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王都の冒険者ギルドへ

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「ご飯は食べないの?」
「すまん、ユノ。もう少し我慢してくれ」
「……わかったの」
「ユノちゃん、後で一緒に美味しい物を食べましょうね。我慢すると、きっともっと食べる物が美味しくなるわよ?」
「そうなの? じゃあ我慢するの!」

 美味しい料理の店に興味があったユノは、残念そうだけど、まだお昼には早いしお腹も空いてないからな、後になってしまうのは仕方ない。
 モニカさんの言葉で、気を取り直したユノだが……さっき朝食を取ったばかりなのにもうお腹が空いたんだろうか……?
 昨日の夜もそうだったけど、エルサと競い合うように大量の料理を食べてたんだけどなぁ……そう考えながら、俺の頭で我関せずとうたた寝しているエルサのモフモフを撫でながら、モニカさんとユノが仲良く歩く姿を眺めていた。

「ここが、王都の冒険者ギルドだ」
「ここがそうなんですか……」

 案内されて歩く事しばし、マックスさんが示した所に冒険者ギルドらしい建物があった。
 その建物は、今まで見たどのギルドの建物よりも立派で大きい。
 まぁ、今までヘルサルとセンテのギルドしか見た事の無い俺だけど、この建物はギルドだと聞かされないと、立派な建物があると思うだけで、冒険者ギルドの物だと気づかなかったかもしれない。

 建物は白塗りの石造りなのに、全ての角が丸くなるように加工されていて、外から見る限りでは4階建て……かな?
 その4階部分と思われる場所の屋根には、さらに上に載っている装飾があって、それが異質な空気を醸し出している。
 その装飾は、丸い形で黄色く、その真ん中から空に向かって赤く細い線のように見える物が突き出している。
 色以外の形で言うと、インドの宮殿の天井部分みたいだな……そんなに大きくないから、そこの空間には人が入るように出来ていないんだろうとは思うけど……。

「驚いただろう? 何でも、この王都に冒険者ギルドを建てた時、務める予定だったギルドマスターが変わり者でな……こんな形を指定したらしいんだ。大分昔の話だがな」
「変わり者のギルドマスター……」

 建物自体が白塗りという事もあって、他の建物と比べても非常に目立つくせに、上に乗っかった丸いアレは、色も相まって非常に異質な雰囲気を醸し出している。
 冒険者ギルドの建物がこれで良いのだろうかと思うけど、まぁ、そこは気にしないでおいた方がいいんだろう……。
 マックスさんの言葉に、俺や姉さんのような異世界出身者が、こんな建物を設計したのではないかと頭に浮かんでユノを見る。

「面白い建物なのー」

 ユノの方は、建物を見て楽しそうに目を輝かせてるだけだ。
 ……まぁ、考え過ぎだよな……姉さんと再会したからって、他に異世界から来た人間がそうそういるとは思えない。
 無邪気に喜ぶユノを見て、頭に浮かんだ考えはすぐに捨てた。

「中に入るわよー」
「はーい」
「楽しみなの」

 入り口を開けて、俺達に声を掛けたマリーさんに返事をして建物の中へ。
 ユノは、珍しい建物に入るのが楽しみなようで、ワクワクしている様子だ。

「ようこそ、王都の冒険者ギルドへ……てか? まぁ、引退した俺が言う事じゃないか」

 先に中に入っていたマックスさんが、おどけて言っている。
 もしかすると、久々の場所でテンションが上がってるのかもしれない。
 ギルドの中は、とにかく広かった。
 外から見た建物も大きかったけど、確かにそれに見合う広さがあるのがわかる。
 ヘルサルのギルドの倍以上はある長いカウンターは、ギルドの受付なんだろう……今でも数人の冒険者と見られる装備をした人達が、職員っぽい制服を着た人と話してる。
 カウンターから離れた場所では、テーブルと椅子が大量に置いてあり、そこでは色んな人達が何かを食べてるみたいだ。
 多分、情報交換の場としても使える軽食屋のような事をしているんだろうと思う……あ、お酒も飲んでるから、酒場かな?

 ヘルサルやセンテのギルドと違う事は、広さもそうだけど、何より人の数だろう。
 カウンターにはほとんどの場所で冒険者らしい人達が、依頼の受注や報告をしているようだし、酒場っぽいところでは、席がほとんど埋まる程の人達がいる。
 人種や性別も色々で賑やかだなぁ。

「ん? おい、ここはガキを連れて来るところじゃねぇぞ!?」
「子供はさっさと帰ってねんねしてな、痛い目に合わないうちにな!」
「はっはっは! あんまり脅してやるなよ!」

 酒場になってるテーブルの端から、俺達に向かって無遠慮な男の声が浴びせられた。
 どうやら、小さな女の子に見えるユノを見てそう言ってるらしいけど……多分、ユノがちょっと本気を出せば、声を出したりそれを見て笑ってる人達全員、返り討ちにあうと思う……。

「はぁ、どこにでも礼儀を知らない奴はいるもんだねぇ」
「こういうところは、昔から変わらんなぁ」
「そう言えば、ヘルサルでも一度絡まれた事があったわね」
「あぁ、そう言えばそうだね。確かあの時は冒険者試験を受けに行った時だっけ。ヤンさんが取りなしてくれたんだよね」
「おかしな格好をしてるの。弱そうなの」

 溜め息を吐きながらマリーさんが言えば、マックスさんが仕方なさそうに言う。
 モニカさんが思い出しているのを、俺が懐かしい感じで付け加える。
 ユノに至っては、声を上げた人達を見てはっきりと感想を口にした。

「はっはっは! 小さい子に言われてんなぁ!」
「うるせぇ! このガキ、俺様を見て弱そうたぁ、どういう事だ、あ!?」
「ガキには礼儀を教えねぇといけねぇよなぁ……!」

 ユノの声が聞こえた男達は、言われた人を笑う人、その言葉に怒って立ち上がる人と別れた。
 立ち上がった人は、俺達を威嚇するように睨みつけながら、こちらに寄って来る。

「あんた達、そこらへんで止めときな。そこの嬢ちゃんを相手にするには、あんた達じゃ役不足ってもんだよ」
「あぁ!? うるせぇな!」
「うるさいのはお前達の方だろう?」
「何だ……!?」
「あ……」
「……もしかしてマックスさん……!?」

 近づいて来る男達に、マリーさんが注意を促したけど、それをうるさいと一蹴して叫ぶ男。
 それに対し、さらに俺の後ろから声を上げるマックスさん。
 男達は、マックスさんを見て動きを止めた。
 ……マックスさんの知り合いかな?

「酔いに任せて他人に絡むのは、関心しないな……」
「品の無い……だから冒険者ランクも上がらないのよ……」
「いや……あの……」
「……すんません」
「どうしたんだお前ら! 急に委縮しやがって! こいつらが何だってんだ!?」
「バカ! この人はあのマックスさんだぞ!」
「逆らうのは止めておけって、敵う相手じゃない!」
「マックス……ってあの、昨日の魔物達相手にも戦ってたあの!?」

 マックスさんとマリーさんが男達の前に立って、睨みつける。
 それだけで3人の男達のうち、2人は委縮した様子になったが、一番最初に声を上げた1人だけはまだ威勢よく叫んでいた。
 でも、他の2人が残る1人を諌めるように言うと、顔を青ざめさせてマックスさんに気付いた様子だ。
 どうやら、マックスさん達は昨日の襲撃で戦って、他の人達にも知られているようだね。


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