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ショックを受けるヴェンツェルさん

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「小さいからか、回転する事くらいは問題無さそうだな」

 回転し、バランスを維持しているユノに対し、すぐにそれが実行できた事をヴェンツェルさんが驚きの表情をしているが、すぐに顔を引き締めて防御を固めた。
 ユノが只者じゃないと油断をするのを止めたようだ。
 じりじりと近づいて行くユノ、構えてそれを待つヴェンツェルさん。

「お?」 

 もう少しで、ユノの木剣がヴェンツェルさんに届くか……という所で、ユノがジャンプ!

「何!?」

 さすがに回転している状態でジャンプするとは思わなかったのか、驚くヴェンツェルさんの声がここまで聞こえて来る。
 それでもさすがと言うべきか、2メートルはあろう巨漢のヴェンツェルさんより高く飛んだユノが、上から迫って来るのにすぐに対応して、剣を頭の上で交差する。
 ユノの右手に持っていた木剣がヴェンツェルさんの交差した剣に当たる。
 驚いたのは、体は横回転しているはずなのに、剣の軌道は縦だった事だ。
 交差した剣のちょうど真ん中に当たって、すぐに剣が離れる。

「何だと!?」

 続いてまたヴェンツェルさんの驚く声。
 右手の剣が離れてすぐ、今度は左手からのナイフが交差した剣の下からすくい上げるように当たる。
 横から攻撃が来ると予想していたヴェンツェルさんは、その上からの攻撃に驚き、下からの攻撃には一切備えていなかった。
 ナイフでの攻撃なのに、ヴェンツェルさんはあっさり剣を上に弾かれ、万歳するような体制になって完全に隙を晒してしまっている。
 それを見てなのか、ユノからは攻撃は無く、回転したままヴェンツェルさんの前に降りた。

「手加減してるなぁ、ユノ」
「あの状態で、本気でユノが剣を振ったらあの人間が怪我するのだわ」

 そんな感想をエルサと言い合っているうちに、ヴェンツェルさんが剣を下げる。
 ユノが攻撃して来ない事に訝し気にしつつも、再び防御の構え。
 ずっと回転いたままだったユノは、そこでようやくまた剣をヴェンツェルさんに向かって振り始めた。
 最終的に、ずっと二つの大きな剣を狙って攻撃し続けたユノの攻めに耐え切れず、剣を取り落として膝を付き、負ける事になった。

「はぁ、やっぱりユノはユノだな。勉強になるどころか、どうやってるのかわからなかった」
「まぁ、リクには不向きなのだわ。もう少し力の制御ができるようにならないとなのだわ。小回りを気にするより、今は力任せでも良いのかもだわ」

 エルサはそう言うが、俺だって華麗に剣を使いたいという思いがある。
 まぁ、単純に剣に憧れてた頃からの名残みたいなものなんだけど……力任せに剣を振るって全てを薙ぎ払う……というのも良いんだけど、やっぱり華麗に剣を使って技量で圧倒するってのは格好良くて憧れるよね。

「はぁ……リク殿、あの少女は何なのだ? 私の得意技だったはずなのに……1日で二人に使われて……自信が砕け散ったぞ」
「ヴェンツェルさん。ははは、ユノはあの見た目に騙されちゃいけませんね。俺なんかよりよっぽど武器の扱いが上手いですから」

 ユノとの戦いを終えて、ヴェンツェルさんが俺の所まで溜め息を吐きながら近づいて来た。
 その表情はすっかり気落ちしていて、さっきまでの豪快さは無くなっていた。

「……あの少女、今日初めてと言っていたが、本当なのか?」
「本当ですよ。ユノも俺も、ヴェンツェルさんの回転攻撃を今日初めて見ましたから」
「はぁ……初めてですぐに真似をできるものではないはずなんだがな……」

 予想通りというか、自分が切磋琢磨してようやく使えるようになったと思われる回転攻撃を、俺やユノに使われてヴェンツェルさんは自信を無くしかけているようだ。
 まぁ、今までの努力はなんなんだろうと思ってしまっても仕方ないか……。
 ユノはともかく、俺が真似するのは、ちょっとやり過ぎたかな……?

「しかし、色々学ぶ事が多かったぞ。回転のバランスを保つため、横からの攻撃……しかも回転方向からしか攻撃できないと考えていたが……上や下、それこそ逆から剣を振る事もできるのだな」
「そうですね……そこは俺も考えていませんでした」

 ユノは回転攻撃の最中、俺やヴェンツェルさんは回転方向から横の攻撃しかできなかったのに対し、上や下、逆方向からも攻撃を加えていた。
 しかも、回転が止まったと思ったら逆に回転を始めたりと……相手を翻弄するのに十分過ぎる動きを見せていた。
 おかげで、対処できなくなったヴェンツェルさんは、剣を弾かれて落としてしまう事になっていたからね。

「ただヴェンツェルさん。ヴェンツェルさんの持つ大剣では、ユノのような小回りは難しいんじゃないかと思いますけど……?」
「そうだな……しかしそれでも、多少軌道を変える事は可能なはずだ。回転の勢いに任せるだけでなく、動きにも変化を付ける事で、相手を翻弄する……か」

 ヴェンツェルさんの回転攻撃は、横から大剣を幾度も打ち据えて、力で押す事が目的だった。
 剣の軌道がほとんど変わらなかったから、防御をするだけならそこまで難しくないんだよね。
 でも、普通はその勢いと一撃の威力に、いずれは防御を弾かれてしまう事は間違いない。

「そこまで考えなくても良いんじゃないですか? 普通なら今のままで防御し続けるなんてできないと思いますよ?」
「……それを回転を止める事で技を破ったリク殿に言われてもな……」
「あはは」

 自分で言ってても、空々しいと思ってしまった。
 技を打ち破った俺が、普通の相手なら大丈夫と言ってる時点で、自分が普通じゃないと言ってるようなものだしね。
 ……さすがに今の言い方は無かったか……。

「まぁ、今まで破られた事は無かったのは確かだがな。だが私は常に強さを求めたいのだよ」
「強さですか……」
「うむ。この国……ひいては女王陛下をお守りするためにな。私はこの国に忠誠を誓う身だ。この国を守ることが私の使命だと思っている」

 真剣な表情で、国への忠誠心を語るヴェンツェルさん。
 裏表のない性格だから、言ってる事は本当だろうし、姉さんの近くでこれだけ強い人が守ってくれると言ってくれるのはありがたい事だ。

「とは言っても、先の魔物襲撃の時には役に立たなかったのだがな……」
「ははは、まぁ食事に一服盛られたのなら仕方ないですよ。よっぽど注意してないとわからないでしょう?」
「確かにそうだがな……ハーロルトの言うように、もう少し頭の方も鍛えた方が良いかもしれんな……」

 真剣な表情から一転、バルテルに一服盛られて動けなくなった事を笑うヴェンツェルさん。
 ハーロルトさんからは、勉強をするとかそう言った事を言われてるみたいだけど、何となく策を巡らせるヴェンツェルさん……と言うのは想像できない。

「はっはっは、お前にそんな事は似合わんだろう、ヴェンツェル!」
「マックスか」
「マックスさん。新人さん達は良いんですか?」
「そっちはマリーに任せた。ああいうのはあいつの方が得意だからな」

 ヴェンツェルさんと話していると、話を聞いていたのか、マックスさんが笑いながら近づいて来た。
 ちらりと新人さん達の方を見てみると、マリーさんが集団を後ろから剣を振りながら追い回してるのが見えた。
 ……もしかすると、ランニングのような事なのかもしれないけど……その速度は短距離走のような速度だった……この後新人さん達がしっかりと立って歩けることを祈ろう……。


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