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燃やしたワイバーンの肉はエルサの食事

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「よし、これで最後だね」
「終わったのだわー」

 最後のワイバーンの皮を剥ぐ。
 俺の頭にくっ付きながら、エルサが声を上げてるけど……何もやってないよな?
 ともあれ、時間のかかったワイバーンの皮を剥ぎ取る作業もこれで終わりだ。
 俺は、剥ぎ取った後のワイバーンの肉を運んで木から離れた場所へ持って行く。
 一気に燃やすつもりだから、木に延焼したりしないよう、離れた場所でやるからね。

「リクさん、終わったの?」
「あぁ、終わったよ。そっちは?」
「こっちも、残ったワイバーンの肉を集め終わったところだ。それで最後だな」

 ワイバーンの肉を集めてる場所へ持って行くと、モニカさんに声を掛けられた。
 それに対し答えながら、集める方はどうなってるのか聞くと、ソフィーが答えてくれた。
 山のように積まれているワイバーンの肉……ちょっとグロいね……。

「今、新兵達に穴を掘らせている。燃やした後は、そちらに埋めて終わりだな」
「ヴぇンツェルさん、ありがとうございます。おかげで助かりました。俺達だけだと、今日中には終わらなかったですね」
「なに、これくらいはな。軍に所属する者達の防具が充実するのは、良い事だしな」

 新兵さん達へ指示を出し終えたヴェンツェルさんも、こちらへ近づきながら話して来る。
 皮を剥ぎ取った後の処理を考えてなくて、穴を掘る道具とかは持って来てなかったから、助かった。
 ソフィーなんかは、色々な物を準備していたようだから、持ってるのかもしれないけど、さすがに人数分は無かっただろうしね。
 一応、道具を貸してもらえれば手伝うとも言ってみたけど、燃やす作業に集中して欲しいというのと、未熟な新兵を鍛えるのにちょうど良いとかで断られた。
 穴を掘る作業は、トレーニングにも良いんだそうだ。

「さて、それじゃあ魔法を使うよ。皆下がって」
「念のため、私も離れるのだわー」
「おっと。エルサちゃん、相変わらずモフモフねー?」

 魔法を使うために、皆に離れるように言うと、巻き込まれるないようエルサも俺から離れた。
 一度使った事のある魔法だから、やり方も魔力調節もわかってるし、巻き込まれる事は無いはずなんだけどなぁ。
 エルサは、ふわりと浮かんでモニカさんに抱かれてる。
 ……モフモフを触って嬉しそうなモニカさんが羨ましいなんて思ってないよ、うん。

「さて……と」
「いよいよリク殿の魔法か。……初めて見るな」
「きっと驚きますよ?」
「驚くを越えて、呆れるかもしれません」

 俺の後ろでヴェンツェルさんとモニカさん、ソフィーが話してるけど、呆れるまでは行かないんじゃないかなぁ?
 ともあれ、イメージを思い浮かべて集中。
 ボスキマイラの時より少しだけ魔力を多めに使って……。

「……ウィルオウィスプ」

 ワイバーンの肉が山となって積まれている所へ向かって手をかざし、魔法を発動。
 ゆっくりと火が燃え上がって、手の前に人間の頭くらいの炎ができあがる。
 その炎は、ゆらゆらと揺らめいて、俺からの支持を待っているようにも見える。

「あれがリク殿の魔法? 炎はそれなりに大きく見えるが……飛んで行って爆発をしたりはしないんだな……?」
「驚くのは、これからですよ」
「……ワイバーンの所へ行って、燃やし尽くしてくれ」

 後ろで聞こえるヴェンツェルさん達の会話は無視して、呼び出したウィルオウィスプに指示を出す。
 一度、大きく炎が揺らめいた後、ワイバーンの方へ向かって飛んで行った。
 多分、頷いたとか、そういう事なんだろうと思う。

「うぉ!」

 俺の出したウィルオウィスプが、ワイバーンに触れた瞬間……山になったワイバーンの肉へ激しい炎が上がり、燃え始める。
 その勢いに、後ろでヴェンツェルさんが驚いた声を上げた。

「……結構、いい匂いがするんだな」
「……今日の夕食は、肉料理にしましょう」
「そうだな。肉が食べたくなって来る匂いだ」
「エルフは、肉より野菜の方が好みなのだけど……この匂いはね」
「そうだな。エルフすら、肉への食欲を誘う匂いだ」

 山になってるワイバーン全てが燃えて行く様を見つつ、焼かれて行く肉が良い匂いを発し始めた。
 俺もそうだけど、皆も食欲をそそられたようで、肉料理を食べたくなってるみたいだ。
 焼肉って、肉を焼いてる時から、良い匂いでお腹が減るよね……嫌いな人もいるかもしれないけど。
 ……というか、ワイバーンの肉って食べられないのかな……?

「まさか……あれだけの物を、こんなにあっさりと燃やすとはな……」
「全て燃やしつくして灰に……とは行きませんでしたけどね」

 しばらく肉の焼けるいい匂いと一緒に、燃え盛る炎を見つめ、火が消えた頃にヴェンツェルさんが話しかけて来た。
 声を聞きながら、燃えた後のワイバーンだった物を見ると、灰になってるの部分もあるけど、さすがにほとんどが焼け焦げただけだ。
 まぁ、灰にするなら、もっと火力がないとね……とは言え、これでも十分だろう。

「さて、少し冷ましたら皆で掘ってもらってる穴に埋めよう」

 今はさすがに、熱くて触れられないだろうしね。
 焦げた肉はの山は、何もしていない時の半分以下になってるから、運ぶのも埋めるのも最初に比べるとかなり楽になってるはずだ。

「おいしそうだわー」
「……エルサ、ワイバーンを食べるの?」
「ワイバーンは、人間には食べられないはずだけど……エルサちゃんは食べられるのかしら?」
「ワイバーンは体内に毒を持っているからな。人間が食べたら大変な事になってしまうが……」

 俺の頭へと飛んできながら言うエルサに、皆首を傾げる。
 さっき食べられるのか疑問に思ってたけど、どうやら体内に持ってる毒のおかげで、人間には食べられない物のようだ。
 ……いい匂いだったから、食べられそうだったんだけどね。

「ワイバーンなら、生でも食べられるのだわ。以前はよく食べてたのだわー。キュー程美味しくはないのだけどだわ」
「……そうなんだ」
「じゃあ……食べる?」

 俺と出会う以前の事なんだろうけど、エルサはワイバーンの肉を食べた事があるようだ。
 ワイバーンを生では、さすがに食べる気はしないな……。
 でも、結構焦げてる部分が多い……というよりほとんど焦げのようになってるけど……大丈夫かな?

「リク殿、埋める穴の準備ができたようだ」
「あ、ヴェンツェルさん。ちょっと待って下さいね」
「どうした?」
「いえ、エルサがワイバーンを食べたいらしくて……」
「食べるのだわー」

 新兵さん達の様子を見に行ったヴェンツェルさんが戻ってきて、埋める穴の準備ができたらしいけど、その前にエルサだ。
 俺の頭から離れて、ふわふわと飛びながら焦げたワイバーンの塊に近づいて行く。
 端っこの方を、口を開けて齧り付くのを、ヴェンツェルさんも含め、皆で見守る。
 ……焦げだから、普通の肉で考えると苦そうだけどなぁ。

「……モキュモキュ……美味しいのだわー。ちょっと苦いけど、生で食べるのより美味しいのだわー。生はちょっと臭いのだわ」
「……美味しいのか……」

 生で食べると臭いらしいワイバーンだが、焦げた肉は苦みはあれど、それよりは美味しいらしい。


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