259 / 1,903
鎧を着て皆の見世物になる
しおりを挟む「陛下もいらっしゃったんですね?」
「お、モニカちゃんに皆も。こっちにいらっしゃい、皆でりっくんを着せ替えしましょ?」
「着せ替えってさ……」
俺はともかく、他の皆は姉さんに呼ばれたら断れない。
自覚してるのかはわからないけど、姉さんは女王様だからね。
そんな姉さんに呼ばれ、俺以外の皆は用意されていたテーブルについて、姉さんと話し始める。
話の内容は、さっきの馬に乗る練習の事が主みたいだ。
「リク様、こちらへ」
「……はい」
姉さんと皆の会話は少し気になったけど、俺はヒルダさんに連れられ、部屋の隅に。
そこには、カーテンで仕切られた場所があり、そこで着替えるのだと思われる。
……もしかして、俺のためにこの部屋を用意したのかな?
「カーテンの向こうに、いくつかの鎧が用意されております。右から順番にお願いします」
「……わかりました」
いくつも用意されてるんだ……しかも順番まで指定されて……姉さんの関与を感じるね。
ちなみにエルサは、俺の着替えに付いて来ても何も楽しくないからか、今は姉さんに抱かれてる。
兜とかを着用する必要があったら、エルサがくっ付けないから、仕方ないか。
「えーっと、右から順番に……って、これは……」
カーテンをくぐってその先へ。
そこには鎧が数個用意されており、全部着るのは少し面倒だなぁと感じてしまう。
まぁ、パレードのためだと思って我慢しようと、指定された順番の鎧を着ようと一番右に置いてある鎧を見た。
それは、さっきも思い出したような金属でできたプレートアーマーだ。
「……これ、着るの? まぁ、仕方ないか」
皆に笑われない事を願いつつ、鎧と一緒に用意されていた服を着る。
確かこれは、こすれや衝撃を吸収したりする素材でできていて、プレートアーマーと一緒に着るものだったはずだ。
ギャンベゾン……だったかな?
エリノアさんの店で鎧を試着した時に、一緒にこれも着て説明してもらった覚えがある。
早い話がインナーシャツのようなものだね。
「あとはこの鎧を……んー、ヒルダさん?」
「はい、どうなされましたか?」
「これ……一人で着れないんですけど……?」
「畏まりました。お手伝いさせて頂きます。お入りしても?」
「お願いします」
服はもうギャンベゾンを着ているから、ヒルダさんに見せても大丈夫だろう。
……男の着替えなんて、見ても何も楽しくはないだろうけど。
フルプレートが一人で着れない俺は、カーテンの外で待っていてくれてるヒルダさんに声をかけ、手伝ってもらう事にした。
エリノアさんの店では、エリノアさんやソフィーに手伝ってもらったなぁ……。
「ん……やっぱり結構重いですね……」
「ご立派でございますよ」
「ははは、そうですか?」
手伝ってもらい、何とか着れたフルプレート。
鏡が無いから、自分の全身を客観的に見れないが、ヒルダさん曰く立派だとの事。
……お世辞だろうけどね。
「最後はこれですね」
「……兜ですか」
「はい。これで完全に防御ができる鎧の完成です」
鎧と一緒に置いてあったからわかってはいたんだけど、やっぱり兜も着用するんだね……。
金属の籠手をガシャガシャと鳴らしつつ、ヒルダさんから兜を受け取って被る。
前面と後面に別れてつなげる構造のため、これも一人では被れないので、全面を顔に当てて固定しているうちに、ヒルダさんが後面を取り付けて固定。
これで、頭から足先までのフルプレートアーマ―の着用は終了だ。
「……ちょっと前が見にくいですね」
「頭や顔は急所ですからね。視界が奪われる部分もありますが、防御には必要です」
ヒルダさんの説明はもっともなんだけど、視界が悪く、鎧自体が重いせいか動きにくい。
これを着て、機敏に動ける人ってすごいなぁと思うよ、ほんとに。
「では、皆様へのお披露目です。行きましょう」
「……はい」
俺の全身を見て、納得したように頷いたヒルダさんが先にカーテンの外へ。
「皆様、リク様の準備が整いました。まずは第1の鎧です」
「りっくん、格好良くなったかしら?」
「ちょっと期待しちゃいますね」
「……以前見た時は、あまり似合ってないように感じましたが……」
「リクの鎧姿ねぇ……皮の鎧を着ているのなら、いつも見てるけど」
「軽装の方が動きやすいからだろうな。まぁ、魔法が得意なエルフもそう変わらんが……」
ヒルダさんが先に皆の所へ行き、着替えが終わった事を報せる。
姉さんを始めとして、皆俺の登場を期待してるようだけど……ソフィーも言ってるように、以前エリノアさんの店で来た時は、あまり似合ってるとは思えなかったんだよなぁ……。
皆の声を聞きながら、少し緊張しながら金属鎧をガシャガシャと言わせながら、皆の待っている場所へと移動する。
「……似合ってる……わよ?」
「リクさん、立派なフルプレートね」
「……エリノアの店より、鎧は立派だな」
「重そうだけど、騎士たちが着てる鎧そのままね」
「リクならこれくらい着て動けるだろうな。とても身軽には見えんが……」
「立派な鎧なの!」
「こんな物無くても、リクの防御は完璧なのだわ」
それぞれが感想を言ってるけど、俺に似合ってるかどうかは言ってくれないんだね……。
いやまぁ、自分でも似合ってるとは思わないけども。
鎧に関しては、城で用意されてる物だから、普通の店で売ってる物よりは良い物なんだろう……というのはわかる。
「りっくん……その鎧、どうかしら?」
「……やっぱりちょっと動きずらいね。重いし、視界が遮られてるし……」
「そう……やっぱりそうよね」
「これでパレ―ドに出るの?」
「それはりっくんに私が着て欲しかったから、用意した物よ。兜までしっかり着用してたら、民にお披露目の意味があまり……ね」
「……だったら着せないでよ……」
フルプレートは、金属でできているから、当然動きが阻害される部分がある。
想像よりは動きやすいような気はするんだけど、皮の鎧や、部分鎧と比べたらそうなるのは当然だよね。
金属だから重いし……。
慣れない事もあるんだろうけど、初めて着た時と違って、重さに負けて動けない……なんてことはないけども……。
というか、兜を着たら俺の顔すら出ないから、パレードでお披露目をするという意味がなくなってしまう。
顔を皆に見せたいというわけじゃないけど、これなら背格好が似ている別の人でも良さそうだしね。
「それでは、次の鎧を着用しましょう」
「……はい」
「頑張ってね、リクさん」
「りっくん、期待して待ってるわよー」
ヒルダさんに促され、またカーテンの所へ向かう俺。
後ろから、モニカさんの励ましと姉さんの気楽な声が聞こえて来た。
姉さんはともかく、モニカさんの励ましが少しだけ心にしみた……。
「はぁ……すみません、こんな事まで頼んでしまって」
「いえ、構いませんよ」
カーテンの中で、ヒルダさんに手伝ってもらいながら、フルプレートを脱ぐ。
真っ先に兜を外して溜め息を吐きつつ、ヒルダさんに謝る。
プレートアーマーは、着るのもそうだけど脱ぐのも一人では難しい。
慣れた人なら出来るのかもしれないけど、俺はまだ慣れて無いから無理だ。
金属の鎧のせいで、手が背中に回せないしね……。
1
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる