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お正月特別編特別編 福笑いで初笑い
しおりを挟むこのお話は、お正月特別編となります。
本編とは一切の関係が無い、おまけ的な内容になっておりますので、ご了承下さい。
登場人物の発言が本編とかけ離れている場合もあります。
「明けましておめでとうなのだわー!」
「おめでとうなのー!」
「ごふ!」
寝ていた俺が、突然の衝撃と痛みに襲われる。
何なんだ一体……。
「よくあれで生きていられるわね……」
「私だったら二度と目覚められそうにありません」
「私もだ」
「……かわいそうに」
「ドラゴンの契約者とは、過酷なものなのだな……」
痛みに悶絶していると、近くから聞いた事のある声がいくつもする。
もしかして皆いるのかな?
「いてて……」
「おはよう、りっくん」
「おはようリクさん。災難だったわね」
「姉さん、モニカさん?」
頭突きしてきて顔に張り付いたエルサを引っぺがして目を開けると、姉さんとモニカさんが声を掛けて来た。
よく見ると、他の皆も勢揃いしてる。
「どうしたの、皆で……?」
「正月よ、りっくん。いつまでも寝てちゃもったいないわ」
「正月……そういえばそうだね……昨日も散々騒いだし……」
昨日……というより昨夜。
年越し宴会とか言って俺の部屋で、皆飲んで騒いで大変だった。
年を越した事を忘れて皆騒ぐだけ騒いでたなぁ……おかげで寝るのが遅くなった……まぁ、楽しかったから良いんだけどね。
とは言え、それだけ騒いでも皆はまだ騒ぎ足りないらしく、俺の部屋に集まって何をしようとしているのか。
「正月なのは良いけど……ユノとエルサを使ってこんな起こし方は止めて……死ぬかと思った……前にも言ったよね、モニカさん?」
「今回は……私じゃないわ」
「……んー、まぁここまでとは思わなかったのよね……ごめんね、りっくん」
「姉さんの仕業か……」
「起きたのだわ、リク!?」
「起きたのー!」
「はいはい、起きたよエルサ、ユノ」
今回は以前と違い、仕掛けたのは姉さんだったらしい。
全力でお腹に足から飛び乗るユノと、全力で頭に頭突きをするエルサ。
これ、俺じゃ無かったら二度と目覚めないくらいの衝撃だぞ?
「起きたかリク」
「まぁ、なんとか。おはようございます」
ベッドから体を起こし、皆に朝の挨拶。
「そうじゃないでしょ、りっくん。今日は元旦よ? 年始の初めは決まってるじゃない」
「……あぁ、そうだね。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「「「「「明けましておめでとう。今年もよろしく」」」」」
「あけおめなのだわ。今年ものんびりよろしくなのだわ」
「あけおめーことよろー」
ベッドの上だから不格好だが、その上で一応正座をして皆に向かって新年の挨拶。
皆も同じように新年らしい挨拶で返して来る。
けど、エルサもユノも、もう略すことを覚えたんだな……ユノに関しては、日本に遊びに来てる時に覚えたのかもしれないけど。
「それで、何をするの?」
「正月と言えば、福笑いよ!」
挨拶も終え、寝起きの支度や諸々を済ませて、皆でソファーに座っている。
その中で、何をするのか聞くと、姉さんは当然とばかりに福笑いを出した。
確か、人の顔をバラバラにして、目隠しをした人がそれぞれのパーツを正しく置こうとする。
当然、目が見えないから顔のパーツはバラバラで変な顔になる。
それを皆で見て笑って新年を始めよう……という遊びだったかな……最近やってる人がいるのかは知らないけど。
「福笑いってなんですか?」
「初めて聞くな……面白いのか?」
「私達も初めてね」
「長く生きるエルフでも、聞いた事の無い遊びだな」
「そうねぇ、まずは皆に福笑いが何なのかを教える必要があるわね」
福笑いはこの世界では無い遊びなのか、姉さんと俺、ユノとエルサ以外は不思議顔だ。
エルサは俺の記憶から知ってたんだろうな。
俺と姉さんが皆に福笑いというのを説明する。
何故かその中で二人羽織のをして福笑いを……と姉さんが言い始めたけど、あれは喜劇であって福笑いのためにやるものじゃない。
「成る程ね、やり方はわかったわ」
「うむ。だがそのバラバラにする人の顔というのがな」
「リク達の世界では、野蛮な遊びが行われているのね」
「さすがにそのような遊びはためらってしまうな……」
「え?」
説明を終えた段階で、福笑いの事を知らなかった人達が戦慄するように、こめかみから汗をたらしている。
もしかして、変な勘違いをしてる?
「バラバラにするために人を狩って来るの! ヴェンツェルあたりで良い?」
「待て待て待て! ユノ、人を狩っちゃだめだ!」
「それじゃあ、魔物でも狩るのだわ。……オークは豚顔だからだわ……オーガとかなら人間に近い顔だから福笑いが出来るのだわ?」
「いやいやいや、魔物だから狩っても良いけど、福笑いはそんな誰かを犠牲にする遊びじゃないから!」
ユノはヴェンツェルさんに何か恨みでもあるのだろうか……もしかすると暑苦しいのが嫌いとかかもしれないが……。
そうだとしても、人を狩ったりするのは駄目だ。
魔物なら狩っても良いだろうとはいえ、そんな血生臭い遊びは嫌だ。
正月からめでたいとか、縁起が良いとか、そういった事からかけ離れ過ぎだろう。
「でも、それならどうするの?」
「……魔物なら、私も協力できると思ったのだが」
「意外に皆乗り気だったんだね……」
ヴェンツェルさんなのか、魔物なのか、どちらを狩るのが乗り気だったのかは……聞かない方が良いかもしれない。
筋肉に包まれた暑苦しい人は、女性には不人気なのかもしれないな……。
「福笑いはそんな事をしなくても、簡単にできるわよ。ヒルダ、紙とペンをお願い」
「畏まりました」
「かみ? 神ならここにいるの!」
「ユノちゃん……神様じゃなくて紙ね。そんなネタじゃきょうびの若い子達は笑わないわよ?」
「むぅ……もっと勉強するの」
姉さんに頼まれて、ヒルダさんが紙とペンを用意してるのは良いんだけど、ユノは何を目指しているのだろうか……?
文字ならまだしも、確かに紙と神……さらに髪と加えて同じ読みをするものだから、紛らわしいのはわかるけど……それに、若い子達は笑わないってなんだよと思う。
「どうぞ、こちらです」
「ありがとう。それじゃ皆、ここに誰でも良いから人の顔を描いてちょうだい。できるだけわかりやすい方がいいわね」
「わかりました」
「了解だ」
「わかったわ」
「わかった」
ヒルダさんの用意した大きめの紙とペンを、それぞれ1枚ずつ皆に渡し皆にそれぞれ人の顔を描いてもらう。
しばらくの間、全員が無言で紙に向かってお絵かきタイムだ。
俺? 俺は絵に自信が無いから今回は描いていない。
俺が描いたら福笑いに使えない人の顔が描き上がるからね。
「出来たわ!」
「私もだ!」
モニカさんとソフィーさんが最初に描き上げ、テーブルに顔を描いていた紙を置く。
「どれどれ……ぷっ!」
「……えーと……これは……?」
「リクさんの顔よ。見ればわかるでしょう?」
「私もリクだ」
描かれている絵を見て、姉さんはすぐに吹き出して明後日の方向に顔を向ける。
俺は笑わなかったけど、その代わりに何となく予想が付きつつも、二人に尋ねると案の定俺の顔だと言う。
……俺って、皆からこんな顔で見られてるのかなぁ?
その顔は、輪郭からして線がぶれてはっきりしておらず、顔にあるはずのパーツも所々ズレていたり大きすぎたり小さすぎたりと、とてもじゃないが人の顔として見れるものじゃない。
これは福笑いとしては使えないな……二人共、俺と似たような絵のレベルで、ちょっとだけ安心感。
「私もできたわよ。ほら、リクの顔」
「俺もできたぞ。こちらも同じくリクの顔だ」
皆、俺の顔ばかり描いているのか……。
それはともかく、フィリーナとアルネの絵だ。
先に描き上げた二人よりは、ちゃんと人の顔に見える絵で、多少崩れて見える所はあるけど、一応俺の顔だとわかるような絵だ。
「悪くはないんだけど……これじゃ福笑いとしては使えないわね……」
「そんな……」
「駄目だったか……」
何故かエルフの二人は試験にでも落ちたかのような落胆を見せる。
もしかすると、結構自信があったのかもしれない。
「できました。どうでしょうか?」
「……えーと、ヒルダ……これは何?」
「え? リク様の顔ですが……?」
ヒルダさんまでも俺の顔を描いていたみたいだ。
だけど、その絵はモニカさんとソフィーさんに輪を掛けて酷く、とてもじゃないが人の顔には見えない。
……むしろ、新しい魔物にすら見える程だ……。
自分の顔でこんな絵が描かれるのは、ちょっと微妙な気分だね。
「ヒルダ……さすがにこれは無いわ……」
「そんな……自信があったのに……こんなに格好良いじゃないですか」
「……ちょっとヒルダの美的センスについて、後でじっくり話し合う必要がありそうね」
「出来たの!」
「出来たのだわ!」
ヒルダさんのセンスについては姉さんに任せる事にして、鼻歌を口ずさみながら、ペンを持って描いていたエルサとユノが同時に描き上がったようだ。
というかエルサ……犬や猫に近い手をしてるのにペンを持てたのか……?
「これは……」
「何ですって……!」
「恐ろしい子達……!」
「芸術とはこの事か……」
「何でなの、これを見ていたら涙が……」
「凄いな、ユノもエルサも……」
絵を描き上げ、テーブルに置かれた紙を皆で見る。
まずはエルサの書いた絵だ。
こちらも皆と同じく俺を描いたらしく、写実画のように精巧に描かれた俺の顔がそこにあった。
ペン一つで良くここまで描き込んだと思える出来だ、素晴らしい。
ユノ方はというと、何故か裸の俺が描かれている……というか、俺、いつこんなポーズをとったんだ?
隠すべきところはしっかり隠れているけど、裸でポーズを決めて描かれている俺を見るのは恥ずかしい。
……というかこれ、福笑いとかで使えないだろう……油絵とか芸術作品みたいな出来になってる……。
ペン一つでというのもあるけど、この短時間で良くここまで描き込めたものだと思う。
「ユノ……エルサもだけど……残念だけどこれは使えないね」
「そうねぇ……出来は良いんだけどねぇ」
「何でなのだわ!?」
「頑張って描いたのに!」
福笑いに使えない事に驚く様子のエルサとユノ。
当然だろう……この絵を切ってバラバラにして、それを使うなんて出来そうに無い。
特にユノの絵は……体も描き込まれてるからね……モニカさんにフィリーナ……そんなに食い入るように絵を見ないで欲しい……ユノが描いた絵とはいえ、さすがに恥ずかしいんだけど……。
「上手く描き過ぎなのよね」
「くっ! やり過ぎたのだわ」
「上手く描けたのに悔しいの!」
「もう少し簡素で良かったんだけどね」
「そんなに言うなら、そっちが描くのだわ!」
「そうなの!」
「「「「そうだそうだ!」」」」
姉さんと俺で、絵の品評をしていと、エルサが俺と姉さんにも絵を描くように言い出した。
それに追随するように、皆も声を上げている。
……ヒルダさんまで……。
「……いや、俺は絵がうまくないから……モニカさん達と同じような感じだよ……」
「それでもリクさんだけ描かないのはずるいわ!」
「そうね、リクも描くべきね」
「私は良いわよ。りっくんを描くわね」
「……わかったよ。描いてみるよ」
描かないように言い訳をしても、モニカさん達には通じない。
姉さんが描く事になり、俺も引けなくなってしまった。
渋々書く事に決め、何も描かれていない紙とペンを手に取り、絵を描き始める。
……苦手なんだけどなぁ……ほら、線がぶれたし……。
「リクさんは誰を描くのかしら?」
「さてな……?」
「えーと……目がこれで……鼻が……」
「何か難しい顔をしてぶつぶつ言ってるのだわ」
「真面目に描いてるの」
周りで何やら言われてるようだけど、とにかく出来る限り上手く描けるよう集中してペンを使う。
むぅ、またズレた……。
「……出来た……やっぱり下手だなぁ」
「まぁまぁリクさん。笑ったりしないから、見せてちょうだい?」
「……はぁ……はい、これ」
「「「「…………」」」」
出来た絵を、テーブルに置き皆に見せる。
まだ絵を描いている姉さん以外がそこに注目するけど、静まり返った事が何だか怖い。
「……どう……かな?」
「……えぇ、まぁ……その……よく掛けてると思うわよ……?」
「プッ! あはははは」
「何なのだわ! 何なのだわ! 何なのだわ!」
「面白いのー! 新しい生き物なのー!」
「これは……これは無いわ……くふ……はははは!」
「……我慢ができんな……くっ……あははははは!」
「……失礼します……くぅ…………ぶははははは!」
「皆笑ってるし……」
俺の絵を見た皆に、恐る恐る聞いてみる。
モニカさんは視線を逸らし、目に涙を溜めて笑いを堪えてるのは、多分笑わないと俺に言ったからだろう……そんなになるくらいならいっそ笑ってくれた方が良いかもしれない。
ソフィーさんは単純に笑ってるし、エルサは何なのだわと叫びながら笑い転げてる。
ユノは笑うというよりも、新しい生き物に見えてむしろ喜んでいるようだ。
フィリーナとアルネは、我慢しようとしてくれてはいるけど、堪え切れずに笑い始めた。
ヒルダさんに至っては、口を引き結んでこの場を離れ、風呂場の方へ行ったけど、その盛大な笑い声はここまで届いている。
「ほら、だから描きたくなかったのに……」
「まぁまぁ、リクさん。皆を楽しませたと思えば良いんじゃない?」
少し不貞腐れ気味の俺に、モニカさんがフォローしてくれるけど、それでも皆に笑われたのは納得がいかない。
自分でも上手く描けたとは思ってはいないけど……それでもね。
ちなみに、どんな絵を描いたのかは、言いたくないから詳しくは言及しない。
というか、自分で言うのもなんだけど、言葉で言い表せる絵じゃないからね。
「よし、描けたわ。……なんだか騒がしいわね?」
そんな騒ぎの中、一人集中して紙に向かっていた姉さんの絵が完成したようだ。
皆、笑っていた顔を引き締めて、姉さんがテーブルに置いた紙に注目する。
……ソフィーさんとフィリーナだけは、顔を引き締めるのに失敗して半分くらい笑ってたけど。
「……姉さん……趣味全開だね」
「これ……リクさんなのですか?」
「まぁね。絵を描く以上、自分のセンスは誤魔化せないわ」
自信満々に胸を張る姉さん。
その絵は、他の皆と変わらず俺なのはご愛嬌。
しかし、描かれた俺は完全に美化されており、目も大きく輪郭も補足なっているように見える。
……というかこの目……キラキラし過ぎじゃないかな……?
まるで少女漫画のヒロインが恋する男のようだ。
「さすがに美化され過ぎじゃないかなぁ?」
「絵なんてこんなもので良いのよ」
こんなものと言う姉さんだけど、さすがに美化され過ぎてて恥ずかしい。
俺はこんなにハンサムじゃないし、美形でもない。
目に星なんて入ってないからキラキラもしてないぞ。
ユノの描いた絵と同じく、こちらもこちらで恥ずかしい絵となったようだ。
「でも……これも福笑いには使えないよね……?」
「……そう言われればそうね……目的を忘れてたわ」
「リクさんのはもちろんだけど、これも確かに……」
俺の絵が使えないはもちろんだけど、姉さんの描いた絵も福笑いに使えそうにない。
少女漫画のような顔のパーツをバラバラにするのは躊躇われるのもあるけど……何故か横顔だしね。
姉さんは描く事に集中するあまり、福笑いのための絵だという事を忘れてしまっていたらしい。
横顔はさすがに使えないからね。
「まぁ、これはこれでいいかしら。皆楽しんだようだしね」
「んー、そう言われるとそうなのかもね。初笑い……という事に関しては皆笑ってたからね」
俺の絵が主な原因だけど、皆思う存分笑ったみたいだ。
ヒルダさんなんか、笑い過ぎてお腹を押さえてるし、モニカさんは我慢し過ぎて涙を流してる。
……ちょっと納得がいかないけど。
新年の初笑い、という事なら福笑いをするまでも無く達成されたみたいだ。
結局福笑いをすることなく、皆笑い疲れで何かをする気力もなくなり、正月はのんびり過ごす事になった。
皆と笑い合える正月、それだけで特別な事をしなくても楽しいものだよね。
……ユノが描いた裸の俺の絵といい、俺が描いた絵といい、何だか俺だけ損してるような気分だけど……きっと気のせいだな、うん。
そういう事にしておこう。
「次は凧揚げかしら?」
「それ、絶対誰かが糸が切れたり風に乗り過ぎたりで、どこかへ飛んで行くよね?」
「アルネあたりを飛ばしたいの!」
「やめてくれユノ!」
凧揚げの提案は、アルネの懇願により行われる事は無かった。
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