰かが被害に遭うような依頼は無かったようだからね」
「それに、あっちは他の誰かが依頼を受ける事もあるだろうが、こっちは私達くらいしか受けられない依頼だろうしな」
「リク君のパーティだからか、皆お人好しね……」
一度持って帰って決めると言った依頼書だけど、ロータからの依頼が舞い込んだため、マティルデさんに返す事にする。
しまってあった依頼書を、モニカさんとソフィーが取り出して、マティルデさんに渡した。
それを受け取りながら、マティルデさんは苦笑しつつ言う。
まぁ、お人好しと言われても、父親を亡くして泣いてる男の子を放ってはおけないからね。
「それじゃあ……出発は明日かな?」
「そうね。日帰りできる事じゃないから、準備も必要だし……明日ね」
「その間、ロータはどうする?」
「城に連れて行こうかと思ってるけど……」
「リク君、さすがにそれは止めておいた方が良いわよ?」
「え、どうしてですか?」
出発は明日。
ロータは、依頼金も含めてお金は父親が持っていたようだから、宿に泊まるお金もないだろう。
だからというわけでもないけど、必死に王都まで来たために、汚れている衣服や体を城でお風呂にでも入って綺麗にしてあげたい。
顔や髪も、土が付いてボロボロだしね……涙の跡も綺麗にしないと。
そう思うんだけど、マティルデさんに止められた。
どうしてだろう?
「……リク君……今日ここまではどうやって来たか覚えてる? 普通の人が使える道じゃないでしょ? ロータが他人に言いふらすとは思わないけど……知っている人は少ない方が良いと思うわ」
「……そう言われれば……確かに」
城の地下通路を通ってギルドまで来たのを忘れてた。
外から侵入されても、迷って城まで辿り着かないようにできてるけど……知っている人は少ない方がいいか。
でも、それなら俺達が城に帰ってる間、ロータはどうしよう?
俺達は、まだ町を普通に出歩ける状態じゃないしなぁ……。
「それなら、私が世話をしますよ。1日程度ならなんとでもなりますから!」
「ミルダ、良いの?」
「ええ。こんな男の子を、王都のそこらに放り出したりなんてできませんからね」
という事で、ロータの面倒は明日までミルダさんが見る事になった。
ちなみに、ミルダさんに対してロータが「おば……」と呼ぼうとした瞬間、目にも止まらぬ速さでミルダさんの右手がロータの口を塞いだ。
「お姉さんでしょ?」とロータの耳元で囁くミルダさんは、正直怖かった。
……結構強めにロータの顔を掴んでたけど……トラウマにならないと良いなぁ……。
ロータくらいの年なら、ミルダさん……見た目的には20代の女性がそう見えてもおかしくない。
俺の口も塞がれる可能性があるから、口には出さなかったけどね。
「すみません、城までお願いします」
「はっ!」
あの後、マティルデさんに見送られて、ミルダさんがギルドの受け付けの様子を見てから、コソコソと外へ出た。
運良く人通りが少なく、何の問題も無く地下通路へとつながる民家へ戻る事ができた。
中にいる兵士さんにお願いして、城まで案内してもらいながら、地下通路を通って城へと帰る。
魔法を無効化する物なんて持ってないし、それがなくとも道順を覚えてないから、案内がないと絶対迷ってしまうからね。
ちなみに、明日は昼前あたりに南門を出た所で、ロータと合流という事になった。
ミルダさんがそこまで連れて来てくれるそうだ、ありがたい。
南門前で、と最初は考えていたんだけど、出入りする人が多いから、俺達が見つかって人に囲まれると混乱する……という事で、外に出てからとなった。
……それは良いんだけど……外に出るのはどうしよう?
「帰りました」
「お帰りなさいませ、リク様。無事、ギルドへは?」
「はい、辿り着けました」
「そうですか。昼食の方は如何致しましょうか?」
「あー……まだ食べていないので、お願いできますか?」
「はい、畏まりました」
部屋に戻り、ヒルダさんに挨拶する。
地下通路の往復で結構な時間が経っていたのと、わりと長い時間マティルデさんやロータと話してたみたいで、すっかり昼も過ぎてしまってる。
夕食まで我慢しようかと考えたけど、帰りの地下通路を歩いてる時から、エルサとユノが空腹を訴えていたので、お願いする事にした。
「明日の準備だけど、どうする?」
「この前キマイラ討伐に行った時の物があるから、宿に戻って荷物をまとめるだけで大丈夫よ」
「エルサのおかげで、最低限の行程で移動できたからな。消耗品も不足していない」
「それじゃ、明日は問題なく出発できそうだね」
ソファーに座り、明日の事についてモニカさん達と話す。
前に王都から出た時は、予想よりも早く帰って来たから、駄目になった道具もなく、特に買いに行かなくても不足はないようだね。
買いに行かないと……となったら誰かに頼まないといけないだろうから、良かった。
「あぁそうだ。フィリーナとアルネはどうするの? 連れて行く?」
「どうしようか……あの二人は冒険者じゃないからなぁ……」
「戦力になるのは間違いないんだがな。私とモニカが前衛で、あの二人が後ろから魔法というのは、バランスが良い」
「そうなんだよねぇ」
って、俺とユノがソフィーの考えの中に入ってないんだけど……。
ユノは前衛で、俺は魔法も剣も……と考えてればいいか。
パーティを組んだ時、俺は遊撃で状況を見て……って言われてたしね。
「あの二人がついて来たいと言えば、一緒に行く……で良いかな?」
「そうね。本人達の考え次第ね。……ついて行きたいって言いそうだけど」
「ともあれ、あの二人は今宿でゆっくりしている。それを邪魔するのも悪いしなぁ……明日までに話す機会がなかったら……仕方ないか?」
「そうだね。まぁ、誰かに頼んで連絡をする事もできるだろうけど、ゆっくりしてるなら邪魔したくないね」
結論として、二人と話す機会があって、ついて行くと言えば連れて行くという事になった。
冒険者じゃない二人だから、こちらから働きかけて巻き込むのも何か違う気がする。
今回は報酬に期待できないだろうし……二人が報酬を期待して動いてるとは思ってないけどね。
1
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる