上 下
266 / 1,903

花火のイメージと馬の練習

しおりを挟む


「火が飛び散る……円形が良いかな。まぁ、花火だし……花のイメージで……明日にでもこの世界の花を見せてもらおう」

 この世界の花をじっくり見た事がないから、花のイメージが中々できない。
 日本の花で良いのなら、すぐにできるんだけど……この世界に住む人達が見るんだから、馴染みのある花の方が良いだろうしね。

「色は……赤だけじゃなくて、青や緑とかかな? これも、花を見せてもらってから決めよう」

 色も花に合わせるのであれば、花の観察をした後に決めた方が良いだろうね。

「あとは、変わり種で人の顔とかも良いかな? いや、文字か? あーでも、この世界の文字は詳しくないからな……」

 日本語で書かれても、この世界の人達は読めないだろう。
 読めるのは姉さんくらいかな?
 以前何の気なしに聞いたけど、この世界に来る時、魂にこちらの世界の文字を刷り込んだらしく、読む事はできるようにしてくれていたらしい……それが無かったら、ヘルサルの獅子亭で店員募集がわからず、今頃どうなってたか……。
 それはともかく、書く事はまだ完全じゃないから、文字を花火で表現はまだ難しそうだ。

「かといって、誰かわからない人の顔を花火で上げてもなぁ……?」

 誰でも知ってるような人の顔……なんてのがあればいいんだけど、この世界じゃテレビも無い。
 写真も当然無いのだから、人の顔は伝わりにくいだろうね。

「……いや、待てよ……一人だけ知名度があって顔が知られてる人物がいるな……」

 パレードの時集まるのは、多くがアテトリア王国の人々だ。
 他の国から来た人もいるだろうけど、この国に住んでる人の方が多いのは当然か。
 だから、その中でよく知られてる人というのは、一人しかいない。
 確か、即位する時にパレ―ドをやったって言ってたしね。

「姉さんの顔を花火にしよう。……いや、前の世界じゃなく、この世界での姉さんだな」

 俺にとって、馴染みのある姉さんの顔といえば、まだ俺の姉だった頃の姉さんだ。
 でも、この国の人達に知られてるのは、今の姉さんの顔……当然そっちをイメージしないといけない。
 まだちょっと慣れて無い姉さんの顔だけど……明日にでも観察してイメージを固めよう。

「とりあえず、こんなところかな?」

 花火魔法が炸裂した時のイメージは、色々見て明日以降に決めるとして、入念に火や煙、炸裂条件や打ち上げのイメージを固める。
 完ぺきとは言い難いかもしれないけど、明日以降にまた考えて、ちゃんとした魔法イメージを固めれば良いだろうと思う。
 根を詰め過ぎてもいけないしな……イメージが大事だから、じっくり考えたい。
 あと、線香花火で試しに使う事もしてみたいしな。
 試してイメージを変える部分も出るかもしれないし……ともかく明日にしよう。

「さて、そろそろ寝るか……」

 花火のイメージを切り上げて、寝るためにベッドへと入る。
 結構長い時間集中して考えてたみたいで、時間も大分遅くなってしまった。
 明日もまた、パレ―ドのための準備……というより、主に馬に乗る練習があるから、寝不足にならないように気を付けないと。

「ぐぅ……スピー……だわぁ……」
「ぐっすり寝てるな……」

 寝ているエルサの隣、モフモフを堪能しながらゆっくりと目を閉じ、就寝した。


――――――――――――――――――――


 翌日の朝、朝食後に皆が集まったくらいに、ハーロルトさんが書類を持って部屋を訪ねて来た。

「リク殿、これがパレードの行程になります。皆様の分もありますので……」

 持って来てくれたのは、昨日宰相さんが言っていた書類だ。
 俺だけじゃなく、モニカさん達も分もあって、それを皆に渡す。

「私のもあるの!」
「ユノの分まで。ありがとうございます」
「いえ、ついででしたし。ユノさんにも、パレードには参加してもらいますからね。ユノさんの剣の腕前は、この年頃とは思えない程でしたからなぁ」
「ははは……」

 さすがにエルサの分は無いが、ユノの分はあるようだ。
 まぁ、俺がワイバーンと戦ってる間に、城に押し寄せて来る魔物の対処を、モニカさん達と協力してやってたからだろうと思う。
 剣の扱いに関しても、軽々と魔物を切り刻むのだから、ハーロルトさんの言う事もわかる。
 ……俺の魔法で、魔物達に囲まれるような場所に飛ばされてたけど。

「これで、行程の確認ができるわね」
「口頭で伝えられただけだと、忘れる事もあるからな」

 早速書類を見て、昨日伝えられてた事の確認をする。
 全員の分の書類を、昨日から今までの間に用意するのは、苦労したんだろうなぁ。
 この世界にコピー機を始めとした、印刷機なんてないだろうしね……実際書類も全て手書きだし。

「わざわざありがとうございます。貴族の方達にも渡したんですか?」
「それはこれからですね。私の部隊の者が渡す手筈になっております」
「ここには、わざわざ隊長さんが届けに来てくれたのね?」
「まぁ、私はこれからリク殿が馬に乗る練習もありますからね。これも、ついでです」

 皆がそれぞれ書類を見て行程を確認する中、俺にはゆっくり確認する時間はないようだ。
 馬に乗る練習もあるから、仕方ないか……後で、暇な時間を見つけて覚えておこう
 ハーロルトさんに連れられ、今日もまた馬に乗る練習のために場所を移動する。
 昨日と同じ場所で、同じ馬だ。
 また馬を怯えさせてはいけないので、途中でエルサはモニカさんに預けた。

「リク、馬のたてがみより私の毛の方が良いのだわ……」
「ははは、それはそれ、これはこれ……だよ」

 俺が、馬のたてがみを褒めた事を気にしてるエルサを撫でて宥め、離れて馬の所へ行く。
 そこからしばらく、昼食の時間を挟んで馬に乗る練習をした。

「これだけできれば、十分でしょう。パレードでは、この馬で出てもらいます」
「ハーロルトさんが、しっかり教えてくれたおかげですよ。それに、この馬ならおとなしくて安心ですね」

 パレードには、練習の時に使った馬をそのまま使うらしい。
 他の馬よりも大きいから、見栄えが良いのかもしれないね。
 それに、練習で何度も乗り降りしたりして接してるから、お互い慣れて来たところなのでちょっと嬉しい。
 これで本番が違う馬とかだと、初めて乗る馬に不安を感じる所だった。

「でもリクさん、まだ完全に乗りこなせるわけじゃないわよね?」
「まぁね……ちょっと怪しい所もあるかな……?」
「馬に乗って戦うわけではありませんからね。移動もゆっくり歩くだけですから。パレード用と考えると、十分でしょう」

 馬に乗って走るくらいはできるようになったけど、まだ全速力を出せる程じゃない。
 それに、走りながら曲がる……というのが難しいんだよなぁ……歩きながらなら、問題なく落ち着いて曲がれるんだけど。
 でもハーロルトさんお言う通り、走って移動したり、戦うわけじゃないから、パレードのためならこれで良いんだろう。
 またいつか、時間がある時にでもちゃんと乗れるように練習すれば良い事だしね。
 ……その時は、またこの馬に乗れると良いな。

「リク様……」
「ヒルダさん? どうしたんですか?」

 馬を厩に連れて行くハーロルトさんを見送り、帰って来るのを待ってると、ヒルダさんが入れ替わりで俺のところに来た。
 夕食には早いけど、どうしたんだろう?


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...